第十八話 艦長、歌は世界を救うそうです。

「転移してきたエーテリアス、えーっと──大量に接近」

「……状況は最悪に近いけど、こういう方が展開的には燃えるわね。繁先生、例の武装で出撃させて!」

「完成させてはいるが、マジでやるのか……?」


 作りはしたが、どうも乗り気ではない繁は生徒であるも艦長であるカグヤに再度尋ねた。


「あったりまえでしょ! 言葉の伝わらない奴らに私達の歌をたっぷりと叩き込んでやるんだから!! オペレーション、愛・発令よ!」

「なんですかその平和の欠片もないネーミング……まったくもう」

「文句言っても無駄無駄。あ、第一部隊の三人が出撃、敵陣へと向かいました」


 今回の作戦はいつものメンバーとは違い、隊員の再編成を行い、部隊を結成していた。


「ほらいくぞ刹那、貴理子!」


 三人の精鋭、飛鳥、刹那、貴理子は斬り込み部隊として数百の相手へ躊躇うことなく突撃を開始する。


「刹那を乗せているとは言え、スタンダードタイプのブースターでブルーに追い付くとは……神野飛鳥との能力の差なのか?」

「まあ……デタラメな奴だからな」


 いつも近くで部下を見ている刹那がブルーの上で、戸惑う貴理子に呆れながら同情する。


「高速で三機接近!!」

「どれもあの時の強者ばかりだな……どうするアレク」

「あの白いのは私一人で相手をする。他の二機は十機以上で追い込め。わかってはいると思うが、ワープできた私達に補給手段はない、損傷を抑える立ち回りをしろ!」

「了解!!」


 アレクの一声で部隊が統率されたまま一斉に別れ、刹那と貴理子へと迫り来る。


「よし、はじめるぞ刹那!」

「了解だ……だが、私達のは実弾なのを忘れるなよ?」

「問題ないわ!」


 刹那は得意の剣を取り、貴理子は得意の銃を持つ、エーテリオン屈指の実力者の二人へ、世界混成軍のエーテリアスが挑む。


「うおぉぉぉーっ! 落とす!!」

「臆せず来るか、だが──遅い!!」

「なっ、銃が!?」

「機体の腕が!」

「メインカメラが!」


 刹那の間合いへと入り込んだ三機は一瞬にして攻撃を封じられ、恐怖を感じながらも体勢を立て直し刹那から距離を取る。


「つまらぬものを斬ってしまった、というところか」

「くっ、もう一機のほうを──」


 刹那を脅威に感じた相手は標的を貴理子へと変更する。

 しかし、いくら標的を変えたところで、敵の脅威が変わるわけではなかった。


「フン、止まって見えるぞ!」


 相手の動き、武器の向きを目で追うと、それに合わせてマニュアル操作の照準で狙い、発射する。

 貴理子にとっては機械補正によるオート照準よりも、マニュアル操作の方が正確で素早かった。


「こ、コイツ! 一瞬の内にライフルで四機の武器だけを撃ち落としただと!?」

「よし、この調子で他も!」

