1-5【破壊者】

 そこは、昼と夜の境界が、一際希薄な場所だった。


 ストリップティーズやカップルホテル、のぞき部屋といった怪しげな風俗営業の店がひしめく危険地帯、三鷹。平日の真っ昼間だというのに、そこは多数の無軌道な若者達でごった返していた。

 殆どは二十を過ぎてロクに定職にも就かず暇を持て余す、いわゆるニートとかフリーターとか呼ばれる現代社会の落伍者だが、ちらほらとまだ高校生といった年頃の男女もいる。皆一様に身分不相応な似合いもしない派手なファッションに身を固め、恐れるものなどないとでも言うようにポケットに両手を突っ込み、全身を左右に揺らして歩きながら汚いダミ声で社会や親に対してクダを巻いている。

「あぁ~、つまんねぇつまんねぇ」

「全くだ。たまにゃパーッと騒ぎてぇぜ、パーッと」

 声の主は一端に大人のふりをしながらも、まだ少しも垢抜けた様子がない二人の不良学生だ。年の瀬はまだ一八かそこらの、サボリの高校生といったところだろう。道行く人々にガンを飛ばしながら周囲の目を省みず不満や文句を垂れ流す様が、如何に彼の精神年齢と肉体年齢の間に大きな隔たりがあるかを雄弁に語っていた。

 今の大人というものは往々にして、子供に対して非情になれない。それどころか、子供に対して怖れすら抱いている。いくら悪事に走ってもそれを咎めることができず、子供が何か問題を起こして誰かがそれを糾すと血眼になって弁護に走り、屁理屈と否定と怒りであらゆる責任を他者へ擦り付ける。大人がこれだから、子供もそれを善として受け止め、堕落の連鎖は止まることなく拡がる。

 そして、そうしてこの世に生まれ出た落伍者が、悲しいかな、この国の未来の担い手である筈の若者の確かな規範テンプレートとなる。

 強い大人が消えた理由。その原因は恐らく自分達大人が定めた“ゆとり教育”という制度が、このような社会不適合者を生み出してしまったという事実に対する負い目だろう。

 責任の一端が自分にあるという事実を薄々理解しているから、その為に“これだから最近のゆとり世代は”と自分達が文句を言う事が可笑しい事とおぼろげではあるが自覚しているから、自分達が声高に言っても少しも説得力がないから、今の大人は子供に対して強い態度を取れない。

 そうしてゆとり世代が弱い大人を見下し、つけあがる。この二人もそんな堕落した、そしてこれから幾重にも堕落の連鎖を繋ぎゆく社会が産んだ、いわゆるゆとり世代の無軌道な若者であった。その片割れである溝江慎みぞえしんという男の顔には、一際その淀み腐った心根が具現化されたように、古今東西の魔性の者よりも醜悪な笑顔が浮かんでいた。


 都立天海高校の二年生、溝江慎は、既に都内でも一流の大学への推薦入学が決定していた。

 推薦により明るい未来が約束されたも同然な自分にとって、学校へ行く必要性など最早なくなっていた。

 だからこそ彼はこうして平日の昼間から学校をサボり、昔からの悪い仲間と三鷹で遊び呆けている。既にこの豪勢な暮らしは二ヶ月前から続いている。

 天海高校二年生、溝江慎。この男こそ、元クラスメイトである米田憲太郎を下賎な悪者に仕立て上げ、そうする事が当たり前のように傷つけ苦しめ、学校や社会から爪弾きにした下劣な集団の筆頭であった。

 見た目も成績もすこぶる悪い憲太郎は、慎にとっても害毒でしかなかった。奴と同じ空気を吸うのも嫌で厭で仕方がなかった。

 それに関しては教職員勢も同じだったらしい。校長から慎のもとに“米田憲太郎を学校から叩き出せば大学への推薦入学を保証しよう”という話が舞い込んできたのは、今からおよそ半年ほど前の事だ。


 あのムカつく米田を自分の周囲から追い出せる。ついでに喉から手が出るほど欲しい大学への推薦入学が手に入る。

 一石二鳥のこの案に、溝江慎という男が乗らないわけがなかった。

 ……まず小手調べに上履きを隠す、椅子に画鋲を置く、机をカッターで切りつける等のステレオタイプの嫌がらせで、自分が嫌われているのだという事を米田にハッキリと悟らせる。

 さらに念を入れて放課後に奴を校舎裏へ呼び出し、自分が悪であり、消えるべき存在である事を、身体の痛みと共にその心に刻み込む。

 極めつけは使い走りと銘打って万引きの証拠写真を捏造し、奴を薄汚い犯罪者に仕立て上げ、家の近所からも完全に孤立させ、逃げ場という逃げ場を徹底的に潰した。

 全てが上手くいっていた。元から米田を毛嫌いしていた教師達もこれ幸い、もしくはここぞとばかりに積極的に体罰という名の合法的な苛めを行うようになったから。

 当然、奴が教師どもに苛めの相談をする事も、自分達への復讐に打って出る事も、何もかも想定の範囲内だ。というより、この時を……奴に止めを刺す時を慎は待っていた。

 校長からのタレコミで渋谷の裏通りにトルエンの売人がいるという情報を得て、恙無くそれを入手し予め借りたマスターキーで米田のロッカーの中に仕込んだのだ。

 予想通りトルエンは米田が持ち込んだ事になり、これが決め手となって米田にはその日のうちに退学処分が言い渡された。

 そして当初からの約束通り慎を始めとする苛めグループには推薦入学が約束された。その日の放課後は皆で快哉を叫び、久しぶりに一時間四千円もする焼肉食べ放題で祝杯をあげたものだ。

 もう何もせずとも進学が決まった。将来が完全に約束された慎にとって学校へ行く事は面倒な事でしかなくなり、ここ最近はこうして都内の娯楽施設を日がな一日ぶらつく日々を送っていた。せいぜい登校は週に一回、いつもの苛めグループ同士で駄弁ったりする為だけに行くような状態であった。

 既にある夜、校長が突如として行方不明になっていた事で天海高校はちょっとした騒ぎになっていたのだが、とっくに学校そのものに興味を失っていた慎にとって、その話はまったくもって彼の知るところではなかった。

「あ~あ、これからどうするよ。またクラブでも行くかぁ?」

「だよなぁ~。学校行ったってもう虐め甲斐のあるクズはいねぇし、俺なんかもうあの東都大に推薦入学決まってるし」

「何っだよ、羨ましいぜ。チッあのクソジジイ、もうちょい俺の小遣いが増えるくらい働けってんだよ畜生め」

「つ~かさぁ、お前が働けよ? あぁそっか、そんなツラじゃあどこも雇ってなんかくれねーよなぁ、面接どころか書類にだってロクに通らねえよなぁ、ギャハハハハ!!」

 周囲の迷惑というものをロクに考えない低レベルな会話に花を咲かす二人。その頭の中に陰湿な声が響く。


(このゴミ野郎…………)

 明らかにその言には、冷たい炎を思わせる恨みの感情が込められていた。突如飛び込んできた声に二人は顔を見合わせる。

「おい、テメェ……さっき俺をゴミ野郎とか抜かしやがったなぁ!」

「はぁ!? それはテメェが言ったんだろうがよ、このクズがぁ!」

 先程の声の主は目の前の相手。愚かにもそう思い込んだ二人の間に、まさに一触即発の険悪な雰囲気が漂う。その途中、またしても先程の声と同じトーンで、別の言が響いてくる。

(お前等、よくも、僕を虐めたな……お前等さえ、お前等さえいなければ……今頃…………お前等なんか、この世からいなくなれば……いいんだッ…………!!)

 ハッキリとした恨みの言と感情。男の一人はその声の調子に憶えがあった。そう……かつて自分が散々虐めて退学に追い込んだ、あのチビでデブでバカでクズの、確か名前は…………。

「米田……ァ! 出て来い、この野郎!!」

 声を大にして叫ぶ。それが、この男の……天海高校の米田虐めグループの筆頭、溝江慎の人間としての最後の言葉。

「うわぁぁぁぁぁぁあぁあぁああぁぁあああっあぁあぁぁああ」

 いつの間にか都会のビル群は視界から消え失せ、慎の叫びに答えるが如く、突如眼前に出現した一面の砂嵐とホワイトノイズの中に浮かびあがったのは他ならぬ米田のかお。だがその表情は慎が今まで見た事がない、憎しみと嘲りに満ちたそれ。

 それを認めたのを最後に、二人の男の無駄な脳は、弾けるような衝撃とともに人間としての機能を完全に停止する。

「――――――――」

 先程まで確かな人間の男だった、今や土気色の肌と血走った双眸、間抜けな無表情を貼り付けた傀儡でしかない二人が覚束無い足取りで何処かへ去り行くのを、邪術師・米田憲太郎だけが三鷹の雑居ビルの屋上から見ていた。

 二人の靴底にはくっきりと黄色い粉末が……呪われし者の証であるゾンビーパウダーが付着していた。


「はぁ~あ、やれやれ……」

 吐き捨てるような有紗の呟きが茜の空に消えていく。その後ろを付いていくのは、幼馴染の姫鶴脩。

「いつもの事だけど、部誌の締切りはいつも早すぎるのよ! しかも明日までに八ページなんて。一日が三六時間あったって全然足りないわ。無茶苦茶ってモノよ!!」

「全く。井藤さんの方がまだ良心的だな」

 所属している漫研の部誌の締切りに対する火を噴くような有紗のヒステリーに、脩はさらりと同情する。

 今日もいつものように授業をこなし、いつものように漫研に顔を出し(ちなみに脩は当然部員ではない)、そしてまたいつものように幼馴染とともに家路に就く……すっかり二人共慣れきったこの繰り返しの日常を、脩と有紗は一二年近く繰り返している。

