第15話 規則十四条 裏人格に魅せられて

 朝から大雨が降っている。

 TVでは台風情報が映し出されてる。

 各自部屋にはテレビがあるのに、決まったように食堂に集まってくる。

 マルタ曰く寂しいやろ。との事だ。

 TVの前では俺と昨日からいる八葉が画面を見詰めてる。

 心此処にあらずと感じであった、アヤメさんは今だ目画覚めない。


「雨かー……洗濯物がかわかん」

 

 俺の横で聞いていたのだろう。


「僕は雷が怖い」

「ふーん」


 八葉の言葉を流す。


「あ、そーいえば八葉。家に電話したか?」

「大丈夫、ちゃんと移転の手続きを申請した」

「そうか。ちゃんと移転……は?」

「住むの? ここに?」


 突然の事で大声を上げる。


「耳元で騒ぐなニュースが聞こえない」


 耳を押さえつつ迷惑そうな顔で俺を見ている。

 ポテチを片手にソファーに座ってくるマルタ。


「ほれ」


 突きだされたポテチ袋に手を突っ込む。


「いや、八葉も住むって言ってるし俺ちゃんと出来るのかなーって思って」

「ふむ。大丈夫やろ」

「僕の悪口なら別な所で言ってくれ」


 こっちを見て喋る。


「違うわ。全員が暴れたら俺の体が持たないって意味だよ」

「ふむ、暴れないから安心しろ」


 両親が不在の多かった俺は新鮮な感じである。


「ほら、見覚えないですぅ?」


 テンの声が聞こえたので後ろを振り向くと、ラフな格好のアヤメさんが頭を抑えながら食堂へと入ってきた。


「無い、貴様らか、話しに出て来たのは」


 突然の事で言葉も出ないとテンが説明をしてくれた。


「んーどうやら記憶喪失ですぅ。自分の事も皆の事も余り覚えてないようですぅ」

「まじで! アヤメさん俺だよ秋一」


 俺の言葉にアヤメさんが睨みつけてくる。


「難だ、なれなれしいな、その小さいのが八葉でデカイ方がマルタか。ふん話通りに人はいるなっ」


 吐き捨てるように喋るアヤメさんに俺は戸惑いを隠せない。

 これからどうしようかとマルタを見ると目を細めていた。


「ウチの事も覚えてないんか、寂しいやっちゃな。んでアヤメは高飛車な自分自身の力は覚えているん?」


 挑発するような言い方にアヤメさんの目も細くなる。


「残念ながら記憶は無いが知識はあるぞ。なんならその首を我が氷で切ってくようか?」

「ウチの首を取るには殺気がないけどな、やりたくはないけど、腕の一本でも折ってみせよっか?」

「ふ、二人とも喧嘩はダメっほ、ほら外は嵐だし」


 必死で外を指差すと全員がその雨を見る。

 『興ざめした』とソファにどっしりと座るとその長い足を目の前で組み始める。

 リモコンを片手にチャンネルを次々と変えていく。

 沈黙が辺りを包み、TVの音だけが空しく食堂に響く。


「さてと……今日は早めに雨戸を閉めようと思いますので、お風呂など早めに入るようしてもらってもいいです?」


 この空気を打開するべく俺は全員に提案してみる。


「せやか。この天気だし、しゃーないな」

「ボクは昨日入ったし別に今日入らなくてもいい」

「はっちゃん、におうよぅ」


 テンに指摘されて服を嗅ぐ八葉を他所にアヤメさんからの返事はない、その顔色を伺ってみた。


「なんだ、アタシにも言っていたのか、アタシも別にいい」

「よっしゃ、それじゃウチも先に入るさかい。シューイチ君も一緒にはいろうや」


 ぶーーーーー。俺は飲んでたお茶を噴出す。


「馬鹿野郎! 僕にお茶を掛けるな。汚いだろ」

「おいお前、コイツは私の恋人って言ってなかったか?」


 アヤメさんと八葉が同時怒る。


「いやーだって、ウチだけシューイチ君と一緒に風呂入ってないやろ。シューイチ君だって女性と一緒のほうが楽しいと思ってなー、それに恋人だったのは記憶がなくなる前のアヤメだしー今のアヤメには関係ないんじゃないけ?」

