第3章 俺が変えゆく二つの世界
第38話 サキサキ再び☆
「ぐふぅっ」
一瞬前までも神秘的情景に似合わない呻き声。その主は俺だ。
「あっ、ごめん」
先ほどい世界への扉を堂々開いたわけであるが、着地の仕方とか知らないし、どういうことか真澄が俺の上から降ってきた。んで、さっきの声だ。
いや、正直ご褒……ごぶっ(吐血)。
漫画とかなら結構憧れるシチュエーションだけど、現実はもっと血みどろだった。激痛。
顔を上げる。いつか見た大草原が広がっていた。
着いたのは、例の世界と世界の境界とされるその空間だった。相変わらずだだっ広いだけで何もない。本当につまらないところだ。
だが、
「うおおお! すっげえ」
居鶴は大興奮のご様子。まあ予想はしてたけど。
「でもあんまり異世界って感じしないな、もっと身近な……外国って感じだ」
「まあここは前言った通り、何にもないただの繋ぎ目らしいからな。さ、行こうぜ」
「おうよ! ……って、どっちに?」
「…………」
アアアアア! 何も考えてなかったァアア!
「うそ、あんた何の考えもなしでここに連れてきたの?」
「あっ、えっと、そのあのあの」
だって、行けるかなって思ったんだもん。可能性感じちゃったんだもん。……うえぇん、どーしよぉお!
こんな需要のない「はわわ……」をやってる場合じゃない。
本気で考えないとマジで一歩も動けない……。目的地に到着できないどころか餓死してしまう。
周りは見渡せば見渡すほど何も無……ん?
何かが飛んできた? こっちに向かってくる……?
すごい速さだ。そしてそれは、俺たちの前で急停止した。
「んお? 君は」
「……諌紀!?」
その少女、徳井諌紀は以前ディストルに来た時に会った。まあちょっとアレな人であるわけだが、今日も前とはマイナーチェンジした感じの魔法少女っぽい衣装を身にまとっていた。
「ああそうだ、飛沫くんだ。何でこんなとこに?」
「いろいろあって……ってそうじゃなくて、そっちこそ何でここにいるんだよ!?」
「言ってなかったっけ? アタシもやってるのですよー! 配達の派遣!」
「……同業者だったのか」
「まあねー。はこみんは知らないみたいだけど、それなりに長くねー。はこみんにはまあ、本人の意志とは別に協力してもらってるっていう感じ! 頼まれた荷物の配達日に友達と遊ぶ予定入っちゃったからそのままはこみんに流したりとか! 限りなくグレーに近いブラック!」
「それ黒じゃねぇか!」
さすが異科学少女(というのにふさわしい年齢なのかはさておき)のサキサキだぜ! 謎が多すぎるよ!
羽込と同い年って言ってた気がするけど、本当なのかな……。となるとつまり俺とも同い年なわけだが。
「配達やってるってことは、ディストルへの道とかも分かるんだよな!?」
「ん? まあわかるけど」
パンショッシャ(高い声で)キタァ ウワァヤッタアアア!!!!