 付かず、離れず、違いせずの、幼馴染というこの関係。男女としての進展も何も無いこの関係。

 思わず周囲はヤキモキしてしまいそうだが、脩も有紗もこの幼馴染という関係を崩すつもりは更々なく、いつものように二人で登校し、別のクラスで過ごし、また二人で下校するのだ。

 さて。今日の有紗と脩がいるのは、有紗の“ホームグラウンド”の一つである池袋の街。

 来月に都内某所のコンベンションセンターにて、全国規模の同人誌即売会『こみっくカーニバル』を控えている有紗。今回はその為の資料が欲しいという事で、都内ではなかなか品揃えのいい書店に二人でやって来たというわけである。脩も有紗も通いなれたその店。

 色々漁っているうちにざっと小一時間そこで過ごしてしまった。純文学からサブカル関連の雑誌に至るまで、とにかく無いものは無いような店なので、どれだけ居ても飽きが来ない。

「あたしはここで暫くいい感じの資料探してるから。脩も好きに何か探してていいよ」

「……そうする」

 そのまま、脩と有紗はそれぞれ別の方向へ。これもいつものふたりの放課後だ。


 池袋駅前東口、サンシャイン60からも然程離れていない五階建てのビルの全階層を使ったこの書店は、兎に角エリアも客層も広い。真昼間だろうが夕暮れ時だろうが、はたまた深夜だろうが、学生やらビジネスマンやら何やらと、兎に角幅広い身分の人間が、ちょっと暇があればこの書店にやって来る。

 午後四時台、その時間帯の客層を占めるのはほぼ脩や有紗と同じ学生だ。てんでんばらばらのデザインの制服姿の若者達がビルのあちらこちらを闊歩し、夕暮れ時が近いにも関わらずそこからはちょっとした活気めいたものを感じさせる。

 数分前から単独行動に入っている脩が今いるのは四階の専門書コーナーだ。医学書やら植物の図鑑やらといった、積極的にそれらを手に取る者が限られる本が、所狭しと並ぶそのコーナー。脩はその小難しい専門書が並ぶコーナーの最奥、コーナータグに『スピリチュアル』などと書かれたそのコーナーに、立っている。

 セカンド・デグリーほどではないにしろ、そのコーナーは随分充実している。風水だとか、タロット占いだとか、果てはパワーストーンだとか。一時期一世を風靡した陰陽師にあやかって護符だのをセットに加えた呪いの教本、本来ならおいそれと使えないはずの気功を簡単にマスターするという触れ込みで発行されたDVD付きのハウツー本など、一般の人間ならば名前程度は知っている……恐らくは入門編レベルともいえる、初歩的なオカルト関連のコーナーだ。

 まぁ、脩馴染みのあの店の主たる黒い少女ならば“虚仮威し”という、そんなにべもない言だけで軽く一蹴してしまうだろうが。

「…………んっ」

 脩の視界のほぼ片隅、場所はこのコーナーの手前。そこに映った人物の影に息を呑む。

 同じ聖エミール二年月組の雀ヶ森夢生。高校生にしてはやたらと低い背丈タッパに、腿の辺りまで届くほど長い緑色の髪。

 特徴がありすぎるほどありすぎる容姿に、大人しいを通り越して薄暗い性格のギャップ。ほぼ毎日顔を合わせる脩ならば見落とさないわけがない。

「…………珍しい、な」

「姫、鶴……君」

 驚いているのか、そうでもないのか。いつもの彼女のたどたどしい口調やか細い声、これが平常デフォルトなのかと疑いたくなるほどの悲痛な顔からは伺うのが困難だ。まぁそれがいつもの夢生だと、さして深く考えず脩は納得する。

「奇遇、だ、ね……ここ……には、よく……くる、の?」

「……ほぼ常連だ」

 幼馴染の有紗のせいでな、と付け加えようと思ったが、夢生のその手に握られたそれの存在を認めたその時に、脩はその眼を見開く。無論その後出す予定だった言葉など、出てくるはずもなかった。

(霊界……案内?)

 霊界。かつてそれの存在を説いて一躍大ブームを巻き起こし、どこぞのバラエティ番組に出演しその人気を不動のものとしたとある霊能者が著したハードカバーの本が、その細い手に握られていた。

 確かに夢生は本が好きな少女だ。しかし、この手のオカルト関連の本を図書館や脩のところから借りたことなどただの一度もない。

「姫鶴……君は、死後の世界……って、信じる?」

 一体何故そんなものを、という真っ当な疑問を挟むその前に放たれた、あまりに突飛な夢生の言に思わず脩は息を呑む。

 犬の写真。まだまだ幼い夢生と一緒に、思い切り勢いよくホースから放たれる水と無邪気に戯れる、ボーダーコリーの写真だ。

「私の……バスクだよ。半年、くらい前に…………死んじゃった、けど」

「死んだ……!?」

「う……ん。前に、この……あたりで、大型犬が……子供に襲いかかって、咬み殺すって……事件、あったでしょ」

 それは脩もニュースで見て知っている。白昼堂々公園で犬を散歩させていた、ここからほど近い場所に住む……場所は大体椎名町の辺りだろうか。とある若い男が、外を出歩くたびに近所の子供達から罵声を浴びせられたりゴミを投げつけられるなどの嫌がらせを受け、ついに我慢の限界に達した男が犬を子供達にけしかけたという事件だ。襲われた子供のうち一人が死亡、三人が重軽傷を負うという痛ましい事件で、飼い主である男は現在も拘留中だという。

 それからが大変だった。朝のワイドショーで民法各局がトップでそのニュースを報道するや否や、椎名町では犬狩りが横行しだした。住民達は犬達を見ると一切の情も容赦もなく、棒や刃物を奮って次々に彼等を打ち殺していったのだ。大人しい日本人にこんな事が出来るのかと疑いたくなるほどの、凄惨を極める現象だった。

 メディアの影響力というものは自分達が思う以上に絶大だ。そして、何よりも広がるのが早い。ネットを介して、波紋のように拡大していく野蛮な正義は椎名町だけにとどまらず、数日足らずの間に日本各地で散発的にその力を振るった。

 善悪の判断基準をろくすっぽ持たず、従順を絵に描いたような生き物である犬は、主がそう命令すれば躊躇いなく平気で人を殺す危険な生き物だ。そんな危険な生き物はいてはいけない。現に、なんの力もない幼い子供が、犬の鋭い牙にかかって、その未来を奪われたではないか。

 そんな歪んだ大義名分が、何ら関係ない、関係を持つ必要性がない大衆を、凶行に走らせた。ようやく事態が収束した頃には、犠牲になった犬の数は全国で推定千匹にも及んだ。中には犬ではなく人間がその標的になったケースもあると聞く。

「それで……私の……バスクも。殺され……ちゃったん、だ…………」

「…………っ」

 あまりに、穏やかなそれではない話だ。たとえどれだけ目を覆いたくなるほど凄惨な事件が起きたとしても、それはテレビの液晶画面越しの自分達とは異なる世界、言わば対岸の火事のようなものだと思っていた。

 だが現実はどうだ、そんな事件が自分の身近で起きていたという現実を直視したら、思わずいろいろな事を考えてしまう。

 一体彼女はどんな気持ちでいたのか。彼女の為に自分が出来ることは何だろうか…………もう、そうなったら止まらない。

「私……は…………信じ、て……いるの……信じ、て……いたい……の、よ…………」

「なん、だって……!?」

 流石に脩も驚愕した。死後の世界……今や小学生ですらまともに信じていないそれを、夢生は信じているというのだから。

「私は……死んだら、ちゃん、と……バスクの、ところ……へ、行きたい。そして、言ってあげるの……」

 沈黙。それからその言が放たれるまで実際は数秒足らずだったかもだが……それが、脩にとってはあまりに長く。

「守って、あげられなくて……ごめんね、って…………」

 ゆっくりと放たれたその言。その全て……夢生の沈痛な面持ち、口調。その全てが、脩にはあまりに重すぎる。どうしてもかける言葉が見つからない。

 彼女は今も悔いている。大切なものを守れなかった現実を。ホンの小さな怒りすら持てない自分の弱さを。

 その全てが、脩は悔しい。自分では、彼女の悲しみを癒せない。彼女が奪われたものを奪い返せない。彼女が本当に望むことに応えてやれない。

 あまりにも、無力。決して覆らないそんな現実を噛み締める。

「…………それじゃ」

 そっと立ち上がり、踵を返してその場を去っていく夢生の背を、ただ脩は眺め続ける。

「死後の……世界……か」

 正直、考えた事もなかった。自分が人に死を与える事も、周りに死という概念がない存在が居る事も、あまりに当たり前すぎて…………死んだ者の気持ちなんて、考えた事もなかった。残される者の悲しみなんてものも。

 自分にとって死というものは、それこそ肉体も精神も跡形もなく消えてしまうような、あまりに呆気なくあまりに無意味なそれでしかないから。そんな価値も意味もない死が、日常になってしまっていたから。

 どれだけ考えても、自分が夢生の為に出来る事と言えば……また同じように力の弱い犬を遊び半分で打ち殺すような愚かな輩に、四肢だの首だのが粗雑に欠損するような無様な死をくれてやるくらいだ。