「マルタ、笑えない冗談はやめて」


 俺は慌てて首を振ると尚も続けてくる。


「こんなちんちくりんな体系のアヤメとお風呂ったらシューイチ君も可哀相やし、これを気にウチに乗り換えない、ウチはボインボインやでぇ」


 その豊満な胸を俺の肘へと当ててくる、柔らかい感触が全身へと伝わる。

 

「なっアタシだって脱いだら在るわっ!」

「とてもそうは見え経んけどな、無い奴は皆そういうんや」

「なんなら確かめて見せてもっ!」


 ムキになるアヤメさんに途中から笑いが堪えられない顔のマルタを俺は黙ってみていた。


「なら、確かめようか。よし全員で風呂や。ウチと二人で確かめたって証人がいるやろ?」


 俺とアヤメさんの手を引っ張って風呂場へ向かうマルタに、後ろからは嫌がる八葉の手をひっぱってテンが続いていた。

 どうしてこうなった……。


「いやいや、ちょっとまって。おかしいでしょ。俺の意見は?」

「本心は?」

「凄く嬉しいです」


 マルタに本心を聞かれ思わず素で答えてしまうと脱衣所へ放り込まれる。

 ここは天国か。


「おい、余りおねーちゃん達を見るなよっ」


 横で服を脱ぎ始めた八葉は俺に手ぬぐいを手渡してくる。

 

「あれ?」


 後ろを見ると既に下着姿の二人が俺を見ていた。黒い大人の下着をつけたマルタに青い上下の下着を隠す事も無く見せ付けるアヤメさん。


「婚前前だしなぁ、一応って事で目隠しや」

「で、ですよねー付けさせてもらいますっ」


 腰にはタオルをがっちりと三重に巻き鉄壁にしてから目隠しをする。暖かい手に導かれ浴室へと良くとシットリトした空気が肌に付く。 

 外の嵐など気にならないぐらいだ。


「アヤメおねーちゃん、おっきい」

「だろう、そこにいる犬も大きいがアタシだって中々のもんだろ」


 八葉の声がお風呂場に響く。直ぐにテンの声が聞こえてきた。


「感度はどうですぅ? えい」

「わっ。やめっ先端を摘むなっ!」


 テンが悪戯している声が聞こえ俺は暗闇の中で気持ちを落ち着かせる。

 少し温めのお湯を体に掛けられたかと思うと湯船へと誘導された、俺からは見えないがその姿はきっと介護されたお爺ちゃんにそっくりだろう。

 俺達はお湯に漬かってのんびりと肩まで浸かるお湯が気持ち良い。


「どや、シューイチ君パラダイスやろ」

「そーですね。これが無かったら。いや今のままで最高です」


 目隠しの部分を指で指す。


「素直に言ったらコッソリ外してあげたのに」

「ふー。風呂は良いものだな。しかしコイツとアタシが一緒に入る理由は無かったような気もするが。証人ならそこのチビスケ二人で良いだろうに」


 そのチビスケは泳ぎの練習をしているのが、遊ぶテンに対して八葉が注意している声が聞こえる。


「まぁまぁ、ええって事や」

「おい。犬コロ、アタシの記憶をこんなにした奴は心当たりあるのか」


 真面目な声が聞こえてきた。


「無い事もない、妖怪っていっても意見が統一してるわけじゃないやし。穏健派も過激派も我関せずって一派もおるねん。妖怪と人が一緒に暮らしているのが見てるのが気に食わなかったんだろうなぁ。ここでアヤメが死ねば共存派は二の足を踏み……」

