第二十六話 艦長、ヒーローです。
五分前……
「ふむ、そろそろディオス様が姫様を手中に納めた頃か。これでディオス様はローメニアを、果てはこの星すらも手にしてしまうかもしれない……ああ、素晴らしい」
「カイセル様、エーテリオンから一機出撃する機体が」
愛するディオスの未来に酔いしれていたカイセル・|G(ゲイ)・ジュリアの邪魔をするように、ティーターンオペレーターはキャッチした情報を報告する。
「なんだと? アルテーミスからの連絡は」
「ありません。こちらとの通信を遮断しています」
「よもや白兵戦で落とされたか? いや、それならば報告があるはずだ……ならば、運よく脱出できた……いや、それならアルテーミスが対処を行うだろう……そもそも通信遮断の意味は……」
「エーテリアス、こちらに接近してきます!」
「二隻が結託したにしては行動が不可解だが、まあいい……撃ち落とせ!」
カイセルの声を聞き、ティーターンの迎撃準備は即座に完了し、攻撃を開始した。
「なんのつもりかは知らんが、このティーターンに一機で迫るなど無謀の極み……囮の可能性もある、上空にも気を払え」
「エーテリアス尚も健在!」
「何!? 三種一斉発射の砲撃を受けて健在だと!」
「いえ、カイセル様……エーテリアスには一発も命中していません、全弾回避されました!」
「ふざけるな! 全砲門最新型AIによる予測攻撃なのだぞ!? それが旧型のエーテリアス風情が避けられるはずがないだろう!! AIの状態を調べつつ迎撃を続行! ディオス様の邪魔をさせるな!!」
主砲、副砲、対空砲、全ての弾先が接近するエーテリアスに集中する。
ある砲は先を読み、ある砲は現在地を、ある砲は後退先をそれぞれ狙い、光を放つ。
しかし、二型、三型のブースターパックを両脚、背部に登載した急造のアマツは、常人では操作もままならない高加速高機動の力により、弾幕を全てスレスレのところで回避する。
──そんな代物を何故操縦できるのか?
答えは決まっていた。
「主人公舐めんなぁぁぁぁぁーっ!!」
「エーテリアス、アヤセーヌ姫の寝室横に張り付きました!」
「場所がバレているだと……くっ、ディオス様……」
誘爆により愛する者が死ぬことを恐れ、カイセルは迎撃を中断させた。
……
「カグヤ! こっちに来い!!」
ハッチを開けながら、アマツの左手をブレードでこじ開けた窓へと伸ばし、カグヤを呼ぶ。
衝撃によりその場に膝をついていたカグヤは、迷うこともなくその手に乗り、引き寄せるよりも早くコックピットへと飛び乗った。
「はぁっ、はぁっ……助かったわ……でもどうして?」
「その指輪、アイツがバカやってる間に繁先生に作らせといたんだよ。盗聴と位置情報が取得できる特別製だ」
「持たせた理由になってないわよ」
「理由? そんなの簡単だ──」
ブレードを戦艦から引き抜くと、アマツはバックパックからライフルを取り、ディオスの残る寝室に銃口を向ける。
「なっ!? くっ!」
「ロボット物の金髪二枚目ってのはなぁーっ! だいたい総じて
無茶苦茶な持論を持ち出しながら、生身の相手にライフルの引き金を躊躇いなく引いた。
エーテルフィールドの内側で放たれた銃弾は軽々と装甲を穿ち、次々に穴を作り出していった。
「そしたらどうだ、三十分もしないうちにポロポロポロポロ、ボロ出しやがって! てめぇの口は蛇口かよッ!!」
「か、カイセル! これはどういう事だ──うぉっと! 警戒もせずに惰眠をしていたか!!」
次々に爆発と共に崩れていく廊下を激走し、アマツの攻撃を間一髪で避けながらディオスはブリッジのカイセルに向けて怒りの声を飛ばす。
「そんなことは! 奴はティーターンの迎撃を抜けて──!!」
「やはり寝ていたか! そんな寝言は寝ているときに言っていろ!!」
「ち、違っ──!」
「言葉などいい、汚名は行動で撤回しろ! ティーラルキアを使え!!」
「イエス・ユア・ハイネス!!」
