第6話

 レスポールとの特訓を終えた。しかし、休憩することもなく、タイムマシンは孫権の血を引く人の元へと到着した。


「取り敢えず、これ飲んで」


 レスポールはおれに赤と白のカプセル型の薬を渡した。


「これは?」


「これは正式名称はまだない。一応、魔法薬学AX-67型って呼ばれてるもの。どんな相手でも意思疎通できる薬だよ。ちなみに僕と君が会話出来てるのは元々僕が日本語を知ってたからだから」


 そう告げるレスポールの顔はどこか引き締まっていた。おれはその薬を受け取り口の中へ入れる。錠剤を飲むように勢いよく呑み込む。それを横目で確認したレスポールは静かに言い放った。


「じゃ行くよ! 1999年の中国へ!」


 刹那、タイムマシンの天井が開く。レスポールはそれと同時に出現した階段状のものを一気に駆け上がる。

 おれも負けじと駆け上がる。そして登り終わるとそこには見るも無残な光景が広がっていた。

 道端には血を流して倒れている人。血の飛んだ壁。少し先には燃え盛る家々。どう見ても普通の状態ではない。


「うぅ……」


 平和な日本で過ごしてきたおれには残酷すぎる光景で思わず吐き気に襲われる。


「大丈夫かい?」


 レスポールは意識を別の場所にやりながらおれの背中を擦り訊く。


「た、多分……」


「そうかい。まだ孫権の血を引く"孫 近周(そん-きんしゅう)"は生きているな……」


 おれのことはほとんど気に止めず、腕時計から現れたホログラムの画面を見つめている。

 これはレスポール曰く、偉大なる10人の魔力に近い存在を感知する機能らしい。

 だが今のおれにとってレスポールの持っているものはまだ謎だらけだ。少し世界軸がズレただけでこんなにも違うものなんだな……。この時おれはしみじみと感じた。


「剛くん、いくよ」


 その言葉でおれは思考をかき消した。

 何故このようなことになっているかは分からない。ここは過去。歴史上、1999年は既に戦争も終わっているはず。なのに……、何故。世界軸がズレているせいなのか。おれの知らない歴史が存在するってことなのか。

 おれは疑問が解けないままのもやもや感を抱えながらレスポールの後について行った。



「近くなってきた」


 白いウェットスーツのような服と学生服という場違いな格好をした2人が数十分間スラム街のような荒れた土地を移動しながらレスポールが呟く。まだ周りの光景は到着地点とほとんど変わらない。

 次の瞬間。ドーン、という轟音と共に大地が揺れ、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。


「な、何だ!?」


 おれはキョロキョロしながら叫ぶ。

 するとレスポールが奥歯を噛み締めながらぼそっと告げた。


「魔獣だ」


 おれは喉の奥をつかまれたような感覚に襲われる。かすれ声すら出ない。襲われてまだ5時間程しか経っていないおれにとって魔獣は恐怖の対象でしかない。

 身震いがし、足ががくがくする。正直、立っていることすらままならない。


「居たっ!」


 レスポールが指を指しながら声を上げる。嫌だ。誰も傷ついて欲しくない……。

 ゆっくりとレスポールが指さす方を見る。

 おれはその場の状況を見つめ目を見開いた。

 チャイナ服を纏った可憐な花びらのような女の子が刀を握り、片眼に眼帯をして、自分より3倍近くも大きい魔獣と戦っている。


「こ、これは……」


 レスポールがまたホログラム画面を浮かび上げ、感嘆の声を漏らす。そしておれにそっと告げた。


「この子はもう魔力を開放している。この子を絶対に連れていくよ」


 その言葉にその眼に強い意志を感じられ、おれはこくんと頷いた。


「炎・風刃」


 茶色のセミロングの髪の毛が風に揺れる。上部でまとめていた髪が激しい戦闘で崩れたように感じる。女の子はそんなのお構い無しに叫び刀を振る。

 刀が空気を斬るたびにそこから炎が燃え上がる。

 凄い、本当に魔力を開放している。そう思いながら手のひらを女の子を襲う魔獣に向けた。


氷塊オルム・ブルト

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