「おーおー、二人ともやってんなぁ……よーし、俺も主人公としてカッコいいところを──!」


 二人の活躍を見た飛鳥は、自分より目立たせるわけにはいかないと、気を入れ直して戦いに集中する。しかし、そんな飛鳥に向かって赤い復讐鬼の機体が迫っていた。


「神野飛鳥ーッ!!」

「おっと! 赤いエーテリアス、俺の名前を知ってるのか!?」

「放送を見ていればそれぐらいわかる。久しぶりだな」


 アレクは帰ってきたぞ、と言わんばかりの態度で飛鳥へと攻撃を仕掛ける。

 あの接戦をした相手だ、自分が覚えているのだから飛鳥も覚えているだろうと考えていた。


 ──名前を名乗ってもいないのに。


「誰だよ!? そんなセンス悪い仮面付けた奴なんて知らねぇよ!」

「なっ! 貴様と一騎討ちしたアレク・マーチスだ!! 忘れたか!」

「名乗られたのも顔見たのも初めてだっての! まあいい……それで、主人公に負けた奴が何のようだ?」

「フン、相変わらずの主人公バカが……だが、貴様が主人公を名乗るなら私は貴様の宿命の好敵手ライバルと名乗ろうではないか!」

「いや、負けた分際で勝手に名乗るなよ……ってかいい歳して厨二病かよ気持ち悪っ」

「くっ……こちらが優しく出ていれば付け上がって!!」

「最初に斬りかかっておいて何言ってんだ!!」

「撃ったな貴様!」

「撃って悪いか!」


 子供のような言い合いではあるが、なまじ戦闘能力の高い二人の戦いを止められるものもいなく、二人だけの決闘が繰り広げられた。


「三人とも着々と戦力を分断、無力化しています」

「そろそろ頃合いね、第二、第三部隊全機出撃よ!」


 次に出撃を控えていたのは、大輝、宗二、三蔵、シャロの前衛第二部隊と、零、相馬の艦防衛第三部隊であった。


「大丈夫かシャロ、相手は──」

「大丈夫、新しい機体もテストは済んでいる……それに、三蔵がいる……」

「シャロ……」

「いちゃつきゃがって、機体に爆弾でも詰めてやろうか」


 新武装の装備作業を進める中聞こえてくる甘い会話に、殺意に吐き気に尻の疼きを感じた繁はイライラとした様子でそう口走った。


「手伝いますよ、班長!」

「バーカ、ホントにするわけねぇだろ。ドライは大事な俺の作品なんだぞ!? ホラ、準備できたぞテメェら! さっさと出やがれ! こっちは他にまだやることがあるんだからな!」


 全機に通信機越しに怒鳴り散らした繁。それに急かされて、全機は慌てて出撃を開始する。


「Eドライ、桑島三蔵で出ます!」

「シャーロット・エイプリー、Eフィアー、出ます!」


 ゲテモノの赤黒色アイン、腕にガトリング砲を備えた青黒色ツヴァイ、隠し腕満載故にポッチャリ体型の黄土色ドライ、そんな三機が所属する二番隊において、全機一軽装で、桃色のフィアーは、三蔵の後を着いていくように空を舞った。


