Black Cross -ブラック・クロス-

乙島紅

プロローグ

大巫女マグダラ 最期の予言




 『終焉の時代ラグナロク』が始まった。




 聖地ナスカ=エラより、各地に伝えよ。


 これより世界は、そう遠くないうちに終焉の危機を迎えるだろう。


 もって十年。


 の地にて、人類への失望を極めた破壊神が誕生してしまった。破壊神は天災を引き起こし、破壊の眷属けんぞくを使って生きとし生けるものを殺戮しようとするであろう。


 人類に襲いかかる危機はそれだけではない。


 近いうちに今争い合っている二大国では到底及ばぬような、力を持つ者同士の戦いが起こる。


 創世神話・第十三章「最後の神議かむはかり」にて定められた、『契りの神石ジェム』の覚醒じゃ。


 『契りの神石』の力は、神より愛されし者共に託される。世界を壊すも、再興するも、その者共の意志次第となろう。


 死にゆく儂には行く末をることなどできぬ。じゃが、せめて『終焉の時代』を生きる子らの幸福を祈る。


 天地神明、ご加護があらんことを。




***




 ミトス創世暦九八九年、それは工業大国ガルダストリアと呪術大国ルーフェイの二国間大戦が佳境に差し迫っていた時期のことであった。


 長いあいだ寝たきりであったはずの大巫女マグダラが突如目を覚ました。医師にはもう二度と目を覚ますことはないと言われていたのにも関わらずである。


 彼女の寝床を囲んでいた大勢の付き人たちはその奇跡に歓喜し、すぐさま食事や湯浴ゆあみの支度をしようとした。しかし、大巫女はそれを望まなかった。付き人たちを制すると、第一声に予言を告げ、そのまま眠るようにして息を引き取ったのだという。


 マグダラの最期の予言は、その日のうちに世界各地に伝えられた。


 そして誰もが耳を疑った。


 これまでに幾度も世界に起こる出来事を言い当ててきた大巫女も、さすがに死の間際では人の子であったか。いにしえより伝わる創世神話などただのおとぎ話でしかない、それがこの時代の共通認識だったのだ。


 しかし、人々はすぐさま『終焉の時代』の幕開けをの当たりにする。


 二国間大戦の戦場を未曾有みぞうの大地震が襲ったのだ。多くの者たちが地割れの中に飲み込まれ、戦地は敵も味方も分からないほど混迷を極めた。


 強大な力を誇っていたはずの二大国は、長きに渡る戦争と突如起きた天災により互いに疲弊し、ほどなくして終戦のための講和条約が結ばれた。




 それから七年の時が経ち、世界は大きく変化した。しかし、戦争が終結したとはいえ、未だに破壊神による終焉の危機を終わらせる者は現れない。


 人類に残された時間は、あとわずかになりつつあった——。



***

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