第23話 規則二十二条 転校生は突然に

 朝から俺は一人自室で慌てる。


「時計に教科書、あとはなんだ! サイフだ」


 夏休みの最終日でる前日まで旅行に行っていたので、今日から登校なのである。

 事前に用意をすればよかったが、昨日は疲れて直ぐに寝てしまった。

 鞄に色々詰め込み食堂に駆け込む。


「あ、皆、おはよう、アヤメさんの学校も今日から登校なんじゃない? 八葉は平気なのか? あ、マルタおはよう、あれテンは?」

「おはよう御座います。私はもう少し後に出ますので」

「以下同文」

「おはよーさん。学生も忙しいねーウチもちょっと午後から出るさかい、帰りは明日になるへよ。テンちゃんは里帰り。一応あれても権力はあるさかい、今回の事で色々あるんやろ」

「そっかーちょっと寂しいな」


 それぞれの返事が返って来る。


「了解。それじゃ、俺は先にでるので各自自室とアパートの鍵持ってくださいね」

 食堂からパンを一つ口に挟み、外の自転車に飛び乗る。

 しかし、全員が鍵をもってアパートを留守にするなら俺の管理人としての価値はあるのか?。

 そんな事を思いながら自転車をかっとばす。


 道中数人の学生服の人を追い抜き校門へと滑り込む。

 時計を見ると八時二十分、一時限まであと十分しかない。

 急いで廊下を走り教室へと飛び込む。


「セーフ!」

「アウトだ馬鹿者」


 俺の頭を出席簿で叩く女こそ、加賀見坂 恭子(かがみさか きょうこ)スーツ姿をピシッと決めて、名前のイメージ通りしっかり者の姉御肌の先生だ。

 生徒の事を思ってくれてるし、悪い事は悪いとしかってもくれる、その性格から生徒、教師ともに受けはいい。


「そもそも十分前には教室に入ってろ。ま、夏休み明けだ。大目に見てやろう、それにお前の家大変なろ?」

「は?」


 俺の間のぬけた言葉に、怪訝な顔を向けてくる。


「両親はそのなんだ……借金で夜逃げしたって聞いたぞ。その後に近藤、お前が高校に通うのにタコ部屋で女王のような奴にコキ使われるって」


 俺にだけ聞こえるように喋ってくれてる。


「半分以上はまったくの事実無根です、何処からそれをっても犯人はわかりますけど」

 俺と加賀見坂先生で生徒の一人をみる。

 

 そう晴嵐高校ニ年A組新聞部、久留米 翔が俺の隣の席で笑っている。


「また久留米か……まぁ半分は合ってるんだし多めにみてやるか」

「近藤も早く席につけHR始めるぞ」


 先生に促され席に行こうとする。


「うい。いって、ハイ」


 生返事をしたら無言で頭を叩かれた、この先生じゃなかったら体罰問題が起きるんじゃないかと思うほどなんだが、一部の生徒では加賀見坂先生に叩かれて喜ぶ奴もいるので問題は大きくならないだろう。

 むしろ他の男性教師も影では叩かれたいと言ってるぐらいだ。


「よっ!」

「おっす!」


 俺と久留米は短い挨拶をして友情を確かめあう。

 教壇(きょうだん)では加賀見坂先生が生徒の顔をみながら夏休み中に誰も欠けなかった事を喜びを混ぜて話している最中だ。


「さて、お前ら今日は転校生を紹介するぞ、連れてくるからちょっとまってろ」


 言い残して教室から出て行く。


「転校生? 久留米、何か知ってるのか?」

「いや、俺も初めて聞いたな多分女かな」

「なんで分かるんだ?」

「あの先生、明らかに男子に向かって喋っていたからな、女子に向かって話してる感じではなかった」

「ほーそんなもんかね」

「所で近藤、お前美人外人との生活はどうよ、色んな意味で一皮向けたか?」

 以前コンビニであった時マルタとの出会いの事を言ってるのだろう。

「そうだ、お前は変な噂を色々流すな! それに別にマルタと付き合ってるわけじゃないぞ」

「もったいねーなーだって、一つ屋根の下だろ?ラッキーイベントぐらいは起こらんのか?」

「まぁ、あ。それより先生がくるみたいだぜ」


 返答に困り話を切り替える。

 ラッキーイベントなぞ何度起こった事が、しかしそれを喋るわけにはいかない、変態と思われる。


 先ほど出て行った先生が制服を着た女生徒を連れて戻ってくる。


「名前は、自分で書けるな」

「はい」


 俺はその黒板に書かれた文字を状態を脳が停止した状態で眺める、周りの男子は女生徒の美貌に騒いでる所だ。

 女子も転校生というので熱心に見ている。


「で、今日から一緒に学ぶ仲間だ。あー男子諸君騒いでる所を申し訳ないが、既に彼氏は居るみたいだぞ。な! 近藤」


 笑いながら喋る先生の一言に突然の名指しにクラス全員が一斉に俺をみる。


「雪乃 アヤメ(ゆきの あやめ)と申します。皆様残り1年半ですが仲良くお願いします」

 

 確かにアヤメさんは同じ年齢なので高校生なのだが、同じ学校に通うとは思ってなかった。

 全然お嬢様っぽいし、もっと別の、ああ、たしかにあのアパートからはこの高校は近いけど……頭が混乱している。

 クラス全員に見られた俺はというと、見慣れた笑顔を此方に向けお辞儀するアヤメさんを眺めるのであった。

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