蒼眼の魔道士(ワーロック)

神島大和

第1章 始まりの腕輪 -First Magic-

Prologue 1

 それはいつでもない記憶。

 今となっては自分だけが知っている一つの過去。

 崩れた天井からは蒼い月が覗き、降り注ぐ冷たい雪が頬を撫でる。

 それとは対照的に少女の周りでは血みどろの炎が赤く燃え滾っていた。


 ――体は動かない。


 傷だらけの体は重く、まるで今にも地面に飲み込まれそうだ。


 ――心は動かない。


 深い『絶望』が少女の思考を黒く染め上げていく。

 少女はあの時、この場所で、最後まで戦い抜いた一人の少年の背中を思い出す。

 少年が差し伸べてくれた大きな手。その表情は今思えばどこか頼りなく、しかし愛おしい。

 一緒に戦おう、少年はそう言ってくれた。

 その言葉は少女にとってまさに救いだった。自分という存在をただの『道具』から一人の『人間』に変えてくれたから。


 ――少女は空を掴む。


 もう掴みたい手はそこにはない。もうあの温かさに触れられない。


 ――嫌だ。


 少年と歩んだ日々を。笑顔をくれたあの言葉を。

 どれもこれも形のないものばかりだけど、少女の今を確かに形作るかけがえのないものだ。



 故に、これから少女は



 だってこんな結末は認められない。認められるわけがない。

 我儘だろうが偽善だろうが構わない。嫌なのだ。

 だから絶対に変えてみせる。たとえそのために何を捨てることになったとしても。


 この狂った世界でただ一人、結末いまを知る少女だけが、あの少年を救えるのだから。

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