第13話 規則十二条 怪力フンガー

 朝からビールと饅頭を食べてる寮の人を横目に俺はセッセと働く。

 釘と木の板をもって二階や屋根裏に登る。


「よーはたらくなー」

「明日にも台風ですよ! 台風。雨漏りする場所を教えてもらったので修繕と終ったら課題もしないといけないので」

「えらい!」

「褒めるなら何かてつだ……いや俺の仕事ですし、どうしても手が足りない時はお願いします」


 ビールを片手に驚いた顔をする。


「男の顔になったやね」

「ふと、疑問におもったんですけど、マルタ達って仕事してるの?」


 達というのはビールと饅頭を食べているのはマルタ以外にも大人姿のテンがいるからである。


「しとるよ。言ってなかったっけ? 警察」

「またまた~どうで、捕まるほうの仕事でしょ」

「あっはっは、確かにマルちゃんに警察は似合わないよねー」

「ひどーない? テンちゃん」


 豪快に笑うテンとブツブツと文句をいうマルタ。

 突っ込んで聞いてみようと思った矢先。二階からアヤメさんが下りてきた。


「おにぎり作ろうと思うのですが秋一さんもどうでしょうか?」

「頂きます」

「食べる!」

「テンもー」

「はいはい。全員分作りますので少々お待ちを」

「それじゃ、その間に屋根裏の通路塞いできます」

「はい、お願いします」


 屋根裏の通路とは以前マルタとテンがアヤメさんの部屋へと侵入した通路だ。一通り塞いで戻ると豪勢なお握りたちが食卓に並んでいた。

 どれもこれも一級品で四人で仲良く食べ始める、幸せだと噛み締めると玄関から爆音が聞こえた。

 

「おねえええええちゃああああああああああああああああんんんん」


 耳をさくような声。


「なに?」


 突然の音と声に椅子から立ち上がり身構える。隣のマルタ達を見ると物知った顔をしている。


「面倒な奴が、場合によってはおもろいか」

「あ、この声ってっ」


 マルタは変な顔をして、アヤメさんは困った顔をしてる。なるほど二人が緊急な顔をしてない所をみると知り合いだろう。妖怪の……。

 どれどれと身構えていると、足音は玄関を抜けて真っ直ぐ食堂に向かってくる。

 小さい頭の子供がアヤメさんの着物に抱きついた。


「子供……?」


 着物に抱きついてる子供を唖然として眺める。

 短めの髪に現代風のTシャツ、動きやすいズボンに土足のまま食堂に上がっている。

 

「こらこらアヤメさんが困っているだろ? 誰かは知らないけど取り合えずお兄ちゃんに自己紹介してくれるかな?」


 俺は着物にへばりついてるガキ、もといお子様を剥そうとする。


「あ。やめときー」


 マルタの声を最後まで聞く前に俺は壁に吹っ飛ばされた。

 壁に激突するはずが背中がクッションのような物で柔らかい感触が包む。

 背中をみると、マルタが投げたのだろう座布団とその後ろには真っ白で綺麗な雪が積もっている。

 前を振り返ると、此方に手をかざすアヤメさんと投擲ポーズのマルタ、その横では座布団をお手玉にしているテンが居た。

 少し怖い顔したアヤメさんは子供の頬を叩くと力なく倒れてしまった。


「アヤメさん!」

「安心なのが解ったからかやろ。すぐに目覚ますや」


 マルタが俺に伝えてくれる。

 子供のほうは叩かれたのがショックだったのだろう。眼には大きな涙を溜めたまま反応がなくなった。


「どうしようこの状態」


 横にいるマルタに相談する。


「せやな……とりあえず飲む?」


 ビールを投げてくる。


「受け取ったけどコーラでいいです」


 子供はほっといて、アヤメさんをソファに寝かす。そのついでに冷蔵庫からコーラを取ってくる。

 子供に声を掛けるが、反応が無いプルプルとしている。


「その子はまぁ、さっきので分かると思うが、妖怪や」

「でしょうね」

「日本では一つ目小僧とも」


 マルタの説明を継ぐようにテンが説明してくれる。

「ただ海外の国じゃサイクロプスとも」

「どーりで……」


 その怪力で吹っ飛ばされたわけか。周りが庇ってくれなかったら全身ミイラ男になる所だ。

 説明を聞いているとソファーのアヤメさんの顔が動く。

 急いで近寄ると、後ろから押し倒せと雑音が聞こえるが聞こえないフリをする。


「すみませんでした秋一さん」

「あ、気付いた? 俺こそありがとう守ってくれて」


 ソファの上でまだ少し青い顔のままのアヤメさんがこちらを見てくる。

 『少しお待ちをと』言い俺の目の前を通り過ぎ、すたすたと一つ目小僧の前に歩いていく。

「八葉(はちよう)どうしたのです、急にこんな所にきて。それに力を使うだなんて謝りなさい」

 覗きこむように小僧の顔を触る。

 行動はやさしいが、その言葉にはりんとした力強さがある。

 それに気付いたのだろう。急に泣き出す。


「だってえええええあやめおねえちゃんがああああああああこんなクソみたいな人間と一緒になるってえええ」


 クソみたいな人間でわるかったな。


「あの子な、確かアヤメの自称元婚約者なはずや」

「ええええええ」


 俺はアヤメさんと子供を交互にみる。


「確かにそんな話もありましが、それはお爺様がかってに行った物ですし、生まれる前の約束事でしたし」

「それがこんなクソ人間なんかと……グスグス」

「こら。秋一さんに謝りなさい」

「僕だって優秀な人間になら敗れたっていいんだ。なんでこんなとりえのないような人間と一緒になるんだよ!」

「私は自分の眼で信じた人を信じます。これ以上言うと本気を出しますよ」

「で……でも!」

「はちよう」


 区切るように喋るアヤメさんのその一言で場は静になる。


「もてもてやなー」

「よ、ジゴロ」


 大人二人の在りがたい褒め言葉を貰い、俺はこの場の空気を納めるために八葉に近づく。


「ほら。俺が悪いわけでもない気がするが仲直りの握手だ」


 八葉が驚いた顔でこちらを見てくる。


「馬鹿か? さっきの力を見ただろ、お前は化物と握手など正気か? 僕が握りつぶしたらどうするんだ」


 にっくたらしい。


「子供は変な事気にしなくて良いんだよ!それに俺は秋一って名前があるの!別に化物ってもちょっと変わった力があるぐらいだろ。そうだな、握りつぶしたらアヤメさんに看病してもらうよ。ほら、握手し終わったら玄関治しに行くぞー。壊したんだから手伝うよな」

 

 無理やり握手を交わして、そのまま八葉を玄関まで引っ張る。


 俺の後姿をマルタとアヤメさんが見ている。


「ああいう所にアヤメはほれたんやろ」

「ええ」

「私はマルタさんとも仲良くはしたいですが、恋のライバルでもいいですよ」


 女性達になった食堂でアヤメはマルタに喋りかける。


「んーシューイチの事は好きやが、アヤメも好きや。ウチの楽しみは二人が良い仲になる事やから」

「有難う御座います」

「アヤメちゃんにマルちゃん良い方法があるよ、さん……」

「テンさんっ! マルタさんも手を付かないでくださいっ! そりゃ、秋一さんがそう望むなら私だって居たし方ないと……ってあのですね。すぐそうやってから……」


 背後が煩いが八葉を連れて玄関の惨状をみて深く考える。

 どうやって直そうと。

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