第31話 規則三十条 公認認定とれました

「アヤメ、そこのお醤油とってー」

「あ、シューイチ君ご飯のお替りならウチのも頼む」

「はい、お母様。お醤油です」

「ほいよ。マルタ、こんなもん?」

「吹雪おばさ……いったっー!! 叩かなくても……吹雪おねーさん、僕にもお土産ありがとう」

「ん? 母さんもお替りいる? ん、分かった今はいいか」


 食卓には日本料理が並んでいる、俺の両親が遠い異国の仕事なのでアヤメさんが日本料理を作ってくれた。

 さすがに、料亭に並ぶような奴ではなく、お刺身。焼き魚。お寿司に酢の物、そして何故かこういう時に定番な大量のから揚げまでならんでる。

 なんせ食卓に六人もいるんだ、少しうるさいぐらいだ。


「お母さんびっくり、しゅうちゃんがこんなに喋るだなんて」

「あら、京子さん。秋一くんは普段おとなしいんですか?」

「ええ、普段は私とお父さんだけでしょ。静かな食卓よ~彼女も居ないし平凡な子なのよ~」

「げっほげほ」

「あら、しゅうちゃん。どうしたの?」

「いや、焦って食べたから器官に詰まって」

「まぁ! こんな良い青年なのに彼女も居ないんですか!! アヤメチャンスよ!!」


 吹雪さんが大声で喋る、もちろん知ってるからだ。

 吹雪さんの隣ではアヤメさんが咳き込んでいる。


「あらアヤメも焦って食べたから器官にでも詰まった? 本当仲が良いわね」


 満面の笑みで吹雪さんが喋ってくる。


「こんな料理上手な子なんて、うちのしゅうちゃんには勿体ないですわ」


 最初に色々あったせいで、彼女って紹介するタイミングを逃してしまった。


「さて、母さん。俺たちは明日文化祭だろ、早めに寝ることにしたいんだけど」


 時計をみると二十時を回った所だ。


「寝る所どうする? 俺の部屋でいい」

「秋一くん。開いてるお部屋はある?」


 吹雪さんが俺に聞いてくる。


「はぁ、まだ一階も二階も開いてますけど」

「そうね、確かベッド備え付けだったわよね。私ももう少し起きてるし、アヤメを起こすのはわるいからよければ一部屋かしてくれる? 京子さんと一緒でいいから」


 ウインクをしてお願いをしてくる。


「あら、吹雪さんと一緒だなんて、お母さん嬉しい。それにお母さん仕事先で鉄板の上で寝ていた時もあったから、どんな場所でも極楽よ~」

「どんな仕事場だよ! 行かなくてよかった」

「そうねーこんな楽しそうにしてるんだもん。しゅうちゃんは日本に残って正解ね」


 ちょっとした言葉でドキッとなる。


「まぁ、んじゃ、これが部屋の鍵ね。一般は十時からだから、俺たちは六時半には家出るんで宜しく、八葉も一緒に戻るか? アヤメさんもいこ?」

「そうですわね、それじゃお母様方にマルタさん。お先に失礼させてもらいます。食器などは洗い場に置いといてくださいね」

「あいよーウチはもう少し二人と呑んでから寝るわー」


 俺とアヤメさんは先に廊下にでる、少し離れた場所にある二階への階段下でお互いに顔を見合わせる。


「すみません、私の母が悪乗りしてしまって……」


 小声で謝ってくる。


「いや、俺のほうこそ、吹雪さんに彼氏ですって紹介出来なかったし。俺の母親にもアヤメさんを紹介出来なくてごめん。もちろん、イヤとかじゃなくてタイミングが無くなったみたいな」


 思わずアヤメさんの肩を掴み、誰が見ても男らしくない言い訳をしてしまう。


「いえ、私も緊張のあまり。秋一さんのお母様にちゃんと挨拶を出来なかったです」


 お互い暗い顔をしている。


「ま、なんにせよ明日が本番だし頑張ろうか」

「そうですね、私も二人のお母様の為に頑張ります」


 何故か、お互い無言になってしまう、しかも俺の手はアヤメさんの肩を掴んだままだ。


「あの、私よければ、明日が頑張れる、おまじないが欲しいです」


 勇気を振り絞ったのだろう、何時にもまして積極的だ。


「こういう乗って俺から言ったほうがいいんだよね。でも丁度よかった、俺もアヤメさんにおまじない貰いたかったんだ」

「では、おまじないの交換と言う事で……」

「うん……」


 そっと顔が近くくっ付き合う、お互いの体温が唇でふれあった。


「あのさー……そういうのは誰も見てない所でやってくれると助かるんだけど」


 小さな声で俺とアヤメさんは音も立てずに飛びのく。


「は……八葉見てた!?」

「見てたも何も、僕の部屋は向うだし、此処を通って階段のあっちだって……」

 

