第25話

 マリオンの軍事基地には、日本の自衛隊の他、隣国のゴダリア軍の他、欧州の先進国の軍隊も駐屯していた。凌介達の派遣部隊も他国の軍隊とともに行動することになる。軍事基地では、最初に日本の派遣部隊に対する歓迎セレモニーを兼ねた軍事会議が行われた。会議に参加しているマリオン政府関係者の中には、マリオンの副大統領となったサイードもいた。サイードが自衛隊の派遣に対する感謝の意とNES掃討の決意を述べた後、マリオン軍の幹部から、NESによる反政府活動の状況が報告された。

 NESとマリオン軍との武力衝突は、今や四年前とは比較にならないぐらい激しくなっていた。NESは各地でゲリラ活動を行い続け、地方の小都市のいくつかは既にNESによって占拠されていた。NESは、ダイヤ等の鉱物資源が豊富なバラム鉱山を制圧したことによって多くの資金と武器を確保することに成功し、また、地方の村や小都市から少年を誘拐しては兵士にして組織を拡張していた。NESは昔の独裁者ダヌークを崇拝する者が集まった組織と言われているが、最近は、仕事の無い若者が貧困を理由にNESに加入するケースがかなり増えているとのことであった。

 NESのリーダーには、自らの身体を改造することでカリスマ的な支持を集めている者がいた。一人は、両腕の義手に武装した小型の無人航空機ドローンを装着しており、無人航空機ドローンを二機同時に飛ばして上空から広範囲に銃撃を行うことを得意としていた。サングラスで顔を隠しており、本名はわからないが、NESの兵士からは「ツイン・ホークス」と呼ばれていた。もう一名は「スフィア」と呼ばれる男で、右手に肘関節が三百六十度どの方向にも曲がる義手を装着して背中に目を持つと言われており、前方と後方を同時に銃撃する姿が確認されていた。戦闘で体の一部を失っても大丈夫だと兵士を安心させるために二人のリーダーを祭り上げているようだ、とマリオン軍幹部は説明した。

 「俺の他にも義手で銃を撃つ奴がいるとは、世界は広いもんだな。驚いたぜ」

 剛が小声でつぶやくと、凌介も頷いた。

 「同感だ。まさか武装組織に義手の技術者がいるとはね。義手を武装化するなんて考えたことも無かった」

 マリオン軍による説明が終わると、自衛隊派遣部隊の隊長が今後の活動スケジュールについて説明を行った。いくつかの質疑応答の後、マリオン軍と自衛隊の幹部が改めて握手を交わしたところで会議が終了した。各国の兵士が各自の持ち場へ戻っていく中、凌介に近付いて来る数人の集団がいた。

 「早瀬サン!」

 突然、凌介は後ろから誰かに声をかけられ、思わず振り向いた。顔はわからないが、イントネーションからすると日本人ではないようだ。

 「早瀬サンでしょう? すっかり回復されたようで、安心しました」

 凌介の代わりに剛が英語で答えた。

 「申し訳ありません、副大統領。彼は目が見えないんです」

 近付いて声をかけたのはサイードであった。凌介は、なぜ四年前に一瞬会っただけのサイードが自分のことを覚えているのかと不思議に思った。

 「そうでした、失礼しました。四年前、ゴダリアのテロで負傷した日本人を昏睡状態のまま日本に帰すというので、身元を確認すると、テロの前日にお会いした、あなただったので大変驚いたのです。今回、またマリオンに来られるというので、ぜひお会いしたいと思っておりました」

 凌介はゴダリアから搬送されてきたことは聞いていたが、その手配をしたのがサイードであったということを初めて知った。

 「私の方こそ、副大統領と気付かず、失礼しました。まさか、あなたにお世話になっていたとは……その際は、ありがとうございました」

 そう言って頭を下げた凌介の手を取り、サイードはしっかりと握手をした。

 「四年前のテロでは多くの人命が失われました。未だに行方不明の学者もいます。森田先生もその一人ですが、今回の捜索が良い結果をもたらすことを祈っています。そう言えば、あなたは四年前の会議のとき、シャリフと一緒でしたな」

 サイードが手招きをすると、後ろにいたシャリフが、サッと凌介の前に現れた。シャリフもサイードと同じ様に凌介の手を取って握手をした。

 「お久しぶりです、早瀬サン」

 「シャリフですか! また会えるとは思っていませんでした」

 「私もです。あなたが国際先端医療センターで一週間も昏睡状態のままでいると聞いたときは、大変心配しました。失明は残念ですが、こうしてまたお話しできるとはあのときにはとても思えなかったので、お元気そうで安心しました。たしか両足も失ったと記憶していますが……これは義足ですか?」

 シャリフが凌介の義足を覗き込んで尋ねた。

 「ええ、この義足は私が仲間と開発したものです」

 サイードも義足を覗き込み、感嘆の声を上げた。

 「何とまぁ、これをあなた自身が開発されたのですか! 失明された後でも開発を続けておられるとは驚きですな。今回の派遣で私が力になれることがあれば、遠慮なくおっしゃってください。連絡先はこちらの方にお渡ししておきます」

 そう言うと、サイードは連絡先が書かれた名刺を剛に手渡した。

 「では、みなさんのご活躍とご無事をお祈りします。私はこれで失礼します」

 その場にいた自衛隊員の敬礼に見送られ、サイードの一行は式典の会場を出て行った。

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