何かようかい、夜桜荘へ (旧妖○荘の管理人になりました。)

えん@雑記

第1話 規則零条 ようこそ夜桜荘へ

 『簡単管理人の仕事です共同アパートです。要住み込み。月報酬三万 風呂トイレ協同 訳アリ ※高校生相談可』

 そんな夢みたいな物件の広告を見つけたのは、まさに赤鼻の中年男性が電柱に張り紙を張ってる最中だった。


「おおおおおおおおおおおおおお」

 

 俺は突然声を上げる。

 張り紙をしていた男性は俺の奇声にビクっとなる。


「すみません! その張り紙! ほ、ほほほほーほけっきょ」

「君、病院はあの角の向こうだよ」


 赤鼻の中年は真っ直ぐに総合病院の方角を指差す。

 首をブンブンと横に振り必死の事で張り紙に手を叩くと、落ち着きたまえと両肩に手を置いてくる。


 そんな出会いで男性に声をかけたのは、来月から夏休みが待っている。高校ニ年の近藤こんどう 秋一しゅういちである。

 

 遡る事一週間前。一家団らんと言えば聞こえがいいが、さほど広くない居間に父親と俺がナイター中継を見ていた。

 父親がビールを手に画面上の選手をみると、審判のアウト! というサインで実況も加熱する。

 

「どうだ、秋一、お父さんとお母さんと一緒にアマゾンにいかないか?」

「全力でお断りだ!」


 俺は力の限り叫ぶ。突然の事で驚き突っ込みはしたが、マジマジと隣の顔を覗き込む。

 来月だって、来月といえば八月だ八月といえば高校もなれてきて楽しい夏休みが待っているのに何故にアマゾンなんぞ行かないといけない。

 実の所俺の両親は実際何をしてるかわからないのだが、会社の重役らしく家に居ない時が多い。数々の出張と言っては全国またにかけ家にいなく此間はエジプトのお土産などを持ってきた。

 母親も父親と仲が良く、父親が『これじゃー浮気も出来ないな』と言った所。『あら私はしてるわよ』と真顔で言われて父親が泣きながら『冗談だろ?』と謝っていた事を覚えている。


「なんでアマゾンなんだよ! ニューヨークとかおしゃれな所は無いのかよ。どっちにしても俺は行かないけど」

「そんな事言うけどしゅうちゃん。特に特徴ないじゃない、身長170も体重も70キロでしょ? 得意な物もないようだし、彼女も居ないでしょ? アマゾンに留学経験ありますって将来就活に役に立つわよ?」


 俺の否定に母親が台所からビールと枝豆、さらにショートケーキという謎のチョイスで口を出してくる。


「そ……特徴ないのはいいの! 彼女も夏休み中に作るから! とにかく、俺は行かない! そもそもそこ何語だよ」

「ブラジル語や英語、場所によっては日本語もいけるとおもうぞ」

 

 枝豆片手に的確に言う父親。


「しかしなー、秋一も連れて行くきだったから、このアパート来月で入居期限きれるぞ」

「な……」


 二の次が告げないとはこの事だ。


「どうしても日本に残るなら家賃三万ぐらいで物件を探してこい、こう見えてお父さん貧乏でな、何ちょっと危ない深夜のバイトでもすれば平気だろう」

「高校生は深夜バイト禁止なの! わかってんの? で、でもさ、三万は出してくれるって本当?」

「ああ、その代わり小遣いは無いぞ?」


 次の日から不動産屋を回るも、高校生一人で家賃三万の物件は中々ない。

 しかも、学生の一人暮らしとなると近隣のトラブルも避けるために何処も断れる。

 今日も収穫ナシかと思っていた帰り道の出来事であったのである!。


「お、君この物件入りたいの? ふむぅ。男の子かぁ」


 値踏みするように見てくる赤鼻の中年。


「自殺者や幽霊が出るとかですか? そんな事ぐらいだったら平気です。来週までに住む場所を探していて!」

「自殺者も居ないし幽霊も出ないな。ただ……その家に一人女の子がいるぐらいかな」

「女の子!? あ、実は女の子といっても50代の性格が悪い人とかですか?俺は平気です!」


 実際は性格わるい女性と暮らしたら平気じゃないが、他にこんな好条件の物件なんてあるはずがない。

 ニヤリとして俺の顔見てくる。


「歳も十六才かな、性格は天女のようだぞ~冷たいと思われがちな性格も非常に暖かい。しかもだ! 彼女もいろいろあって最近引っ越してきてね。簡単に言えば、そのアパートは彼女の持ち物であって管理人を探してる。なにせ古い物件を改装したばっかりだからね……うん。オジサンも張り紙張るのも疲れてきたし、立ち話もなんだ、近くに喫茶店あるからそこに行こうか。暑いからね」