 恐らく、いや絶対に、彼女はそれを望まない。望むはずなどあるわけがない。そんな事をしたところで、彼女の中の絶対的な負数が、正数になる事はないのだから。その現実を痛いくらい分かっているから。

「チィ……っ。何が、能力者……だよ」

 突きつけられた己の弱さ。あまりに虚しい姫鶴脩のそんな自嘲に聞く耳を持つ者は、ここには誰もいなかった。


「これだけあれば完璧ね~」

「よくまぁこんなに買ったもんだな」

「そういう脩だって!」

 ビシィ、という効果音と共に有紗の人差し指が、脩の手元の青いビニール袋を捉える。その中身は脩が購入した文庫本。現在東京圏のみならず全国の若者の間で人気を博す、吸血鬼を題材にした伝奇活劇小説ライトノベル、『愛き夜魔へのデディケート』の最新刊である。

 人間と吸血鬼を始めとする夜魔と呼ばれる魔性の者、そして術師と呼ばれる魔法使いの人間の三つ巴の戦いをベースにした娯楽小説でありながら、生と死を見つめたシリアスなテーマや一歩間違えばドロドロした愛憎をエッセンスにした濃厚なストーリーだ。

 まぁ、その変わらぬ人気を支える要因はやはり、メインヒロインであり最大の敵方ヴィランでもある吸血鬼の女王・シビリー・ハーケンベルクの存在があるのだが。

「…………ったく、敵わねぇな」

 自分の周りにいる女というものはなぜ皆こうなのか、という疑問も既に脩にはない。この遣り取りもいつも通りだ。しかもあの有紗なら、とさりげなく付け加えるのも忘れない。

 兎角、あの書店内の有紗の勢いは半端じゃない。それこそ未就学児童の頃から通いつめているという大型書店を、あの幼馴染の少女は完全に把握している。二人揃って入店後暫く付かず離れずの間合いで色々と回っていたものの、数分も経たないうちにその筋の人々から“腐海”などと呼ばれるそのコーナー……まぁ、端的に言ってしまえば成人女性向けコーナーに差し掛かった所で有紗の方が離れてしまい、取り残された脩が客から白い目で見られる、という事態は何度もあった。あり過ぎてもう慣れっこだ。

 しかもたまに有紗は一人離れて男性向けの本が並ぶコーナーへホイホイと行って、そこで呑気に立ち読みをしていた客達を散り散りにさせる、なんて事を当たり前のように面白がってやっている。本来の目的とは別の有紗のちょっとした楽しみはこの日も行われた。

 まぁ、そんないつもの放課後、今日は二人とも予定その他は入っていない。あとはお互い帰宅するだけと言った感じで、今は夕映えの神保町を二人で歩いている。

「脩はこれからどうするの?」

「そうだな。流石にもう…………」


「うわぁぁぁああっ!!」

 と、夕刻の町に突如響いた若い男の悲鳴。それが、脩と有紗を現実へ引き戻す。気が付くと二人の足は自然と悲鳴の方向へ向いていた。

 すぐにそこにたどり着いて、一瞬、呼吸が止まる。アスファルトの壁に凭れた、血塗れの学生服の少年を、一九〇センチかそこらの土気色の肌を持った男が、刃渡りだけで三十センチはあろう巨大な刃物を手に見下ろしている。荒い息を漏らし、ハイライトのない眼をぎらつかせながら。

 その眼はすぐに、有紗を認める。のそり、のそりという重低音が聞こえてきそうなゆっくりとした足取りで、しかし迷いその他は一切無く、男は有紗との距離を詰めてくる。そこへ辿り着いた男が刃物を、大上段に振り上げる。

 ……血に塗れた刃が放った、一瞬の煌き。紅い刃は既にこのナイフが何者かの体……恐らくは目の前の少年か、その前の別の人間の身体に、確かな切創を作った事をハッキリと証明している。

 そしてこれからそれが向かう先は、他ならぬ有紗の心臓…………!!

「やめて!!」

「どけ有紗!!」

 脩の喝が飛ぶや否や、すぐさま有紗はその身を伏せる。刹那、脩の手元から放たれた光弾プラズマ

 有紗の頭上を掠めて飛翔したそれは男の巨体を直撃し、彼は全身を粉砕させながら大きな放物線を描き、アスファルトの上を何回転もした後、泥塗れの肉の塊となって大地に屈服した。

 上半身が半分くらい吹き飛び、辛うじて残った体からは白煙が立ち上っている。粉微塵にぶち砕いた男には目もくれず、脩と有紗は倒れている少年の下へ駆け寄る…………。

 確かめるまでもなく、少年は、二人が知る矢代光吉だった。

 腹部に粗雑な大きな傷を負い、そこからどくどくと血が湧き出ている。しかもその傷は何十箇所にも及び、先程まで彼に向けられていた殺意が、どれだけ大きなものだったかを雄弁に語っている。

「光吉!」

「脩……さん…………っ」

 既に息も絶え絶えの光吉。何かを喋ろうとするたびに口元からゴボッ、ゴボッという嫌な音と共に、泡だった鮮血が溢れ出る。

「有紗! すぐに救急車呼べ!!」

 うろたえる有紗だったが直ぐさま鞄から携帯電話を取り出し、パニックで覚束ない指先で必死にボタンを押す。

 その間も光吉の体力は少しずつ、零に近づきつつあった。それでも光吉は必死だった。体をナイフで何百箇所も突き刺され、そこから血も大量に流した自分が、まず助からない事は十分承知している。しかし、それでも、たった一つ、伝えなければならない事がある……。

 “喋るな”という脩の視線にも構わず、最期の力を絞り光吉は続ける。

「昨日のアイツ……米田の、奴ですよ。アイツ、妙な奴を引き連れていた……。よく見てみたらそいつ等、米田を苛めて退学に追い込んだ、うちの学校でも札付きの奴ばかりだった…………」

 米田……すぐに思い出した。あの時有紗、光吉と共に訪れたリリィの店、セカンド・デグリーにいたアイツだ。

 奴から絶えず発せられていた陰の気…………。あまりに濃厚すぎて、忘れたくても忘れられない。そんな米田が、自分を苛めていたかつてのクラスメイトを、引き連れて歩いていたというのだ。二人にはそのような光景がとてもじゃないが全く想像できなかった。

「……どういう、事だよ」

「俺、にも、分かりません……っ。ただ、あの米田が奴等に、なんか……命令していた。そいつらは、……でっけぇナイフ、で、俺……を……」

 光吉の全身に生々しく残る、大きな傷。そこから絶え間なく流れ出でる生の証が、傷ついた光吉にすぐにでも訪れる末路を、嫌というほどに突きつける。

「俺は……いい。報いです、よ…………。俺はいつでも、米田の奴を苛めていた、や、つら、を……その気になれば、止められる……ところに、いた。でも、俺はなにも、し、なかった。苛めを、止めて……今度は、自分が……奴等の標的に、なるのが、怖く……てっ……!!」

「光吉……っ、お前…………」

「あん時……米田がトル、エン持ち……込んで、退学に……なったって話、したでしょう……あれ、持ち込んだ、の……米田なんかじゃ、あ、なかっ…………た。アイツ、の、苛め……グループの野、郎が、米田を……叩き出す、為に…………やりやがったん、ですよ。そい、つら……校……長から、大学……入、が、くの、推薦枠、やる……って…………約束、し…………てっ……!!」

 邪魔者を消す為の校長の不正。目先の推薦枠の為に一人の生徒を陥れた者達。そして、間近で起きていたそれを止めなかった光吉。罪業の連鎖がそこに幾重にも重なっていた。

 己への怨嗟。後悔。米田に対する懺悔。それらが止め処なく光吉の口から、赤く濁った生の証と共に溢れ出る。

「悔しい……ですよ……。お……れが、脩さんみ、たいな、強さ、を……持ってた、ら…………」

 二人の目の前で……光吉の、命の灯が、消えた。

「いっ、嫌ぁああ! 光吉君!!」

「くそぉっ…………!!」

 救急車の赤色灯と甲高いサイレンの音を背後に受けながら、二人はただ、呆然とその場に立ち尽くすだけだった。


「ゾンビーパウダーね」

 昨日の一連の出来事を一から十まで聞いたリリィは、あっさりと言ってのける。その一言は、脩と有紗……二人の若者を黙させるには十分すぎた。

 昨日一日のほぼ全てを警察の取調べに費やし、どうにか無罪放免となった脩と有紗は、日曜を利用してセカンド・デグリーに居た。

 すぐそばに上半身が跡形もなく吹っ飛び、しかも残った下半身すら究極ウェルダンに焼け焦げた男の死体が転がっていた事実に関しては、“現代兵器でこんな殺し方は不可能だ”という今尚横たわるオカルト界の常識の中に埋没し、警察が死体と脩、並びに有紗との接点を見いだせなかった事で見事に不問に付された。

 目の前で滅多刺しにされて殺害された光吉が言っていた“妙な奴”と、その妙な奴……恐らくかつての苛めグループを操った米田憲太郎。いろいろ引っ掛かるところがあった脩はそれらについて、プロフェッショナルたるリリィ女史に“御教授願う”為に、有紗を伴ってここを訪れたというわけだ。