「ふふ、ここまで全部計算通り」
「「「……」」」
三人ともすごい目でこちらを見る。というか睨む。
「凄く凄くごめんなさい」
この後めちゃくちゃ土下座した。あとついでに諌紀の紹介もした。
それを終えたとき、居鶴が思い出したように俺に質問をする。
「そうだ飛沫、何で苗加さんがそのディストルってとこにいるって思ったんだよ」
「あー、言ってなかったっけか」
異世界に行こうという提案だけして、羽込がいるであろう根拠を伝えるのを忘れていた。
「そのディストルっていう世界が俺が唯一行ったことのある異世界で、諌紀と初めて会ったのもそこだって言ったろ? その時なんだけどさ、あいつそこでだけは『運び魔』って呼ばれたたんだよ。んで、俺たちがこの前ジオイルに乗り込んだ時にも、連中は同じ呼び名を使っていた。それが一番の理由だ」
「運び魔……。すごい名前なの」
「苗加さんカッケー」
カッコイイかどうかはさておき、一発で覚えるインパクトのあるワードである。聞き間違えということは多分ないだろう。
「それと、科学技術には型があるって話したろ? つまりはその世界の連中は自分たちの世界の技術は常識だと思い込んでいる。でもそれって他の世界の奴からすると、やっぱり違和感を覚えるんだよ。例えば俺とか。あの世界には、変な形のヘリがあったりしたからな。さすがに印象に残る」
「異世界にもヘリとかあるのね」
自分の思い描いていた情景と齟齬があったのだろうか、美滝が「ちょっと意外かも」と声を漏らす。
「で、それと同じロゴの入った運搬車を、ジオイルビルの地下で見たんだよ。実を言うとそれ以前に見た記憶も
一体どういう経緯で森林を伐採することになったのか知らないが、明らかに俺たちの住む世界にはないメカニズムで動いていたあの重機。そして羽込はその光景に異様な反応を示した。そこにもジオイルが関与しているとなると、やはり異世界との繋がりを持っている可能性が拭い切れない。
「あとはまあ、感覚的なことだけど、人が放つ雰囲気みたいなものもやっぱり似てた気がする。いくら日本語を喋っていても、奴らは俺たちの地元の世界の人間じゃない。だってほら、外国人って何となく分かるだろ? そんな感じだ。だから、ジオイルの連中は本来ディストルの人間なんじゃないかって思った。多分羽込は、それも知っていたんだろうな」
あのロボットみたいな受付令嬢の顔を見た時も妙な既視感を覚えたし、もしかしたらディストルで見かけていたのかもしれない。その辺の記憶は曖昧だけど……。
「じゃあ突然で悪いけど、頼む諌紀! 俺たちをディストルまで連れてってくれ!」
俺は目の前の頭ひとつほど小さい少女に
「え、えー! 一応仕事中なのにぃー」
「そこをなんとか!」
「でもぉー」
諌紀は指を顎に当て、目を細めながら天を仰ぐ。
「頼む」
自然と声色が変わる。この望みを叶えてくれる人物は目の前にいるこの少女しかいないのだ。真摯に願い続けるしか無い。
「……あとでじゃダメなんだね?」
「ああ。急ぎなんだ」
俺は繰り返し、懇願する。真剣さをいかにして伝えるか言葉を探しあぐねるが、今はひたすら手を合わせ頭を下げるしか無い。
「頼む……! 羽込がヤバイんだ! このままここに立ち往生していたら、その間にあいつは何されるかわかんねぇ!」
俺は繰り返す。
「顔を上げて」
指示通り顔を上げると、まるで別人なんじゃないかと思うような目で、諌紀がこちらを見据えていた。
彼女はそのとき、何を見ていたのだろう。俺の何を量っていたのだろう。
「うん、そうだね。真剣みたい。わかったよ。案内する。でも」
でも、か。無理な頼みを受けるのに何か条件を提示するのは当たり前のことだ。
「ああわかった。俺に出来ることなら何でもする」
「あ、今、何でもって」
「もうどうにでもなれ!」
「やったー! じゃあねー、どうしよっかなー。すっごーいお願いしちゃおうかなー」
怖い。この人、本当にどこまで本気かわからないからやだ。この辺は羽込と似ている。
「うーんと、それじゃ、これ! 一回戻ってまた運びに来るの面倒臭いから、あとで運んでおいてよ」
「……え?」
諌紀が手を空へとつき出す。二の腕から徐々にそこまで視点を移動すると、彼女が手にしていたのは小さな小包だった。
「はこみんと、ね」
「……諌紀!」
この時ばかりは本当に、諌紀が天使、いやそんな幼気なものじゃない。
もっと包容力のある、女神様みたいに見えた。
「ありがとう」
目を見てそう告げると、珍しく照れたようにそっぽを向いてから
「じゃ、じゃあ行くよー!」
そう言って後ろにいる三人にも目配せをする。
そのあとでディストルがあるであろう方向に身をくるっと回すと
「ほんと、羨ましいよ。はこみんが」
そう小さく呟いた。
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