 俺には神にみえる男性の後を付いていき一緒に喫茶店に入った。

 喫茶店で向かい合ってコーヒーを頼む。


「君は何がいい? コーヒー一つじゃつまらないだろう。好きな物をじゃんじゃん頼みたまえ。おーい、君。この端からこっちまでを頼む」


 びっくりする俺の顔を見ながらニコニコしながら、


「いいから、いいから経費で落とすんだし」


 と手で押さえる。

 さっそく俺は、向かいの男性に事情を話す。


「ふむふむ。秋一君は、両親が海外に行く為に家を探してる。と、しかし喫茶店にしては食べ物を美味しいね。このトーストも中々」


 座って直ぐもらった名刺には山 天太郎やま あまたろうと書かれてる。


「そうなんです、多少のわけありなら全然平気です。あ。でも、俺が男でもいいんでしょうか……」


 ハンバーグを食べる声のトーンが下がっていく。


「ああ、性別か。女性のほうが好ましい気もするが、こういうのは男性のほうが問題もないかもしれんな。この女性同士はサンドイッチのように仲が良くても裏ではわからんからなぁ」


 ゆっくりとアイスコーヒーを飲む山さん。


「しいて言えば、性格が良さそうな人。その点君なら平気そうだな、近藤くんが襲われるのが心配なら部屋は沢山あるんだ離れて暮らせばいい」

「俺が襲われるんですか!?」


 俺が襲われるぐらい肉食系の女の子が一緒なのか……可愛い子なら是非に襲って貰いたい、想像し始めると声が掛かる。


「冗談冗談、先ほども言ったけど実はアパートがちょっと古くてね。木造なんだ。庭も荒れてたりするので中々やってくれる人がいなくてね~、虫も多いし。小さな声で言うがゴキブリなども出るんだ」


 しかも、と突然声のトーンを落として小さな声で喋ってくる。


「住んでるのもまだ彼女しかいない」


 俺は意味ありげな言葉に心臓がドキュンとなる。


「今は一人で住んでるがゆくゆくは人数も増える。とても彼女一人じゃ間に合わないんだ。秋一君がやる気があるならこちらとしても助かるのだが」


 俺が思っていたより全然好条件だ。なんせ家賃が三万所が逆に三万貰えるんだし。

 女の子もいるし、しかも高校生可、ぴったりじゃないか。


「是非にお願いします」

「それじゃこちらにサインを、何簡単な事だ」


 契約書を軽く見る、面を見ても裏を見ても二行しか書いてない。


 一 死んでも文句は言わない。周りでは事故扱いにする

 ニ 月々三万円の報酬 要 働きぶりにより変動あり


「あの! 冗談で……すよ……ね」


 顔の笑っていない山さんはひっそりと耳打ちをする。


「考えてみたまえ、女の子と二人っきり。しかも相手はぴちぴちだ。顔だって美人だぞ、ちょっとハプニングなんかあったら、おっと。君はやる気が無かったんだな。別な人を探すよ」


 紙を鞄に戻し伝票を片手に直ぐに席を立とうとする山さん。

 その腕にしがみ付く。


「まって。まって! 何もやだなー全力で励みたいと思います」

「よし、そうか? 其処まで頼まれたら、しょうがないなー。早速挨拶にいこうか」

「え! 今からですか?」

「善は急げと言わないか? 夏になったら可愛い水着で室内を動き回る女性、『管理人さーん。この水着どうですかー?』くるりと回る女性の姿に、あれ? 秋一君何処言った?」

「山さん。まだですか! 遅いですよ!」


 俺は喫茶店の出入り口で大きな手を振る。

 ボロボロな木造アパートの前に連れられて来られた、もちろん車で。

 俺がこの町に引っ越してきてから数年立つが見た事も無い道を通る、街には場違いな木の群れ。小さな森に車を走らせるとその坂道をドンドンと登っていく。

 助手席から見える風景が森から小高い丘に変わったときにその建物はあった。

 部屋数は表から、右縦にニ部屋に玄関そして左側に四部屋で合計六部屋。

 玄関は大きく、何処かの漫画で見たなんちゃら館を風貌させる雰囲気。

 山さんが先に大きめな玄関を開ける。


「あやめくーん。管理人候補の人を連れてきたよ~」

 

 二階の奥からパタパタと走る音が聞こえる。

 

「はーい」


 かわいらしい声が聞こえてくる。


「あ、山さん、こんにちわ。そちらの方は?」

「こちらが雪乃ゆきのアヤメさん、表向きは色々と体が弱くて管理人の仕事が無理なんだ、そして此方が、近藤秋一さん。管理人候補の募集を見てくれてね」

 

 間に入ってお互いに紹介する山さん。表向き? 何が裏があるような言い方で戸惑う。紹介された雪乃さんも同様で山さんに対して少し怒っている。

 夏だと言うのに少し肌寒い空気が漂い二人をみるも、平気な顔をしている。


「すみません。寒いですか?」

「え? いや、はい……うん」


 シャツから出た腕をこすって要ると心配そうな顔で覗き込んできた。

 その顔は見た目は俺と同じ歳と聞いたのに大人びてる女性だ、しかもゴリラのような女性では無く……。

 白い髪で肩に掛からないショートの髪、着物を着ているせいなのか日本人形を思い浮かべる。

 肌も白いし、着物の隙間から白く透き通る肌がチラチラ視界にはいった、直ぐに横腹を肘で突かれた。

 慌てて上ずった声のまま挨拶をする。


「こ……こんにちわ! 管理人になりました。近藤です。宜しくお願いします」

「これは語丁寧に有難うございます」


 雪乃さんはゆっくりとお辞儀をしお礼をしてきた。邪な心などわからないのだろう、ニコニコと微笑んでいる。

 それが俺と雪乃さんとの出会い管理人としての顔合わせだった。

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