 まぁ念の為言っておけば、有紗はただ勝手に付いて来ただけなのだが。

 ゾンビーパウダー……。中米ハイチに伝わる土着宗教・ヴードゥー教の秘術に使われる道具の一つ。

 ヴードゥー教内に存在する“掟”を破りし者を、自我無き存在……ゾンビーに作り変え、強制労働に従事させるために用いられる。

 ゾンビーパウダーの生成には、自然界のあらゆる毒をもった生き物……河豚やら蛇やら蟲やらを調合し、そこに仮死状態から復活させるための解毒剤……主にチョウセンアサガオ等を配合して作られる。

 致死量ギリギリのパウダーを振掛けるなどして対象に服用させ、その後解毒剤で蘇らせれば、身体は問題なく動作するものの、“生前”の意思や人格を完全に失い、術者の思うがままの木偶人形が完成する。これが、所謂ゾンビーである。

「蟲毒の一種か…………」

「惜しいけど少し違うわ。まぁ、所謂薬物による一種のマインドコントロールね」

 マインドコントロールという言葉の大まかな意味なら二人でも十分に理解している。性質の悪い宗教団体やら何やらがよく使う手だ。

「ところで。何故ゾンビーパウダーがマインドコントロールにカテゴライズされるか分かるかしら?」

「え……っ。魔術とかそんなんじゃないんですか…………?」

「端的に言ってしまえばゾンビーパウダーが効く理由は“思い込み”なのよ。確かにパウダーには経口摂取すれば立ち所に死に至る程の毒が実際にあるけれど、ここ最近ヴードゥーの魔術もなまじ名が売れてきたせいかゾンビーパウダーがどういうものか現代の人間もある程度なら分かるようになった。パウダーの中の細かな毒物の成分すら覆い尽くしてしまうほどにね」

 効くと思えば効く、それが魔術というものだ。人をゾンビーにするのはゾンビーパウダーではなく、パウダーを掛けられると人間はゾンビーになってしまうという、狂いに狂ったヴードゥーの教えが無知蒙昧な人の心に擦り込んだ思い込みだ。

「パウダーのお陰でゾンビー達に思考と言うものは無いに等しいから、物事の善悪なんて当然判断のしようが無い。邪術師ボコールの言葉を全てと信じ、その通りに行動する。盗みだろうが殺しだろうがね…………この国で言う刑法三十九条とやらの所為で彼等を罪に問えないのが悲しいところだけど」

 リリィの語り口は終始淡々としていた。それを聞いていた脩も有紗も息を呑む。光吉の身体に残った切創は非常に数が多く、しかもその全てがあまりに深かった。一突きで確実に死命を制する一撃が、それこそ無数に残っていたのだ。

「刺し傷が多ければ多いほど恨みは深いものだと言うけれど。根元まで九三箇所も刺されるなんて、あの子の犯した罪とやらはこの国の死刑執行何回分かしら?」

「ちょ…………っ!!」

 危うく激昂しかけた有紗を制して脩は息を呑む。刺し傷を無数に負い、その身を血に染めた光吉はその死の間際に、苛めを止められる立場にいながらそれをしなかった自分への呪詛の言葉を絶えず発し続けていた。傷つく事を恐れて何もしなかった自分。光吉が課した己への罪。それはそれは深いものだったに違いない。

 光吉が今際の際に告解した罪を知り、脩は改めて感じた。奴は……邪術師・憲太郎は、自分を傷つけ苦しめた者、そして彼等を止めなかった者への明確な怒り、そして殺意をあの苛めグループの男の手を借りて、光吉にぶつけていた。憲太郎にとって光吉は、許されざる咎人の一人だった。実際、他ならぬ光吉自身にその自覚があったから。

 

 邪術師の行いが純粋な復讐なのか、野蛮な正義なのかは分からない。どれだけ頭を捻ったところでその答えは奴の中にしかない。

 だが一つだけ明らかなのは、これ以上奴をのさばらせれば、また新たな誰かの血が流れるのは必死だという事。

 奴は人を不幸にしか出来ない存在である事。ゾンビーという最強の凶器を振るって法の裁きを免れる存在である事。苦しみ、悲しみ、そして死を人の世に際限なく生み続ける、決して赦されざる存在……“悪”である事…………!!

「憲太郎……生かしては、おかねぇ…………!!」

 だが、有紗の方は遣り切れない気持ちで一杯だった。もしも脩がぶち砕いたあの苛めグループの男がリリィ女史の言った通り、憲太郎のゾンビーパウダーにより、全く無意識、無自覚のままその兇刃を以って光吉を殺めたのだとしたら…………。

 あまりに、あまりに報われない。光吉も、あの男も。

 言ってしまえば、あのパウダーの影響下にあったあの男は米田憲太郎の“道具”だ。だから刑法三九条、所謂心神耗弱が適用され、その罪は……既に脩がぶち砕いたからもはや意味はないが……問う事は絶対に出来ない。黒幕たる米田も、ブードゥー魔術という切札ワイルドカードがある限り、その赦されざる罪を被る事は決してない。

 結局、死んだ人間だけが損をする。そんな事は、あまりに…………。

「彼等にも、それなりの理由が存在したのよ。日々夢とか希望とか大層に語る割に、いざとなれば結局何もしない。自分の罪を直視すれば安易に他者を傷つけ苦しめるという逃げ道に走る。全く、ヴードゥーの邪術のカモとして打って付けの存在ね」

 ゾンビー化、そして死という罰を既に受けた者達にも、リリィ女史の真紅の眼差しは鋭く、冷たい。

「あの米田とかいう少年の使うパウダーがどれほどのものかは知らないけど、本当に力を持つ邪術師が使うパウダーでゾンビーにされたら最後、もう天国にも地獄にも逝けない。あとは永遠に邪術師の意のままに操られる木偶として、生と死の細い境界線を彷徨い続けるのが宿命よ……まぁ、彼奴等には似合いの末路でしょうけど」

「ちょ、っ……!!」

 思わず有紗は立ち上がった。確かに黒い少女の言に間違いはないし、彼女の挙げた者達は誰から見ても救い難い悪だ。ゾンビーとしてこの世に縛られるのも、脩にあの閃光で斃されるのも、致し方のない結末だろう。

 しかし、だからと言って……だからと言って、その者を人殺しの道具として、好きなように利用するなんて……!!

「絶対に間違ってる、とでも言うつもり?」

「え…………」

「その感情は正しいわ。だけど、それが彼の邪術師にそのまま通用すると思うの? あの邪術師の“正義”に、貴女のその理想が届くと本気で思うのかしら?」

 有紗は二の句を継げなくなる。そうだ……この世に常識や正義、道徳という、人が人であるための正義があるように、奴等を操ったあの邪術師の世界にも、彼なりの正義がある。その前には、自分達の世界の常識や法律など、あまりに瑣末な事。

「有紗さん……この世界には無数の境界がある。異なる二つ以上の要素ファクターがあれば、そこには必ず境界が生まれる。ハッキリしたもの、曖昧なもの……それこそ掃いて捨てるほど、境界はあるの。その中でもとりわけ正義と悪の境界は、何よりも明確なものであるべきなのにその実何よりも曖昧なものよ」

 誰よりも達観した眼差しで、まさにその全てを見てきたような口調で、黒い少女は有紗に説く。

「誰かにとっての正義は、また同時に誰かにとっての悪となり得る。悪にも正義にも、形が沢山あるのだから当然よ。無論、形が違えば同じ正義と正義でも拮抗しあって、そこには境界が生まれるの…………」

「よく……分かりません」

「ふぅん。じゃ、もっと分かりやすくしましょうか。貴女が見た脩の“力”……。彼が誰かの為に、例えば貴女を守る為にそれを奮う事、貴女にとってそれは正義? それとも……悪かしら?」

「…………っ」

 力とは何か。正義とは何か。善悪とは何か。この世の誰ひとり、その問いに明確な答えを出せる者はいない。

 ニュースやワイドショー等で報道されるイスラム原理主義系のテロリストは、銃や爆弾などの武器を手に取って平気で人を殺す。当然普通の人はそれを“悪”とみなすかも知れない。しかし彼等は自分達を“正義”と信じているから、自分達の考えを否定する者をはっきり“悪”とみなす事が出来るから躊躇いなく人を殺すし、時に自分の中の正義の為に己の命すら賭ける。

 何が“正義”で何が“悪”なのか。その答えはそれこそ人の数だけある。それ故に“明確な答え”を定義する事は誰にも出来ない。出来ると抜かす人間がいるとすればそれはただの高慢ちきな愚か者でしかない。

「結局、人の営みの善悪を測る物差しは、この世に一本しかないの……“誰かにとっての損得”の一本だけよ」

 ますます、分からない。自分に強い殺意を以って刃を振るった男を、脩はその“力”で、斃した。結果的に自分の命は助かったが、脩が……幼馴染が、人を一人殺したのだ…………。その行いを、自分は許せるのか。

 有紗の苦悩の表情を認めたリリィは、ふっ、といっただけだった。まだ、彼女は答えを出しかねている…………。

「まぁ、直に分かるわよ。貴女のその眼で全てを見れば……ね」


 有紗は、その日の夜も、寝付けなかった。直視しがたい現実を一遍に目の当たりにした所為で、どうにも眼が冴えてしまう。僅かな時間があれば少しでも進めている部誌や同人誌、不定期連載の原稿も、殆ど手付かずのままほったらかしである。

 いつもなら、ゲームをするなり漫画を読むなりアニメを見るなり、何かをすれば気は紛れた。だが……今はどうだろう。

 心の何処かに訳の分からない何かが、喉に刺さった棘の如く残り、靄々とした感情を滲み出す。


 “私は、どうすればいいのか”。


 あの日から、有紗はそれをずっと自問している。

 それを寸断したのは、静まり返った家に響くインターホンの音だった。すぐに有紗は階段を下り、玄関ドアを開け放つ。

 そこに、“彼女”はいた。

「ごきげんよう、有紗さん」

「リリィ……さん?」

「脩だけど……今、天海高校へ向かったわ。恐らく邪術師もそこに居るでしょう」

 天海高校といえば察しがつく。矢代光吉の、そして米田憲太郎の通っていた学校だ。

 だけど、そこに脩が? 何故!? まさか、邪術師を……米田憲太郎を倒しに、いや……殺しに行ったのか?