「エーテリオンから更に増援!」

「慌てるな! 数はこちらに分があるんだぞ」

「フン、的が多いと狙いやすいな……くらえっ!!」


 後続で現れたレッドは艦の傍で姿勢を安定させると全ての砲門を開き、群がる相手に向けて照準を合わせ、全弾を容赦なく発射する。


「長距離からの砲撃! よ、避けきれません!!」

「うわぁぁぁーっ!! 直撃するっ!?」


 相馬の放った砲撃により、部隊は死を覚悟する者、ただただ叫ぶ者とで分けられた。

 しかし、機体に走る衝撃の後、各々は恐る恐る恐怖で瞑った目を開けるが、特に大きな異常もなく機体は通常通り飛んでいた。


「……あれ、生きてる?」

「なんだ、奴らの使っている弾は……機体に何かを取りけられた……?」


 時限爆弾か、ミサイルの誘導的か、それともエーテリオンの新兵器か……弾として機体に取り付いた奇妙な機械に思考を巡らせるが、答えにたどり着くことはなかった。


「サウンドコントロールシステム、全体の六割に着弾を確認。尚も増加中」

「お膳立ては上々ね、綺羅ちゃんの準備は!?」

「ステージ、照明、マイク、全て異常なし。衣装、化粧完了まで間もなく、だそうです」

「そ。それじゃ新生歌姫の力、世界に見せてあげようじゃないの!」

「ホントに上手くいくんですかね……」

「さあな」


 艦砲射撃がなく、暇になっていた焔は光の問いにぶっきらぼうな返事を返す。



 ……



「……これで終わりよ」


 凛は手に持ったメイク道具を置き、綺羅の肩に手を添える。


「ありがとうございます凛さん。凛さんに化粧してもらえるなんて光栄です」

「別にいいわよ、これぐらい」


 使うつもりもないのに持ち合わせていたメイク道具を鞄に入れると、愛想のない返事をする。


「……凛さん」

「……何?」

「私、歌が好きです」

「……そう」

「まだステージで踊ったことはないですけど、それでも私は歌う事が、歌う自分がいて聞いてくれる人のいる歌が大好きです。これから何があっても絶対に嫌いになりません」

「……あんたは確かに、そうかもしれないわね」


 一緒に生活することで、自分とは違い秘めたものを持っている事を感じていた凛は、自虐のような言葉を呟いた。


「……凛さん、一つだけお願いがあります」

「何よ」

「このエーテリオンにいる間だけでいいです……また、歌を好きになってくれませんか? 歌が好きだった頃の、私が始めて憧れた時の凛さんに戻ってくれませんか!?」


 綺羅が始めて見た凛。


 当時同年代にして自分とは違う場所に立ち、楽しそうに歌い、踊る彼女を見て綺羅はアイドルを目指した。


 その憧れの相手と同じ舞台へと立つ前に、昔と同じ姿になって自分を見てほしい、綺羅はそう思って自らの願いを口にした。


「それは…………いいわよ」


 その一言で彼女が少しでも良く歌えるのなら、凛は先輩として嘘でもそう答えることにした。


「あ、ありがとうございます!」


 そんな自分を気遣った言葉に綺羅は心から嬉しそうに礼を言って頭を下げた。

 その一言だけで綺羅にとっては充分なのだ。


「それじゃあ凛さん、私歌ってきます!」

「ええ、せいぜい頑張りなさい」

「はい!」


 元気な返事と共に綺羅は凛を残し待機していた教室から駆け出していった。

 その嬉々とした姿は昔の自分と重なっていた。


「……歌が好きだった頃の私──か」


 彼女の言ったその一言を小声で呟き、そんな昔の自分を振り返る。

 楽しく歌い、踊るだけで、周りから歓声を貰えた、そんな頃の自分を──


「お待たせしました、黄瀬綺羅上がります!」

「きたな、ステージ準備はできてるぞ!」


 格納庫からこちらの準備に戻ってきた繁は、綺羅の到着を見てステージ上昇用の赤いレバーに手を掛ける。


「はい!」


 走り際に返事をし、ステージの中央に立つ綺羅。それを確認した繁がレバーを下ろすと、天井が左右に開き、ステージがゆっくりと上昇していく。


「…………はぁっ……はぁっ……──っ」


(……あ、れ……?)


 呼吸を整え、軽く声出しをしようとした綺羅は自身の異変を感じ取った。


「……──っ」


(声が……! 緊張のせい!?)


「──ま……っ!」


 胸を強く押さえ、繁にステージを止めるように叫ぼうとするが、その声すら掠れて出てこない。


(このままじゃ──!!)


 失敗というプレッシャーに体を強張らせる綺羅。

 そんな時、上昇を開始していたステージに、単独で飛び込む人影があった。


「まったく、何やってんのよ」


 ──凛だ。


「……あ……りん……さん、どうして……?」

「あんたが言ったのよ、エーテリオンにいる間、昔の私に戻ってほしいって言ったのは……だから歌うの、私は昔から歌が好きだから」

「凛さん……」

「それに新人のあんたなんか、危なっかしくて客席から見てらんないわよ」


 急いで着た衣装を整えると、頬をうっすら赤くし、少し恥ずかしそうな表情で、自分を助けてくれた後輩に言葉を送る。


「だから私があんたの為に歌ってあげる。その代わり、あんたはみんなのために歌いなさい!」

「はい!」


 照れ隠しですぐにそっぽを向く凛に対し、綺羅はいままでで一番の笑顔で答えた。


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