乳首と言論統制

@maso

第1話

「僕が思うに、テレビの影響力は僕達の身体に染み付いてるんだよ。ケチャップのシミが如く。」

武本光は食堂奥で熱弁を振るっていた。

「どういうことだよ。」

光の謎の会話にはいつも相槌を打つぐらいで真面目に聞いたことは無かったが、何となく気になり聞き返してみた。

「うん、コンプライアンスって知ってるかい?」

私が光との会話に乗ってきたのが嬉しいのか彼は更に饒舌になった。私はテレビを余り見る方では無かったのだが、言葉の意味ぐらいは知っている。

「いわゆる放送禁止事項みたいなものだろ?」

「そうそう、放送禁止にすることで僕達思春期の少年達にその事象を悪い物として認識させるんだ。だけど、僕が思うにそれは表向きの話に過ぎないんだ。」

またレポートも書かずに変なことを考えていたのか。呆れながらも彼の言うことに相槌を打ち耳を傾けた。

「ほう。」

「見ちゃだめだって言われるとどうしても見たくなる。興味が湧く。悪い物だって知っててもだ。その単純な人間の心理を利用して僕達をマインドコントロールしているんだ。」

「要するになんだよ。」

すこし間があったが光は歯切れよく言った。

「要するにだね、僕は乳首を吸ってみたい。」

「ん!!??」

「テレビでのおっぱいの表現は乳首だけを隠して乳房は晒してるだろ?その事に気付いてから僕の頭の中は乳首で一杯なんだ。あぁ、硬いのか、柔らかいのか、舌触りは、味は。やっぱり千差万別、十人十色、色んな乳首があるんだろうな。」

私、佐々木信広は絶句してしまった。私の大学における唯一の友人である武本光は前々から変わったやつだと思っては居たが、思考的な一線を越えてしまったのではないか?そうとしか思えなかったのだ。

「けどよ、AVで乳首なんかモロ見えだぜ。そんな事を考えてる暇があったらこの英文訳せよ。」

武本は鼻で笑い

「AVなんてねぇ、所詮は非処女で売女でヤリマンのビッチが小金欲しさに売ってる乳首だ。いわばセール品だよ。そんなものを口に入れるぐらいならレーズンでも口に入れて愛しの白岩ちゃんのピンクであろう乳首を想像したほうが余裕で勃起するわ。」

光による唐突なゲス発言は一先ず置いておいて、白岩ちゃんの説明をする。白岩可憐とは一年生の学科基礎の時同じクラスだった子だ。黒髪ボブヘアーに赤いメガネにスラっとした見た目、胸は控えめ。武本の憧れの女性だ。

「だけどアイツ、フットボールサークルだろ?どうせ既にどっかの男にもう喰われてるよ。」

そう言うと光の目が変わる。

「よせ、やめろ。」

泣くもせず、怒りもせずただ無機物のような目になるのだ。個人的には面白いのだが周りから見ると私達が喧嘩してるように見えるらしく心配の声を聞かせてくれる。

「分かったよ。じゃあ俺はレポートに戻ります。オーウェルなんか題材にするんじゃなかったよ。」

ジョージ・オーウェルの1984、言論統制という面から社会主義、全体主義を皮肉った作品だ。光の言っていたテレビによる影響力は通じるものがあるな。と思ったがレポートに乳首の話なんか書くわけにはいかないので私は頭を切り替え点数のもらえるレポートを書くことに専念した。

「ノブもさぁ、童貞だろ?」

私は驚きのあまりシャーペンの芯を折ってしまった。

「それがどうしたんだよ。」

「乳首見たくないの?どこぞのアバズレの触れない乳首じゃなくて、道端に咲くタンポポのようにありふれていて、気付いたらそこにあるような可憐な乳首。そう、つまり白岩可憐の乳首。」

「上手く韻を踏んだな。シェイクスピアもその詩には賛美の言葉を述べるだろう。」

「カマトトぶってるんじゃないよ。いいかい。僕達はもう21だ。いつまでも少年性を誇示してないで行動に移すんだ。今しかないんだよ。今しか。」

「つまり童貞を捨てろと。」

「そういうことだ。」

めちゃくちゃ言ってるようで、光の言ってることはあながち間違えてはいないような気がする。あくまで気がするのだ。しかし、その時の私にとって行動の原因はそれで十分だったのだ。光は私の表情を読み取ったのか、こう言った。

「童貞を捨てろと言われてもいきなり捨てる訳にはいかないだろう。少なからず僕もこの称号には愛着がある。だから二人で白岩ちゃんの乳首を見よう。」

そこから、僕達による白岩ちゃんの乳首を見よう大作戦が始まったのだ。

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