第十話 艦長、そっちも味方です。

 エーテリオンが量産基地を全壊させる真っ只中、飛鳥はアレクとの戦いに決着をつけようとしていた。

 周りでは他の新型を駆る仲間たちが量産型エーテリアスを次々に撃墜し、数の有利も覆り戦闘終了を目前としている。

 あとは自分だけだと、飛鳥の操縦桿を握る力が増す。


「どうするよオッサン、これで終わりにするか、それとも続けるか!?」

「そんな決定権が貴様にあるのか!」

「あるさ──主人公だからな!!」


 飛鳥の乗るアマツは両手にブレードを手に取ると、変則的な軌道を一切描かず、ただ真っ直ぐアレクに向かっていった。

 最後の決着を前に小細工をするなど主人公らしくもない。そういう彼のプライドからの行動である。


「主人公、主人公と……いい加減うるさいんだよ!」


 対するアレクも、その飛鳥の戦い方に応じるように一本の線となるように直進する。


(最後の一撃──)

(勝負は一瞬──)


 互いに操縦桿を強く握り次の瞬間に備えて深く息を吸うと、そのまま呼吸を止めて相手の動きを見据え、二機のEGは剣を構える。


「くらえぇぇぇーッ!!」

「今だあぁぁぁーッ!!」


 男達の咆哮と共に剣が動き出し、その決着は瞬く間に着いた。

 突き刺そうと進むアレクのブレードの切っ先を、飛鳥は左手のブレードで切り払い軌道を変える。そして、懐に入り込んだ飛鳥の右手に握るブレードは、アレクに次の手を与える暇もなく右腕と両足を切り裂いた。


「馬鹿な、こんな子供に……」

「バーカ、ロボット同士の戦いに子供と大人の差なんてないんだよ」


 ゆっくりと落ちていくアレクの言葉に、飛鳥はを語るのであった。


「みんな、大丈夫か」

「テメェが最後だ、このノロマッ!」

「まったく、いつまで時間を掛けているんだ貴様は」

「なっ、こっちはエースを一人で倒したんだぞ! 雑魚ばっかり狩った分際で、いい気になるなよな!」


 敵エースのアレクを打ち破り上機嫌の飛鳥だったが、零と相馬の態度に思わず腹を立て言い返す。


「なんだと!」

「なんだよ!」

「アンタ達、いつまでやってんのよ! 終わったならさっさと帰るわよ!」


 新装機体同士一発目の撃ち合いが始まろうとした矢先、量産基地の上に居座るエーテリオンから、カグヤの通信が飛んでくる。


「だ、そうだ……帰るぞ飛鳥」

「ああ、わかったよ。覚えてろよ委員長……」

「その言葉、そのまま返す……」


 全機が帰還する中、アマツとレッドは睨み合いながらエーテリオンへと向かっていった。

 ようやく激しい戦いに終止符が着いた。そう思っていた時だった──


 ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!