ディオスの剣幕に肝を冷したカイセルは、慌ててブリッジ後方の転送機から、瞬時にコックピットへと移動し、汚名返上の為の準備を開始する。
「旧型風情がディオス様の邪魔立てなど……ティーラルキア、出撃するぞ!!」
ゆっくりと外への道が開く一方で、飛鳥は撃ちきったマガジンを捨て、次の射撃の準備をしていた。
ディオスをブッ殺す勢いで乱射するが、中部に逃げたディオスの居場所などわからないので、見当なしに撃ち続けるアマツ。その中からは「多分上よ! 撃ちまくりなさい!!」だの「どこ逃げたこのロリコン野郎!!」だの、二人の楽しそうな罵声が聞こえてくる。
「今度は下──って飛鳥、横からなにか来るわよ!」
「ディオス様とこのティーターンを、これ以上はやらせんぞ!!」
「ちっ、なんだあのデカブツ!!」
ティーラルキアの姿を確認した飛鳥は思わずその容姿を叫んだ。
人型とは程遠く、無人機のアモールに似た巨大で無機質な飛行物体。コックピットを中心として十字に四本の巨大な腕が延びており、一本の腕がアマツへと向かう。
「空飛ぶグラブロかよ!」
「そんな豆鉄砲、戦艦と同等のエーテルフィールドを張るティーラルキアに、効果などないわ!!」
接近するティーラルキアのコックピットに全弾当たる軌道の弾丸は、全て見えないフィールドに弾かれる。
これはマズイと直感した飛鳥は予備マガジンをティーラルキアへと投擲し、一発でそれを撃ち抜く。
マガジンは破裂音と煙を出し、中の弾をバラバラに撃ち放つ。マガジンの放つ煙は微々たる物だが、眼前で起きた煙はカイセルの視界からアマツを隠す。
「チッ、煙幕とは小賢しいぞ!!」
「そうでもしないと勝てそうにないんでね!!」
「そこか!!」
視界外から放たれた弾丸に反応し、巨腕を延ばすが、ティーラルキアが掴んだのは自立飛行するライフルであった。
「囮!?」
「バリアー相手なら実体剣だろッ!!」
アマツのブレードはフィールド抜けティーラルキアの装甲に傷を付けるが、その強固な装甲は刃を通さず、逆にアマツの高加速によって放った一撃のパワーに耐えられず、ブレードの方が砕けるように折れた。
「そんなナマクラではなッ‼」
「んなのありかよ──くっ!!」
「ハハハハハ、掴んだぞ、掴まえたぞ! 捕まえたぞ!! この虫けらが!」
「ちょっと、どうにかしなさいよ!」
「無茶言うな!」
「なによ、助けに来たと思ったらこれ!?」
「宇宙に行く前あのバカがボロ出さなかったら助けられなかったんだぞ!?」
機体をガッチリと掴まれ、危機的状況だというのに、コックピットの中ではガミガミと痴話喧嘩を繰り広げる。こんな状況だがカグヤも飛鳥がいるだけで、先程のディオスとの状況よりも、心が落ち着いていたのだ。
「おい、エーテリアスのパイロット、早く鍵を差し出してもらおうか……安心しろ、お前の命も助けてやろう」
「……嫌だといったら?」
「四肢を破壊して機体ごと持ち帰るのみだ。それしきのことティーラルキアには容易だ」
「あくまで鍵は大事……か」
『苦戦してますね、飛鳥さん。こちらは準備できました……でも、ホントにやるんですか? 言っときますけど、失敗しても救助は無理ですからねー』
「わかってるって……さてと」
「命よね……? 準備ってなんの……」
カイセルに聞こえぬように小声で飛鳥に尋ねるが、飛鳥は何も答えずパネル操作をいくつか済ませると、座席から立ち上がり、カグヤに手を伸ばす。
「カグヤ、今回はあと一回だけ……俺を信じてくれ」
「な、なによカッコつけて……バッカじゃないの」
「カグヤ──」
今までに見たことのない、神野飛鳥とは思えないほどの真剣な表情でカグヤを見つめ、自身の決意を伝える。
「俺が絶対に守ってやる」
「…………言ったからには絶対だからね」
ただでさえ最初の言葉で頬をうっすら赤くしていたカグヤは、最後の言葉で顔を真っ赤に染めながら飛鳥の手を握った。
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