 静かに指を差す先は階段の向こう側にある。


「ごめん、御まじないも終わったし。さ、俺も戻るよ。ハッハッハ」


 小さく白々しい笑いをあげる。

 三人と別れ俺も自室に向かう、ふと食堂をみるとマルタが出したのか、テーブルの上には大小様々なビンが並んである。

 布団に入ると緊張したせいなのかすぐに眠ることが出来た。

 文化祭初日だけあって早く行くためにかけた目覚ましを止める。


「ねっむ……」


 二度寝したいがそうも行かない、食堂に飲み物を取りに行く。


「えっ母さんと吹雪さん!」

「おはよう秋一君」

「あらしゅーちゃんおはよう」

「おはようって何やってるの……」


 俺の母親と吹雪さんはともにエプロンをして台所に立っている。


「何ってしゅうちゃん達の朝ごはんを作っているのよ、悪いけど暇ならテーブルを少しだけ片付けてくれるかしら」


 俺はテーブルのほうを見る。

 大量の空き瓶、空き缶と、マルタがテーブルに倒れこんでる。


「まって、先に顔を洗ってくる」


 顔を洗いすぐさまテーブルにいるマルタを起こす。


「おーい、いきてるか」

「んあ? あーシューイチ君おやすみ」

「まて、朝だ」

「もう、朝かいな……いやー酷いわ。姐さんは強いの知っといたけど、シューイチ君の母親。京子さんにまで負けるとは……酒豪のウチが情けない。あーテーブルやな、まってなー今片付けるやさかい」


 俺とマルタがテーブルを片付けはじめる。


「お母様! いったい何を」

「可愛い娘の為に朝ごはんを作ってるんじゃない、中々作る機会が少ないからね、今朝ぐらい黙ってすわっておきな」


 どうやらアヤメさんも起きたようだ。


「いただきます」


 五人で食卓を囲む。八葉はもう少し寝かせて置くとの事。

 食卓にはアジの開き、豆腐、焼き海苔、お味噌汁、たくあんに大根おろしや俺が小さい頃よくせがんだウサギの形のリンゴなども添えられてる。


「しゅうちゃん。お母さんびっくりしちゃった」

「何が?」


 俺は味噌汁を飲む、普段飲んでいるアヤメさんが作る味に似ている。これは吹雪さんが作ったのだろう。


「だって、しゅうちゃんこんな可愛い彼女がいるんだもの」


 思わず熱い味噌汁を飲みほす。


「あっちあち」

「はい、しゅーちゃんお水」


 すぐさま受け取った水を飲み干す。


「なんで! なんでしってるの?」

「昨日の夜ね、吹雪さんから教えてもらったの」


 俺の前を見るとアヤメさんは口をパクパクしてるし、京子さんは笑っている。マルタは得意げな顔してなにやらうなずいているし。


「二人の顔みてな、いいだせないんだろうなーと気をきかせちゃった。夜はごめんなさいね、ちょっとからかって遊んじゃった」


 吹雪さんが小さく舌を出して笑っている。

 俺は意を消して直立不動になる。


「すみません! アヤメさんの彼氏の近藤 秋一です」


 俺の後にアヤメさんも、俺の母親に挨拶をした。


「しゅうちゃんね、お母さん娘も欲しかったのよー嬉しいわ」

「私も息子が欲しかったっておもってたのよ」


 俺たち二人は顔を赤くする。


「なんや、二人とも顔まっかやで、もうそろそろ良い時間とおもうんやけど大丈夫け?」


 時計を見ると六時を回っている。


「あ、やばい。それじゃ俺たちもうすぐ出るから、ご馳走様!」

「いってらっしゃい」


 俺たち二人はそれぞれの母親の声を聞いてすぐに家をでたのであった。

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