 ますます有紗は揺らいだ。確かに憲太郎は彼女にもわかる程の、紛れもない悪だ。だが、それを討ちにいった脩は…………?

 いや、脩の行いは、正義と言えるのか。また別の形の悪ではないのか。だとしたら、どうにか有紗としては止めたい。脩を放置したり嗾けたりすれば確実に、彼は米田憲太郎という邪術師を殺す。

 だけど、自分がそれを……いや、脩を止める事も、また…………。

 もしも自分が脩を止めてしまえば、別の誰かが邪術師の犠牲となってしまうだろう。どちらを選んでも、誰かが死ぬ……他ならぬ、自分のせいで。“それ”を察したリリィが口を開く。

「貴女がそれを“認めたくない”という気持ちは分からないでもないわ。だけど、貴女は見なければならない。そして、その瞳に映った全てを、確かな現実として受け止めなければならない……。歯車は、もう回りだしているのだから。貴女は既に、あまりに曖昧な、異なる二つの世界の境界に居るのよ……」

「…………」

「……別に難しい事じゃないわ。貴女にとってどちらが正しいかは自分で決めてしまえばいい」

 黒い少女の紅玉を思わせる瞳には有紗だけが映る。

「だけど……これだけは肝に銘じなさい。法律や常識というこの世界の何より歪な物差しで、姫鶴脩かれを測ってはいけないわ」

 自分にとって、何が正義かは分からない。だけど、脩だけは信じたい。そして、あの問いの答えを、見出したい。

 有紗は、小さく頷いた……。


「いい眺めだよなぁ……けっけっけッ…………」

 下卑た笑いが夜空へ消えゆく。その日の夜空は、赤みがかった曇天だった。創立四五周年を彼此一年くらい前に迎えた天海高校、それを象徴するそれなりに年季の入った石造りの校舎。

 その屋上から、米田憲太郎は校庭を、まるで血の池地獄で溺れ藻掻く亡者達を見るかのような卑しい笑いを浮かべながら、見下ろしていた。ホンの戯れに細い蜘蛛の糸でも垂らしてやろうかとも考えてしまう。

 公立高校には不釣合いなほど広い校庭狭しとあちらこちら徘徊するのは、かつてのクラスメイトや先輩後輩、そして恩師達。かつて自分を傷つけ、踏み躙り、嘲笑と罵声を有りっ丈浴びせた挙句、ボロ雑巾のように捨て去った、人の痛みというものがまるで分からぬ愚者共。

 かの者達を眺めているうちに、健太郎の脳裏に色々な事が浮かび上がってきた。

 隠された上履き。臀部に突き刺さった画鋲の痛み。ずたずたに切り刻まれた机。容赦なく飛んでくるサッカーボール。街中にばら蒔かれた万引き捏造写真。犯罪者でも見るような周囲の視線。そして、トルエン…………。

 思い出したくもない苦み走った思い出が次々と浮かんでは消える。あの海のヘドロのような淀み腐った絶望の中で、一体何度もう死のうかと考えたか知れない。


 ――だが。今はどうだ。 

 彼等彼女等は……もとい、彼奴等は今、皆須らく暗く淀んだ瞳を持ち、表情のない顔を浮かべ、“それ”を今か今かと待っている。

 無論、これらの現象は、彼が手にしたゾンビーパウダーの効果である事は明らかだった。その影響を受けた彼等が今待つのは、崇めるべき術者たる米田憲太郎の命令。そして一度それを受ければ彼等は、何の感情も疑いも持たず、ただそれを“遂行”する。

 誰かを殺せと命令されれば、確実に殺す。用済みになり、死ねと言われればすぐにでもその命を絶つ。ここにいるのはそんな奴等。

 憲太郎は愉悦に震える。見下され、踏み付けられてきた自分が、今こうして彼等を支配する立場にいる。

 まさに今、自分はこの天海の“校長”なのだ。本物の校長は既にその罪に見合う裁きを受けた。そして眼下の者達は既に意思などない、自分の忠実なる兵士、いや……奴隷だ。奴隷に個人の意思も人権も無用のもの。彼奴等はただただ自分の命ずるままに働けばいい。

 これこそが、今まで自分を蛇蝎のごとく嫌い、蔑んできたものの辿るべき道だ。使えるだけ使ったら死なせる。ホンの少しの罪の意識を持つ事すらろくすっぽ出来ない奴等には似合いの末路ではないか。

 あぁ、嗚呼!  何という愉悦。何という快楽!!  自分をゴミクズのように扱ってきた者達は今やこうして、ただ駄犬のように、神や王の金言にも匹敵する自分の命令を待ち、それを遂行するだけの存在!

 さて、これからどうしたものか。差し当たりこの近辺の高校をシメにでも行こうか。

 今の自分には力がある。そこらの俗人がどれだけ努力しようが絶対に得られない力が。


 ――さぁ、愚かな奴隷ども、僕の為に死んで来い!!

 今一度心の中で、魂なき忠実な傀儡たる彼等に、高らかに命ずると……。


 ドゴォン!!


 突然に、目の前が爆ぜた。何事かと一瞬きつく閉じた瞳を開くと、濛々と立ち込める煙から一つの人影が、碧の閃光を伴って出現する。

 年の瀬は憲太郎と同じくらいの、華奢ながらも均整のとれた体躯を持った、群青のショートに銀メッシュが映える男。

 あまりにも冷たく鋭い、突き刺し、抉るような視線と共に、そいつは憲太郎の前に仁王立ちしている。

「米田憲太郎だな!」

 闇を切り裂いて飛んできた、奴の最初の言葉はそれだった。その声に込められているのは明確な敵意。

 何故奴が自分を知っているのか……憲太郎には理解できなかったし、たとえ出来たとしてもしなかった。憲太郎にとってそいつは、突然この場に現れた、ただの“邪魔者”の一人でしかないのだから。

「俺が何故ここに来たか分かってるな!」

 冷徹ながら、そこに感じられるのは確かな怒気。だが、そこに正義などという清廉なものはない。しかし、この場で今自分に向けられている敵意……それを憲太郎ははっきりと感じている。

「あぁ、分かるよ。僕の邪魔をしに来たんだろ? それともあの薄ら莫迦の光吉とか言ったな。そいつの仇討ちにでも来たのか? 全く、古い人間もいたもんだよ。地獄へ落ちた奴は戻ってこないというのにな」

 今まで壮絶な苛めの犠牲となってきた者のそれとはとても思えない、傲慢な、下劣な、醜悪な言葉が、憲太郎の口から紡がれる。恐らくそれはそうした過去の反動か。それとも一度強大な力を、借り物とはいえ手にした為か。

 “薄ら莫迦”。“地獄に落ちた奴”。米田憲太郎のあらゆる言は、脩が十分に怒りを覚えるに足るそれであった。

「テメェ……何勘違いしてやがる。仇討ちだと? くたばった奴がもう生き返らない事くらい分かるし、テメェをここでぶちのめしたところでアイツが浮かばれるとも思っちゃいねぇよ」

 既にその機能を失した死者の意思など、誰の知るところではない。“死んだ人間は復讐など望んでいない”という、歪んだ妄想が根底にある似非ヒューマニズムが、今の世界で平然と罷り通っている。

 命あるものは死ぬ。死したものは無に帰る。その当たり前を否定したのは一体誰であろうか。

 国家か、宗教か、それとも人間か…………!

 脩は足を八の字に開いて両腕を縦向きにして前に翳し、気合を込め始める。周囲の空間がそれに応えバチバチと音をたてる。

「……それだけだ!」

 確かな決意を込めた一喝を最後に少年は心を凪ぐ。


「ここは、混沌の砂漠の中央に聳える神殿なり。形なく、姿なく、生まれなき闇の勢力たちよ、我に耳傾けよ」

 憲太郎の邪気のせいで瘴気まみれの天海高校。だが、脩の口が紡ぐ呪句はその瘴気すら心地よいものに感じられる程の凄まじい寒色の気をそれこそ絶やす事無く放つ。

「我こそ汝等が主、汝等が支配者、我こそ神なり。ヤハウェ。アドナイ。エヘイエ。アグラー」

 その言葉の意味は唯一神。イエス・キリスト以前の人を導く絶対存在の名。呪句が続くと同時にただでさえ濃厚な瘴気も一層その密度を増してくる。邪術師・憲太郎は思わず悪寒を覚える。

「――我が頭上に八芒星」

 憲太郎の額に、冷や汗が一筋、浮かぶ。その言葉が放たれると同時に、頭上に膨大な力を……しかも極めて悪しき力を感じ取る。

「こ、れは……なんだ…………!!」

 頭上にあったそれに思わず戦慄を憶える。それは綺麗な円の外側八方向に矢印を描いた、ひどく単純なデザインのそれは、闇の世界と現実の接点を示す混沌ケイオス印形シジル

 しかし……あれが放つ不可視の、しかし膨大な力は一体何だ。そっと触れるだけで手を一息にごっそり肩まで持っていかれそうなほどの膨大かつ冷徹なる邪気をあの印形から感じる。