「過激派の力が強まる、か……」


 言葉を紡ぐようにアヤメさんが喋る。


「生憎とアタシは以前の記憶が無い、無いが。人の命を簡単に取る様なやからは許せんなっ」

「そやねぇ。それとな、ウチはマルタやっ! 犬コロじゃなかよ!」

「わ、馬鹿やめろ。お湯にしずぶくぶく、沈めるなっ!」


 お湯に沈められたアヤメさんが俺の体を掴むと、必死で体勢を整えている。

 ぷるんとした胸が綺麗で濡れた髪が色気を引き立てる。

 その姿を見てニヤニヤと笑うマルタは湯船の端に腰掛ていた。


「なんだ、お前。変な笑いをして」

「いやーアヤメの右手に持っているもん何かなと思ってな」

「別に普通のタオルだぞ?」


 そう普通のタオルなのである、しかし先ほどまで俺が目隠しをしていたタオルだ。

 気付いたアヤメさんが、俺の方をみると見る見る顔を赤くしている。


「この馬鹿者があああああ」


 顔面に白い塊が付くと窒息しそうになった。雪の塊で死ぬ。

 

「へーっくちん」


 風呂に来たのにクシャミをしながら体を洗う。直ぐにテンと八葉が氷の塊を取ってくれ何とか死なずにすみ、今はこうして新しい目隠しをしながら体を洗っている。

 

「災難だったなー、シュウイチ君。いや災難でもなかったか? どれマルタおねーさんが背中でも洗ってやろう、どうせアヤメには出来編事だからなー」

「ぶ、いいですって」


 俺が返事をする前に背中を洗い始めるマルタ、直ぐに手が止まる。


「おい、それはアタシに喧嘩を売っているのか? この男の背中ぐらい幾らでも洗ってやる」

「せやかーさすが恋人だっただけの事はあるな、流石や」

「ふふふ、だろ?」


 目隠しで見えないがアヤメさんの勝ち誇った声の聞こえる。


「んじゃ。背中はウチが洗うさかい。前のほう頼むんねん、ほれスポンジ」

「まっ前っ!」


 アヤメさんよりも俺の声が先に浴室に響く。


「この馬鹿野郎、アヤメおねーちゃんに変な事させるな。ま、前ぐらい自分で洗えるだろう」

「テンが代わりに洗うですぅ」


 直ぐ側で八葉達の声が聞こえた。


「洗えるって。アヤメさんも大丈夫だから、ほらマルタも変な事言わないって」

「ほうほう、何時も風呂を一緒に入ってるくせに今更ですなぁ」

「何時もってマルタッ」


 非難の声を上げるとドスの効いた声が頭上から聞こえる。 


「おい。アタシとお前は何時も風呂に入ってるのか?」

「何時もっていうか……い、一回だけです」

「貸せっ! 前のアタシに出来て今のアタシに出来ない事はない、洗ってやる」


 俺からスポンジを奪うと胸の所に激痛が走る。凄い勢いでスポンジで体を洗っているからだ。


「痛い痛いっもう、もうすこし優しく」

「いちいち文句の言う奴だ。こならどうだ?」

「ちょ、丁度良いです」

「なぁ、お前、アタシの記憶が戻って欲しいか?」


 耳元で聞こえる声に直ぐに返事は出来なかった。

 もしも、もしも記憶が戻るとしたら今のアヤメさんはどうなるんだろうと過ぎったからだ。直ぐに耳元で言葉が続く。


「そんな泣きそうな顔をするな。優しいなお前、なに命に代えても戻してやるよ」


 体を洗ってもらった俺は湯船に浸かる、流石に最後までは全員一緒ではなく女性陣は先に湯船から上がった。『物音が無くなってから目隠しを取ってですぅ』と注意を受けた俺は全身系を耳に集中して静かになるのをまった。

 何度も途中で外そうかと思ったが悩んだ結果か外さないチキンなのである。 

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