弔辞は笑顔で語られる

 焦点街では死人が毎日のように出る。

 それは喧嘩から発展したものだったり、命知らずの荒くれ者同士の決闘だったり、殺人鬼によるものだったり、怪忌に魅入られたことによるものだったりと、原因は様々である。

 死体は放っておけば腐る。腐れば悪臭を放ち、蛆が涌き蝿が集り衛生上非常によろしくない。

 その死体を片付けることを業とする、「弔い屋」と呼ばれる男が一人、焦点街にいる。

 名をエラルド・セイメイ・カクリ。

 エラルドは死者の臭いを嗅ぎ付け、何処にでも現れる。目撃者から通達を受けてその場に赴くこともあるが、殆どは自分で発見する。今もまた焦点街の一角で、死体を見つけたところだ。

 浅葱色の髪を逆立て、髪と同じ色をした瞳は静かに苦痛に歪んだ死者の顔を見ている。

却説さて

 屈み込み、横たわる死人と目を合わせる。

「君の出身は?」

「ふむ。第四世界『アヴァロン』か。お望みは土葬かな?」

「よしわかった」

 エラルドは一人でそう呟き、地面を死体を囲うように指でなぞり始めた。指で長方形を描き元の場所に戻ると、地面をなぞっていた指を少し上に向ける。すると指で描いた線上に木の板が迫り出し、死体を囲った。さらに指を動かすと上部にも板が広がり、棺となった。

「おい手前」

 今一度死体を覗き込もうとするエラルドに声をかける男が一人。エラルドがそちらを向くと背の高い男が拳銃をこちらに向けていた。

「そいつは俺に喧嘩をふっかけてきたクソ野郎だ。ぶち殺してやったがまだ収まらねえ。弔い屋だか何だかしらねえが、そいつはそこで晒し者になってるのがお似合いなんだよ。勝手なことをするんじゃねえ」

「死なば諸共」

 一つ咳払い。

「違った。死ねば皆仏。生前がどんな者でも弔うのは当たり前だろうさ」

「第一世界の思想を焦点街で口にするもんじゃねえぜ」

 やれやれ、と云った様子でエラルドは肩を竦める。

「僕の能力は〝死人にお喋りデッドメンテルエニーテイルズ〟。死体に話しかけることで、その死体から好きな情報を引き出せる。この能力のせいで、僕はこんな業を背負っている訳さ。それでも、これは調べものには役に立つのさ。僕はね、ある女について調べている」

 さかい三千世みちよ――エラルドが言うと、男は途端に蒼褪めた。

「お前は、狂ってる!」

「ほらこれだ。彼女の名を口にするだけで誰も話をしてくれない。だけど死体は僕に従順だ。少ないながらも、知っていることを全部話してくれる。そしてどうやら君も、知っているようだね。

「さあ、

「土葬か?

「火葬か?

「水葬か?

「風葬か?

「鳥葬か?

「好きなのを選ぶといい」

 男はすぐさま銃の引き金を引く。

 エラルドの姿は既に男の前から消失していた。

「〝狙屠刃そとば〟――〝貫生かんき〟」

 男の背後に回っていたエラルドが指を上に向けると、地面から無数の刃が迫り出し、男の全身を貫いた。

「却説」

 全身から血を垂れ流す男に向かい、エラルドは柔和な笑みで話しかける。

「話してもらおうかな。彼女について」

 死体の声を彼は聞く。

 死体の声が彼を呼ぶ。

 今日はあそこに明日はここに。

 死人に口なし死人にお喋り。

 死体と話すは弔い屋。

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