「高貴なる暗黒の神殿はここに聳えたり。我こそ神殿の主、王子にして祭司、第二の太陽なり。……我は神なり。形無き、姿無き、生まれ無き者達よ、我に耳傾け、聞き従うべし」

 空が、校舎が、ゾンビー達が……憲太郎の周囲のありとあらゆるものが明るさを失う。二人の周囲約一〇メートル四方、高さはほぼ無制限の空間が、呪句が紡いだ邪気で満たされる。

「タイマンに、関係ねぇ奴を巻き込まない……それがマナーってもんだろ」

 手慣れた格闘家ですら裸足で逃げ出すほどの、圧倒的な力を持つ遣い人。彼等が面を突き合わせればそこは必然的に戦場となる。

 当然、その中の遣い人は攻撃対象を打ち破るため、人の想像を遙かに超えるだけの“力”を持って互いにぶつかり合うのだから、その過程で少なからず周囲の人や建造物に被害を及ぼす事もまた必然だ。

 防護結界。それは周囲の被造物に被害を及ぼさないため、仲間や無関係の者が戦闘に介入する事を防ぐため、そして何より敵対者を絶対に逃がさないため……遣い人が己のエネルギーにより形作る闘技場リング

 能力者の神聖なる戦いの場である、聖なる暗黒の神殿。そこに現代の六法や、自然の摂理や常識が入り込む余地はない。

 暗黒神殿建立儀式魔術。“この世界”に入る際、脩が最初に黒い少女から授かった、悪を以て悪を討つ者専用の防護結界形成術だ。裁きの場を整える作業を完了させ、脩は改めて邪術師を睨みつける。

「一応聞くよ。お前……何者だ?」

「姫鶴脩……。俺の名、免罪符として持っていけ…………!!」

 ――免罪符!? 僕の事を犯罪者呼ばわりするのか!! この天海の校長の僕を、何百もの奴隷を従える王である僕を、この世界の絶対的な正義であるこの僕を!!

 先程まで多少なりとも余裕があった憲太郎の心に漣が起き、それはやがてほぼいっぺんに巨大な嵐と化す。

 はっきりと憲太郎は認識した。コイツも自分を悪とみなす、今まで僕を苦しめてきた奴等と同じタイプの奴だ。

 腹立たしい、腹立たしい、腹立たしい…………!!

「畜生、畜生、殺す、殺す……殺す殺す殺す殺す殺すッ!!!!」

 憲太郎の双眸に燃え上がる寒色の炎。聞くに堪えぬ恨みの言と共に放たれる邪気に応えるように、その身の“破壊の力”を一際強烈にスパークさせ、姫鶴脩は臨戦態勢を整えた。

 硬く握った拳から放たれた脩の初撃。体内、そして空間。そこに須らく存在する熱量……エネルギーを急速に高めてその手に集約し、空気中のイオンを高温のプラズマとして具現化し……あらゆる物を焼き切り、時に無残に打ち砕く、脩の“破壊の力”。

 それを弾丸と成して、掌から次々に撃ち放ち、邪術師・憲太郎を追い詰めていく。

 負けじとヴードゥー人形や弾幕を放って抵抗する憲太郎。脩はそれすら物ともせずに、破壊の力を存分に揮って各個撃破し、殆ど自棄糞でバラまく米田の高密度の弾幕をその眼をもって全てかわし切り、その後一気に攻勢に転じ、圧倒する。

「お前は、壊す…………」

 その呟きに……宣告に込められているもの。それは、確かな、敵意……いや、殺意。

 今ここで自ら“悪”を為す決意と、脩にとっての“悪”。その存在が、破壊の力を更に強める。


「嘘……っ。これ、皆…………!」

「えぇ。あの邪術師が作った奴隷、所謂ゾンビー」

 相変わらず、天海高校の校庭は生ける屍で溢れかえっていた。土気色の肌、かっ開いた瞳孔、覚束無い足取り、微細道を続ける四肢……ここに生者の存在を認めれば直ぐにでも襲い掛かってきそうな、焦点無き、しかしギラギラとした眼を持った彼等に、有紗は思わず身を竦める。

(だけど、見なきゃいけない…………!!)

 分かってはいる。彼女は……リリィ女史は言った。歯車はもう、回りだしていると。眼に映る全てを現実と受け止めろと。

 だが……、何百もの魂なき者たちの呻き声が奏でるオーケストラは有紗にとって、あまりに不快な音色だ。ただぼんやりと聞いているだけで、頭に、心臓に、締め付けるような痛みを覚え、遂には立ち上がる事も儘成らなくなる。

 霞む意識と視界の中で一生懸命眼を凝らし、息を呑んだ。先を行っていたリリィがゾンビー達の前に立ちはだかっている。

「邪気に長くあてられたか……全く、今も昔も人間という者は脆弱そのものだわ」

 蒼白い氷よりも冷たい笑いを、その口元に湛えながら…………!!

「けれど……貴方達なら、まだ救いはありそうね…………」

「リリィさん……何を!?」

 声を絞って有紗は黒い少女に問う。

「生憎と……私も、まともな人間じゃあないのよねぇ…………」

 そう言を返し、すっと眼を閉ざしたリリィの意識が空間に広がっていく。彼女の周囲を一際強く暗い風が疾駆はしると、キィ、キィという甲高い音が何処からともなく響き……有紗は、思わず目を疑った。

 リリィの足元から何百匹、いや何千匹もの吸血コウモリが飛び立ち、あっという間に曇り空を覆いつくしたのだ。それを眼にしたゾンビー達の群れは……その光景に恐れをなしたのか、その全てが暗い空を見上げたまま呆然と立ち尽くしている。

 一様に、彼等の表情には“恐れ”があった。彼の者達のそれを認めたリリィの口元に笑みが零れる。

「ふふ……っ。憲太郎君とやら、どうやらとんだ粗悪品を掴まされたみたいだわ」

 白く細いリリィの右手がゾンビー達に向けられ、吸血コウモリの大群は信じがたい速度でもって彼等に突撃する。

 奴等が必死に振り払おうと手足をばたつかせるが、コウモリはそれをひらりひらりとかわし、次々とその首筋に牙を突き立てていく。

 これこそ、邪術師が掴まされたパウダーが、“粗悪品”である証拠だ。本物の邪術師により生成された純粋なゾンビーパウダーで作られたゾンビーなら、人が生まれながらに持つあらゆる思考や感情も全て消え去り、その中身はそれこそ術者から与えられた命令を実行するだけの機能ほんのうしかなくなってしまう。

 彼等が襲いかかるコウモリを跳ね除けようとしたのは間違いなく、無数のコウモリが自らの首に牙を突き立てる事を恐れていたからであろう。噛み付かれれば血を吸われる、血を吸われれば殺される、それを彼等は理解しているのだろう。彼等は恐ろしかったのだろう。

 “恐怖”という人間の感情が、彼等をあれほどまでに必死な防御行動に走らせた。完全に邪術師の統率下にあるゾンビーであればその襲撃に気づかず全く抵抗すらしないか、それこそ一寸の狂いもなく周囲を飛び回るコウモリを叩き落としていただろう。

 そして、それこそが、まだ彼らに人間が……救いが残っている証拠だった。


 曇り空をコウモリが乱舞する。標的の首筋を捕えて生の証を奪い取っていく。

 一人、また一人と制服姿のゾンビーは崩れるように倒れていき、ものの一分かそこらでその全てが鎮圧された。

 有紗は終始、その光景を唖然としたまま眺めているだけだった。一仕事終えたコウモリ達は再びリリィの足元に飛んでいき、小さな影に吸い込まれるかのように一匹残らず何処ともなく消え去る。そこに残されたのは累々と横たわるゾンビーだった者達の群れだけだ。

「大丈夫。ゾンビーパウダーに犯された分の血をほんの少量抜き取っただけよ」

 静かに言ってのけたリリィ。倒れた者の一人を覗き込むと、その顔色は生気を取り戻して明るさを取り戻し、幽かな呼吸すらしている。体内に蓄積されていたゾンビーパウダーの呪縛が解かれたようだ。

 それでも、有紗は言葉が出ない。目の前で起きた出来事が何から何まで信じられなかった。死を恐れる哀れな人が、永遠の生への憧れから、紙の中に作り出したものでしかない筈の存在……。

 吸血鬼ヴァンパイアが、二十一世紀のこの時代に存在しているとは。

 そして目の前で幽雅に佇む、いたいけな白磁のブロンドの少女が、まさかそれだとは!!

(これじゃまるで、『イトヤマ』のシビリーそのものだよっ!!)

 口元が痙攣する。無論、紡ぐ言葉も出てこない。足も打ち付けられたように動かない。有紗自身、目の前に起きた現実に抱いている自分の感情が一体どんなものなのか、全くもって分からなかった。

「ボサッとしていないで。有紗さん、聖水をお出しなさいな」

「…………え? はっ、はいっ!!」

 慌ててトートバッグの中を探ると、ついこの間目にした聖水があった。その数は五百ミリリットルのボトルが約八本ほど。

 吸血鬼の少女の言に従うままに、有紗はゾンビーの浄化作業に取り掛かる。意識をなくしたゾンビーの体に少量ほど聖水を振りかけるだけという拍子抜けするほど単純なそれが、有紗には恐ろしくてたまらない。

 ひょっとしたら倒れているゾンビーが息を吹き返して首筋に食らいついてくるのではないか、と。本当だったらすぐにでも脩のもとへ向かいたいと思っていた。その身を抱き留めてやりたいと思っていた。しかし……。


(……その細ぇ腕で奴等に勝てるとでも言うのか?)


