第28話 規則二十七条 エアメール

 俺は疲れた心で帰り道を歩く、その足取りは少し重い。

 横には勿論。制服姿のアヤメさんと、久留米も付いてきてる。


「お顔が暗いですが、大丈夫ですか?」

「平気平気雪乃さん、こいつに甘い顔したらダメだ。いやーしかしお前が告白されるとはねーしかも相手はあの鳴神とは」


 俺の肩を強打してくる。


「んーこっちの身にもなってくれよ。久留米、知ってるのか?」

「鳴神財閥、そこのお嬢様だよ。夏休み中に転校してきたってのは聞いていたが、まさか近藤にねぇ」


 含みのある笑いをしている。


「元はお嬢様学校に居たらしいが、何を思ったが一般高校に転入だとさ、案外お前に会いにきたんじゃねーの?」

「そうは言っても、俺は多分初対面だぞ」

「よ、このジゴロ」


 俺の事をからかって来る、アヤメさんの方をみると鳴神、鳴神とつぶやいてる。


「アヤメさん?」

「あ……私、鳴神財閥を知ってます」


 アヤメさんは珍しく困った顔をしている。


「へー有名なんだな、じゃ。俺達はこっちだから久留米も気をつけて帰ろよ、信号では右見て左見て、最後に右を見るんだぞ」

 さっきのお返しとばかりに絡んでみる。


「お前は俺の母親か」

 

俺達二人がじゃれあってもアヤメさんは少し暗い顔だ。

 二人になった俺とアヤメさんは二人で林道の中を歩く。


「さっき困った顔していたけど何かあった? あ、聞いちゃまずかったかな」

「もう、聞いてますよね」


 白い目で見てるが口元は笑っている。


「実は鳴神財閥の、琴美さんのお兄さんと思うのですが。以前のお見合い写真に居たのです」

「へー……それってやばい?」

「どうでしょう。少なくとも琴美さんのお兄さんとその両親は私の秘密を知ってるはずです」


 良い言葉が見つからなくて無言になる。


「その人達ってアヤメさんの秘密は喋る?」

「条約はあるので、それはないとは思いますが。秋一さんに嫌がらせが無いか心配です」


 俺は胸をなでおろす。


「そっか、それぐらいなら良いよ」

「もう、良くありません」

 

 林道を抜けて、アパートに帰る。


「それじゃ着替えてきますね」


 アヤメさんと玄関で別れて、俺も管理人としての自分の仕事を済ます。

 郵便物の仕分けから玄関の掃除。浴場の掃除などなど多種多様だ、これもアヤメさん達と入れると思えば安いもんだ。


「おー、二人ともおかえりー」


 数日前に帰ってきたマルタが食堂から出迎えてくれる。 


「ただいまー」


 ここ数日は俺たちが学校に行ってるから結構寂しいらしく仕事に専念してるらしい、らしいってのは昨夜の晩御飯の時に本人が言っていたので信用性は少ない。


「マルターこれマルタ宛の郵便」

「あ……これって」

「どうしたん?」


 郵便物を受け取りにきたマルタが俺の手の中のエアメールを覗き込む。


「俺の両親からっぽいです」


 こういう手紙って何か照れくさい。


「いい両親やな」

「どうなんでしょうね、今の時代ならメールとかもあるでしょうし」

「メールも便利なのはわかるっちゃわかるんさかい、でも手紙ってのは書く人の気持ちが詰まってるもんやしシューイチ君だってラブレターがメールと手紙なら手紙のほうがええやろ? それも手書きならなおさら」

「そうですね、確かにメールよりも手書きで送られたほうが嬉しいですね」


 俺とマルタが話していると玄関の扉が大きく開く。


「ただいま……」


 ぐったりした八葉が帰ってきた。


「マルタとシュウか、ああ、クラスメイトが放課後にボクをサッカーに誘うもんだからこんな時間までかかった」


 どうやら八葉にも友達が出来てるらしい、俺は心の中で素直に喜ぶ。


「勝ったのか?」

「当たり前だ、僕が負けると思ったか。と言いたい所だが、負けた。明日リベンジを約束して帰ってきた、力を抑えての勝負だからな、明日はもう少し力を出すつもりだ、そもそもか弱い女の子をサッカーに誘うか、あいつらは」


 負けたのが悔しいのがブツブツ言っている。

 なるほど、八葉が本気でサッカーをしたらボールが破裂するか大砲のような威力なんだろう。

 二階から普段着に着替えたアヤメさんが下りてくる。


「八葉もお帰りなさい。皆さん今日は冷やし中華にしようと思いますが、よろしいでしょうか?」

「お、いいねーウチも手伝いするさかいちょっとまっててなー」

「僕はシャワーを浴びてくる、こんな格好だからな」


 サッカーで泥だらけの服をみている。


「それじゃ俺も一段落ついたら食堂いきますよ」


 夕食中はまったりと会話を楽しむ。


「へーシューイチ君もてもてやなー」


 話は今日の昼間の告白騒動の話題だ。


「俺も数ヶ月前なら良かったんですけどね、今はアヤメさんという大事な人がいるので」


 歯の浮くような台詞を混ぜてみる。


「君は……シュウは暑さで頭がやられたか」

「ちがうわ」


 俺の横ではアヤメさんが少しだけ赤い顔をしている。


「私も突然で驚きましたが、新しいお友達が出来ました」

「友達かー……」


 少しマルタが暗い顔をしている。


「マルタ、どうした?」

「いや、ウチの悪い癖や友達ってどこまで秘密を共有出来るのかなとおもってな」


 その言葉の意味をさとって一気に食卓が暗くなる。


「スマンっちゃ。ウチの悪い癖や」


 両手を合わせて謝っている。


「親しき仲にも秘密ありでしたっけ? 本当の友達なら例え力が無くてもあっても、ばれたとしても受け入れてくれると思うんだ」

「シュウ、良い事いうな。でも親しき仲にも礼儀ありだ。本当に高校生か?」

「地味に馬鹿にしてるだろう」


 正面に座っている八葉の髪を撫で回す。


「こら、やめろ! 吹っ飛ばされたいのか」


 色々問題はあるんだろうか、食卓に笑顔が戻ってきたのでよしとする。

 夕食後自室にもどった俺は両親からの手紙を読む。

『やっほーしゅうちゃん元気ですか? こちらは暑いです。一人日本に残った、しゅうちゃんが少しだけ心配です。話がそれました、お父さんとお母さんの仕事が少し起動に乗ったのでお母さん数日休みが取れそうです。その間に一度しゅうちゃんの顔を見に行こうかと思ってます。九月末には帰れると思います。ps学校に確認したのでしゅうちゃんの文化祭が見たいです』

 黙って手紙を見つめる。


「は?」


 文化祭の日に母親が来るとしか書いてない。

 もう一度、読み直してる。


「しかも起動の文字が違うじゃーねか、軌道だろ。って問題はそこじゃないな……」


 泊まるのはこのアパートか近くのホテルだろう、問題はこの状況である。

 彼女がもいるし、住んでる入居者は全員いわくあるし、学校だって……今日の昼間を思い出す。

 文化祭までまだ数週間あるのに俺は頭を抱えてしまうのであった。

 よし、とりあえず手紙は見なかった、そっと引き出しにしまう。

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