 WCの出現を知らせるアラートが、戦闘終了で安堵していたエーテリオン艦内に鳴り響く。


「今日は休ませる気はなしってことね……場所は!?」

「出現位置、再びここです」

「まったく、人気者は辛いわね……各機補給を済ませて──」

「数300」

「は……? はぁっ!?」


 命がさらっと言ったその言葉に耳を疑いながら、艦長席に戻りモニターを確認する。

 すると、確かに赤い敵の標示合計が300と示していた。


「艦長、さすがに今のパイロットの疲労を考えると……」

「…………各機、今から言う指示に従いなさい」


 現在の戦場を確認したカグヤは、真剣な面持ちで全機にそう告げた。



 ……



「くそっ、こんな時に敵だと!」


 海上の大破した機体の上に立ち、大量のWCの出現を目の当たりにするアレク達に戦う術はなく、進攻する敵の動きを悔しそうに目で追っていく。


「どうするよアレク、こっちは全機行動不能。あるのはEG搭載用に改造された航空母艦一隻だ。戦闘機は数機あるが……」

「……いや、奴等がどうにかしてくれるさ。アイツならきっと──」

「……そうもいかないかもな」


 先ほどまで敵であり、強大な力を持つエーテリオンの存在を頼りにするアレクであったが、ルーカスがそう言って指差した先では、彼の思いを裏切るような行為が行われていた。


 ──ツクヨミとアマツがブレードを使い、母艦の飛行甲板を破壊しているのだ。


「なっ!? あれでは戦闘機が発進できない!」

「あっちは転移の準備中だ……」

「こちらから戦闘を吹っかけて、助けてくれると願うことがそもそも甘い考えだ……相手は子供、腹を立ててこういう行動に出ても不思議じゃない」

「じゃあなんだ、アイツらは手助けをしないどころか、なにもできずに殺されろと言うのか!?」


 アレクの失望と怒りとが混ざった訴えに、テックスとルーカーは顔を反らす。

 そしてアレクの僅かな望みも叶わず、エーテリオンのEGは全機収容されワープゲートと共に姿を消した。


 残ったのは300機のWCと、カタパルトを破壊された航空母艦のみ……この地は間違いなく滅びを迎えようとしている。


「……くっ、許さん、許さんぞエーテリオォォォーン!!」

「──! た、隊長……あれを!」


 シャーロットがWCのいる方向、その更に後方の位置を指差す。

 そこに現れたのは新たなる光のリング──ワープゲートであった。


「ワープ完了! 位置、敵後方」

「命、エーテリオンをバスターモードに移行!」

「了解、艦をバスターモードに移行、パイロット以外の乗員は安全区域まで移動するように。繰り返します──」


 見捨てられたと思われていたエーテリオンの再来に驚くアレク達を余所に、着々と眼前の敵殲滅の用意を行うブリッジクルー達の姿がそこにはあった。


「全員の移動を確認、左右カタパルト回転開始……回転完了、バスター砲との結合、外部及びエーテル回路に異常なし」


 エーテリオンのカタパルトの底面が中央へ向くように90度回転し、その後引き込むようにして艦体の中心部へと連結される。すると、カタパルト底面と底面に挟まれた艦体の奥の装甲がゆっくりと開き、主砲をも超える巨大なスクエア型の砲門が姿を現す。


「カタパルト全側面ブースター点火、地上との水平を維持、姿勢制御異常なし! エーテル砲身形成完了、チャージどうぞ」

「了解、チャージ開始、砲身形成以外の艦内全エーテルをバスター砲へ装填。トリガーロック解除……艦長、エーテルアクティベーション準備完了です」


 机の中央が左右に開き現れた拳銃の形を模したトリガーを、艦長席から立ち上がったカグヤがその手に収めると、接続されたコードを机から引き延ばすようにトリガーを思い切り引っ張り出し、拳銃を構えるようにトリガーを両手で握る。

 そうした体制を取り終えたカグヤは自らの行いを飛鳥のように叫ぶ。


「エーテルアクティベーション!!」


 巨大なバスター砲の砲口内に艦内から集められた莫大な量のエーテル……それをカグヤは自身の能力で活性化を始める。

 このバスター砲発射の為には、他の生徒やトップレベルと言える飛鳥をも抜いたカグヤのエーテル技能が必要不可欠であった。

 活性効率が悪ければ活性化されたエーテルの量が足りず、活性速度が足りなければ発射までの時間が掛かると同時に初期に活性化させたエーテルが未活性状態へ戻ってしまう。そして活性力が足りなければ、その真価を発揮することができなくなる。


 超広域殲滅砲──通称、エーテリオンバスターの真価を。


 それ故に破天荒な性格である姫都カグヤが艦長として、抜擢されてしまったのである。


 ブリッジメンバーならば艦長以外でもいいのでは? と思うところだが、操舵手ならば勝手に突撃し、火気を任せれば撃ちまくる、副艦、オペレーターはやる気もなく適当に行う──そんな彼女を多数のストッパーにより一番抑えられるのが、あろうことか艦長という席であったのだ。


 普段まったくストッパーが役に立っていない気もするが、もはや彼女の暴走を止められる人材などいないのであった。


「エーテルアクティベーションオールグリーン、活性完了まで、3、2、1、全エーテル活性完了! いけるぞ、カグヤ!!」

「……目標敵勢力、合衆国母艦を目標にしているおかげで有効射程圏にほとんど入ってることを確認」

「ほとんどじゃダメよ! 砲身の圧縮値下げてでも全部捉えなさい!!」

「はいはーい……捉えました、艦長──撃てます」


 細かい調整を手慣れた様子でパパッと済ませた命は、顔をモニターからカグヤに向け、準備完了の報告を済ます。


「だったら──」


 カグヤは手に取ったトリガーを目の前に映るモニターの敵中央に向ける。実際の照準は命の操作により既に決定されているため、その行為に一切の意味はないが、カグヤのその瞳は今までで一番真剣であった。

 中央を向くカタパルトの間や砲口からは、活性されたエーテルが発生する光がバチバチと弾け出し、その瞬間を待っているかのようだった。


 ──そして、少女は咆哮する。


「エーテリオン──バスタァァァァァーッ!!」


 叫び声と共にカグヤが強くそのトリガーを引く。

 その瞬間巨大な砲門から莫大な量の活性化されたエーテルが、カタパルトの間に形成された別のエーテルの砲身の中へと流れ込む、流れ込んだエーテルは同じくエーテルで形成された砲身の中で極限に圧縮されながらカタパルトの間を突き進む。