 いつかの脩の言が思い起こされる。改めて自分の細い腕を見て、その意味を解する。

 ……自分に出来る事はそれこそ、ほんの小さな事しかない。ならば、今はそれをするべきだ、と。

 その手のボトルを改めて強く握り、今なお震える足を前へ進め、黒い少女とともに有紗は眼前の作業にかかる。


「殺してやる! 殺してやる!!」

 暗黒神殿の中を脩が、憲太郎の弾幕が、飛び交っている。その全てを脩は軽やかに宙を翔けてかわし、標的を外れた憲太郎の弾幕は、神殿の壁にぶつかって悉く消滅する。その一撃一撃に込められているのは、確かな“怒り”だ。

 それが正のそれであれ、負のそれであれ……。“怒り”は、周囲の空間にビシビシというラップ音を響かせ、その環境下にある人間に少なからず……しかし確実に影響を与える。思春期のまだ柔らかい脩の肌に、細い針が疾走はしるような痺れを憶える。

 成る程、こいつは確かに本気のようだ。それを認めて改めて、脩はその意を決した。

 確かな本気には、それを凌駕する本気で応えるのみ。脩はその身に宿る力の出力を更に高める。

 憲太郎を守るように展開するヴードゥー人形を悉く叩き壊し、抉じ開けた隙間に有りっ丈破壊弾を撃ち込む。砕け散った人形から飛び散る恨みの念も弾丸となり脩を襲うが、上下へ、左右へ、時には弧を描くように飛翔し、それらを全てかわし切る。それと織り交ぜるように飛んできた釘の弾幕も、すぐさま破壊弾で打ち消す。

「……どうした。テメェの怒りってのはそんなもんかよ」

「何だ、と…………っ」

 背後の憎悪。脩に挑発された憲太郎のその憎悪の炎が、一際大きさを増す。

「ふざけるな……っ!! お前なんかに…………」

 憲太郎のただでさえ崩れ歪んだ表情が、憎悪と狂気で更に、更に醜く歪む。

「お前なんかに、僕の苦しみが分かるもんか! 毎日毎日椅子に画鋲を敷かれたり、机をカッターで切られたり、体育館裏でリンチされたり! 挙句に万引き犯に仕立て上げられて、教師にも散々謗られて、仕舞いには退学処分を喰らった僕の気持ちなんて分かるもんかッ!!」

 火を噴くような呪詛の言葉が、止まる事なく釘の弾幕と共に吐き出されて脩に襲い掛かる。何の変哲もない釘でも、憲太郎の恨みの念とブードゥーのおぞましい呪波にあてられたそれは、一突きで確実に人の命を奪えるだけの威力を持つ。

「苛めは悪だ。それくらいお前の頭でも分かるだろう? それを娯楽としてやったなら尚更だ。僕はずっと悪に苛まれて来た。存在してはいけない、ゴミみたいな奴等に、ずっとずっと苛まれて来た……」

 それだけ、奴の恨みは根深いのだろう。苦しみは耐えがたいそれだったのだろう。それが力に変換され、力は鋭い釘の弾幕に姿を変えて、脩を絶え間なく、襲っている。脩でもこれだけは十分分かっている……。

 奴の憎悪が、紛れもない本物だという事は。だが、彼は奴の憎悪を認める訳にはいかなかった。

 “本物”だからこそ、絶対に認める訳にはいかなかった。容易に人を悪とみなし、安易に人をゴミ呼ばわりする邪術師の正義を、決して認めるわけにはいかなかった。

「だから僕は復讐するのさ。人を傷つけてのうのうと生きるなんて、許されてはいけないのさ。誰かを傷つけたらそれ相応の報いを受けなきゃいけない。目には目を、歯には歯を……それこそが正しいのさ。僕は正義だ。僕は裁きを下すものだ。怯えろ。裁かれろ。そして皆地獄へ墜ちろぉぉっ!!!」

 理性の箍が外れた狂気の笑いを、憲太郎は浮かべる。もはや奴は真っ当な話が出来る状態ではない。

 狂気はついに憲太郎の体から溢れ出し、ヒステリックな高笑いが神殿内に残響する。脩にとっては耳障り以外の何物でもない響きが。


「……るっせえんだよ、テメェは」

 突然に脩が高速で迫ったのを認めた頃には既に遅く、破壊の力を伴った強烈な右フックが、憲太郎のテンプルにクリーンヒットする。

 そのまま憲太郎の身体は横にすっ飛び、神殿の壁に勢いよく叩きつけられた。バァン、という鈍く激しい音が響く。

「ぐほぁっ!!」

 全身をそこに満遍なく打ち付け、荒く大きい息をする憲太郎に、容赦なく脩の破壊弾が降り注ぐ。

 脩は確実に、強烈無比なその身に怒気を迸らせていた。その気は徐々に体外に溢れ出て具現化され、翠のオーラが脩を取り巻くように棚引く。

 あまりに高い熱と圧力を持つオーラは憲太郎をじわりじわりと圧倒する。彼を見つめる脩の眼……。そこに宿るのは“破壊の力”が形を為した暗い炎。憲太郎の歪んだ思想程度なら容易く焼き尽くす程の熱を、その炎は持っている。

「目には目を、歯には歯を……だと。何を履き違えてやがる」

「なん……だ、とっ…………!」

「目には目を、歯には歯を……。そいつぁ目を誰かの目を潰したらそいつも目を潰されるって、単純な意味の言葉じゃねぇ」

 安易に復讐を為せば、それは新たな恨みの種子となり、恨み、憎しみ、悲しみは、永遠に消え去る事はない。今現在も世界規模で陰ながら行われる紛争。巷の低俗なニュースは必死に言葉を濁すが、その構図はあまりに単純だ。

 宗派や人権や不法行為などの下らない理屈付けによる攻撃、それに対する報復、そのまた報復。二倍が四倍、四倍が十六倍、十六倍が二百五十六倍、二五六倍が六五五三六倍…………この下らない構図により、世界各地で泥沼のような血みどろの争いが、何時終わるともなく続いてきた。

 跡に残されるのは、それに理不尽に巻き込まれた、抗う力を持たぬ哀れな達の骸の山…………!!

「……やられたのが目だけなら、その復讐も目だけで満足しろって事だ。哀しい恨みの連鎖はどこかで、テメェ自身で断ち切れって事だよ。くだらねぇ復讐以外の方法でな」

 誰かが非を認めていれば、そして心から詫びるなり何なりの対策を立てて行動に移せば、最悪の事態は免れた。

 ……愚者は全てを失ってから、初めてようやくそれに気付く。だがそれではあまりに遅く、払う犠牲も多すぎる。やられたらやり返せの信条を崩さない心持ちでは、何も終わらない。何も解決しない。怨みや憎しみは絶対に消えない。

 だが、ここに、それを解さない者が、確かに存在している!!

 その事実が、脩を激しく駆り立てる。

 冷徹な怒りとともに、憲太郎に向かって帯状の閃光が飛翔する。あまりに超高速の、まさに雷撃と呼ぶに相応しい突然の攻撃に、防御の呪が間に合わず自身の肉体でそれを受け止めた憲太郎の体が強烈な熱に晒される。

 学生服の中心に大きく粗雑な穴が空き、そこから白煙が濛々と吹き上がる。

「テメェ……いつまで善人ヅラしてやがる」

「なんだと……なんだと…………ッ!!」

「悪に苛まれたから自分は正義だとか、正義だから悪の行使も許されるとか……この世にそんな理屈が通ってたまるかよ。正義ってのがどんなものかろくすっぽ理解してねぇくせに、悪を為す許可がそうそう容易く下りてたまるかよ……!」

 脩は自覚している。悪と対峙し、悪を叩き潰して回る自分が正義ではなく、また形の違う悪である事くらい。自分の行いが決して善行ではない事くらい。正義や善行、愛と平和などという甘い言葉が、どれだけ欺瞞に満ちたそれである事くらい。

 そして何より、悪を為すという行為が、どれだけ覚悟がいるそれである事くらい。

「なぁぁぁあぁぁぁーーーーに知ったよゥな口ぃ叩いてんだァァアこんんのクズカスゴミがあァァァァアアアァッアァァアア!! ロクロク痛い目に遭っタ事もなイくせに、平和な暮らしの中でぬくヌく生きてキたくせに偉そうに説教タレてんなよダボがぁアエェェェエエァェアアァァエァエアッァァァァ!!」

 だが、どうやら脩のその言を解する事は、米田憲太郎には不可能だったらしい。復讐という自分の中の正義に取り憑かれ、己を否定する者は悪としか映らない今の憲太郎が、それを理解できる筈などなかった。

 自分を認める事など……自分の中の悪と向き合う事など、憲太郎のような者にできる筈などあるわけがなかった。

 全身を巡りゆく憲太郎の濃厚な邪気。脩が放った閃光を受け止めた胸の辺りに台風の目が形成され、邪気は轟々と渦巻く黒き奔流と為して、目の一点に集約されていく。

「死ぃいぃぃいいんじいいぃうぃぃむっぁあああええぇぇえぇえぇえぇぇえぇぇぇぇえぇええっこんんんんんんのぉぉぉおおビチグソヤロウォオォオオおおおおおおおおお!!」

 刹那、憲太郎の胸に渦巻く邪気の中心点から、巨大な蛇が這い出す。長さにして八メートルを言うに超す蛇は、黒光りする鱗を全身に張り巡らせたその胴体を伸ばし、鎌首を擡げながらその血走った深紅の眼をもって対峙する脩を見下ろしている。鋭い刃物の如き双つの牙の先端からは絶えず毒液が滴り落ちている。

 狂気を、殺意を込めた邪術師の咆哮。それを合図に蛇は威嚇も何もせずにその大口を以て、脩を一呑みにしようとまっしぐらに向かっていく――――。


 その巨頭に、膨大な力を込めた脩の拳鎚が振り下ろされる。鋼すら焼き尽くし打ち砕く、その撃力に大蛇の頭程度が耐えられるはずなどなく…………。

 蛇は一瞬全身を碧に明滅させ、鱗に覆われた巨体はバラバラと朽ちて、骨もたちどころに熱とともに灰に還る。


「……なら、テメェのツルッツルの脳味噌でも分かるように言ってやる」

 バチッ、バチッ…………!!