 ──そして、砲身で圧縮されたエーテルはそこから噴き出すと同時に、解き放たれたかのように広がり、巨大な光となって敵の大軍勢へと飛来する。

 太陽を思わせる閃光は300の敵を容易く飲み込み、それらを昇華させるのには十秒とかからなかった。


「すごい……」


 その圧倒的一撃に、思わずアレクは呟いていた。


 だが、時同じくして思わず呟く人物が、この戦場にもう一人存在したのだ。


「──あ」

「何、命?」

「先日WCの直撃を受けた右カタパルトのブースターが、異常を出して停止しました」

「……つまり?」

「このままだと撃ち切る前に、エーテリオンバスターが地上に放たれます」

「なーんだ、そんなこと──って、整備班なにやってんのーっ!!」


 ガクンという衝撃と共に右へと傾いていくエーテリオンの中、現在班長不在の整備班に向かってカグヤは怒りの声を上げる。


「このままだとバスター射程上に合衆国母艦が」

「光、艦の姿勢を取り直して」

「艦内のエーテル回路が戻るまでは、補助動力だけしか使えないんで無理です!」

「くそっ! 別に合衆国の母艦なんてどうでもいいけど、このままじゃなんか後味悪いじゃないの!」

「どうでもいいんですか……?」


 さっきまで格好よく見えていた艦長だったが、やはりカグヤはカグヤであることに落胆し、光がぼやく。


「──ったく、やっぱり俺がいないとこの艦はダメだな!」


 聞きなれたお調子声がブリッジに流れる。

 すると、艦の傾きは止まり急に姿勢が徐々に水平に戻り、命はいち早く状況を調べ艦長へと報告する。


「飛鳥さんのアマツがカタパルトの下から押し上げています」

「アイツ……って、飛鳥の分際でカッコつけてんじゃないわよ!」

「そこはカッコいい主人公の有志を黙って見守ってろよ!」


 エーテリオンの体勢が元の平行にへと戻され、合衆国母艦消滅の危機はなんとか避けられた。

 その結果に、長きに渡る戦闘で披露していたカグヤは安堵の息を吐き、癪ではあるが功労の飛鳥へ恥ずかしそうに感謝の言葉を述べる。


「ふん……よくやったわね、あす──」

「──あ」

「今度は何?」

「エーテリオン──傾いています」

「はぁ?」


 思わぬ事態にカグヤは口をあんぐり開けて、命の報告にクエスチョンマークを浮かび上がらせる。


 ──しかし、その疑問の答えは簡単なことである。


「もっとだ、もっと傾けえぇぇぇーっ!! Eアマツは伊達じゃねえぇぇぇーんだぁぁぁーッ!!」

「飛鳥さんの頑張りすぎです」

「このッ──傾けんな、このアホがぁぁぁーっ!!」


 バンと床を踏みつけると、本人と周りに聞こえる程の大きな声で、カグヤは罵声の言葉を叫んだ。

 だが、当の本人はそんな言葉などお構い無しに、ブースター最大出力でエーテリオンを押していく。


「……おい、あの光こっちに向かってこないか?」

「まさか、そんなこと──」

「……くるよ」

「え?」


 海上を漂う機体の上で、四人は落ちてくる光を見上げながら微かな危機感を感じていた。

 その微かな危機感が確かな危機に代わるのには、そう時間はかからなかった。


「嘘だろぉぉぉーっ!!」

「光が……広がって……」

「……死ぬほど痛そうだ」

「やっぱり許さんぞ、エーテリオォォォーン!!」


 エーテルの光は海に触れた瞬間大きく海水を巻き上げ、周囲に大波を作り上げる。大波は大破したエーテリアスの山と、をゆっくりと飲み込んでいく。


 四人はその大波に飲まれる中、思い思いの言葉を叫び、呟き、絶叫し、海の藻屑となっていった。


 不幸中の幸いエーテリオンバスターの光が消えかかっていたので、大波に巻き込まれた兵は何人もいたそうだが死者は出なかったそうで、圧壊した量産基地も機械による無人運用だったらしく、今回の戦闘において死者は、奇跡的に一人もいなかった。


「よくもやってくれたわねーっ! 死ね、飛鳥ぁぁぁーっ!!」

「俺が何やったっていうんだよーっ!?」

「はあ……バカばっか」


 その後、帰還しようとしたアマツに向けられてカグヤの怒りの主砲が放たれ、そのせいで日本への帰還が遅れたのは言うまでもない。

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