 脩の力が空間でショートし、放電現象が巻き起こる。大気中にバラバラに存在していたそれらは一つ一つが寄り沿い集まっていき、大小さまざまな球形の何かを作り、脩の周りを浮遊して、ぐるりと等間隔で取り巻く。

 碧のプラズマを練り上げた、幾つもの高い追尾性能を誇る珠をもって、脩は憲太郎を追い詰める。幾つも、何度も光球を生み出し、反撃に転じる一瞬の隙も与えぬ心持ちで……珠を、怒りを、力を、ひとつひとつ渾身の力で叩き付けていく。

「俺はテメェみてぇなクズを……絶対ぇ、生かしてはおかねぇッ!!」

 熱き碧の光球。そのうちの何発かが、憲太郎のボディを綺麗に捉えた。直撃した部分からぼん、ぼんと、爆音と鮮やかな炎が吹き上がる。その後も何度も光球は憲太郎のボディを襲い、その身体を着実に壊していく。

 左腕が、右足が、消し飛んだ。胴体部分に直径一五センチを越す風穴が開いた。粗雑に焼き切れた傷口からは出血はなかったが、確実にその体に痛みはあった。

「うぁっ、うあぁぁ!!」

 四肢の一部を失った事でとうとう半狂乱になった憲太郎。脩は構わずそいつに急接近し、数秒後には互いの距離はほぼ零になる。

 完全にがら空きの憲太郎のボディ……その手前にある空間に力を伴った掌を叩き付ける。

 練り上げられた破壊の力。それが形成された“攻性の盾”。それが瞬間的にスパークして脩の前方に運動エネルギーを生み、一撃のもとに憲太郎の肉体を、それこそ徹底的に、満遍なく叩き潰す。


 それが、とどめとなった。


「うわっぁぁあああああぁぁあぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 悲鳴を上げながら後方へ吹っ飛んでいく憲太郎が叩きつけられた神殿の壁の一面が、けたたましい音を立てて割れる。

 その間も彼の飛翔速度が死ぬ事はなく、憲太郎の身体はそのまま勢いよく石造りの校舎の四階部分に叩き付けられ、天から零れる雪の結晶のごとくふらふらと自由落下して大地に臥し、ようやく止まった。

 頭から、胴体から、そして四肢から……夥しい量の血が湧き出てくる。少しずつ黒く濁る意識の中に、クラスメイトに蔑まれ、教師から疎まれ、親族からも謗られた日々が、走馬灯のごとく、残響音を伴って蘇って来る。

 憲太郎は、別に彼らが妬ましかったり、憎かったりした訳ではなかった。自分は、自分を人として見て欲しかっただけだった。

 だけど、こいつ等はそれすら許さなかった。だから、そいつ等に思い知らせてやりたかった。分かってほしかった。

 自分の……他ならぬ米田憲太郎の、純粋な、怒りを。

 それなのに。それなのに……。それなのに…………!!

「ちく、しょう……ち、く、しょ……ぅ…………!!」

 命の灯が消えるその刹那まで、憲太郎は己を傷つけた者達への呪詛の言葉を、絶え間なく、漏らし続けた。

 ボロボロになったその亡骸の中から、黒い小さな蛇が一匹這い出し、憲太郎に対する興を失ったかのごとく、何処かへと這いずって去りゆく。


 結界の……暗黒神殿の収縮音が、天海高校校庭に響く。いつの間にか地上に降り立っていた脩はぱん、ぱんと、ジャケットに付いた埃を払い落とす。

 あれ程の怒涛の弾幕の中にその身を晒していたというのに、脩の身体には掠り傷どころか一滴の汗もない。彼にとってはあまりに容易い戦闘を一つ終えた脩の背後に、いつの間にやら黒い少女が涼やかな笑みと共に立っている。

「片は付いた、みたいね」

 脩は、何も答えない。

「ゾンビー達の浄化ブレッシングも粗方完了したわ。暫くすれば眼を覚ましてそれぞれの家に戻るでしょう」

「御苦労さん……そいつぁ何よりだ」

「それに…………これも、あるべき場所へ還さないと……ね」

 そっと差し出された少女の腕に握られているのは全長三〇センチ足らずの小さな蛇。尻尾と鎌首を振り乱してみっともなく足掻くその様は、先程までブードゥーの邪気にあてられた、米田憲太郎に邪なる魔力を与えていた、精霊体ロアという危険な存在であった事を微塵も感じさせない。

 黒い少女がその胴体に爪を突き立てると、蛇はその体をたちまち黒に染め、そのまま炭化してバラバラと崩れ落ちる。後に残されたのは三人一組の少年少女、ゾンビーパウダーの呪縛から解かれた生徒と教員、そして最早哀れむ価値も見る影もない愚かな邪術師の屍だけだ。

「操られていた時の記憶がないのは少々不憫なものね。朝になればまた彼等は、あの子が消えた世界でいつも通りの日常を繰り返す……何事もなかったように」

 そうだ。奴が……米田憲太郎という邪術師が一人消えたところで、この世界がすぐにでも滅びるわけはない。米田に操られていたゾンビー達も呪縛を解かれ家路に就いている今、また新しい朝が来れば、いつも通りの日常に戻るだろう。

 何人か、奴の所為で死人も出てしまった。そして邪術師は……憲太郎はそれに相応しい報いを受けた。

 だが、それで死んでいった者達の無念、残された者の悲しみが、癒える事はなかろう。必ずしも時間だけが解決する問題ではなかろう。

 もしも、彼の者の死をもって全てが解決できるなら、一体どれだけ幸せな事だろうか。

 しかし、それは決して叶わぬ事。生き残った者達はそれらの重すぎる苦しみやら悲しみやらを、一生涯抱えながら生きるだろう。

 たった唯一、許されざる罪の償いが出来る者が、こうして今、この世から消えたのだから…………。

「しゃあねぇさ。咎人の末路なんざ、往々にして……こんなもんだ」

 呟きが、明るさが戻り始めた空に溶けていく。そっと振り返り、そこに幼馴染の少女の存在を認める。

 一拍の間の後に、二つの視線が、ここにぶつかった。


(貴女は見なければならない。そして、その瞳に映った全てを、確かな現実として受け止めなければならない)


 あの言葉が再び、有紗の中にリフレインする。だけど、この現実は、あまりにも八幡原有紗という少女にとっては…………。

「しゅ、脩……脩…………っ」

 二の句が、どうしても継げない。幼馴染の少年に、この世のものとは思えない力が秘められている。既に数度その片鱗を垣間見ているとはいえ、どうしてもその真実を許容できない。

 そして、その力をもって、脩は一人、人を殺した。それらの事実がごっちゃになって混じり、練成された一つの答え。

 “彼は、人じゃない”……。

 足も、口も、なかなかどうして動いてくれない。今この場で起きた現実。今まで共に過ごして来た時間。

 それらが何度もオーバーラップし、有紗の中の脩の存在かたちを、じわりじわりと曖昧にしていく。

 次は自分に、あの力が向けられるのか……。有紗は恐怖に駆られ、その身を一回り萎縮させる。

「有紗」

 脩が、沈黙を破る。お前の言いたい事は、何も言わずとも分かる。そっと呼んだ彼女の名前には、確かな意味があった。

 一二年来の幼馴染という関係を持つ、二人の間にだけ通じる言葉。音にこそならなかったが、脩は、それを察して句を繋ぐ。

「この世界には、世間の常識とか法律とか、そんなくだらねぇモンが通用しない奴が沢山いる…………」

 この世界に確かにある、不思議な力。人の常識や法律の及ばない世界にある、人の心が生む力。

 それらを“迷信”とする者がいる限り、力を持つ者はそれに溺れ、時に心の隙を付け込まれ、そして……非道へ堕ちゆく。力なきものはそれを欲して欲望に呑まるる。彼らはその力ゆえに、人の裁きを免れ、それを善い事に驕り昂り、死を、破壊を、そして哀しみを、無尽蔵に撒き散らす…………。

 それは決して許されてはならない存在。法が通じぬ存在でも、誰かが裁かなければ、その哀しみは終わらない…………!!

「…………そのために、俺みてぇな奴がいるんだ」

「脩…………っ」


 白々と明け始める夜の街の中に消えていく脩の背を、有紗はただ、呆然と見つめる事しか出来なかった。

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