王宮への帰還〈2〉







 ロキルトの白に近いと思えるほど薄い水色の瞳が、氷のように冷たい眼差しで暗闇を直視する。




 ───視える。




 奴等の悪意が。




 はっきりとこの目に映る。




 黒装束の姿に、ぼんやりと紫色が重なる。




 その色は悪意の色。



 ロキルトだけに視える紫の色……。





 赤が濃い紫だったり、黒に近い紫のときもある。



 それは自分に悪意を持つ者が必ず纏っている色だった。




 今のロキルトの髪色と同じ。




 昔の髪色とは違う色……。



 忌々しい、魔性の色。





「ロキ……⁉」




「ラスバートっ、出てくんじゃねぇぞ! 内鍵閉めて、こいつらそン中入れんな!」





「陛下! 避けてっ」




 ユカルスが叫んだ。




 影の一人が近付き、ロキルトの身を断つかのように剣を振り上げたのが判った。





 ……けれど。




 ロキルトの剣が瞬間速く伸びて、その者の右肩を突き刺したとき、警笛の音が響いた。




 ……護衛の一人が鳴らしたようだ。





「逃げるぞ! 追え!」





 騎士達に一喝したユカルスがロキルトに近寄った。




「陛下っ」




 お怪我は? と訊こうとして、やめる。




 そのかわりに、




「……さすがです、陛下」





 という言葉を加えた。




 護衛の騎士さえ仕留められなかったというのに、ロキルトの足下には黒装束の一人が、肩に剣を刺し込まれたままの状態で仰向けに倒れていた。





「このまま腕を切り落とすか、首でもはねたいところだが……後でもいいか」




 言いながら、ロキルトは倒れている刺客の胸を片足で踏みながら、突き刺さった剣を抜き、血を払うように振って鞘へ収めた。




「首を撥ねるのはいろいろ吐かせてからだな。 それから門番も拘束しろ。不侵入者を許した罪だ」




 警笛を聞きつけて集まり出した衛兵達を見てロキルトは顔を顰めた。




「ったく。騒がしくなりやがって。ユカ、 後の指示出しとけよ」




 頷くユカルスを残し、ロキルトは不機嫌な表情で馬車へ近寄り、そして言った。




「終わったぞ、ラス!」




「……終わりました? びっくりしたなぁ、一体どうしたんです?」




 のんびりした声と共に、馬車からラスバートが顔を覗かせた。




「さあな。毒視姫の顔でも拝みたかったのかもな。物好きもいるもんだ」




「物好き……ねぇ。それを言うなら陛下だって……」




「あ? なんか言ったか?」




「い、いえ。まさかわざわざ出迎えてくださるとは。このラスバート、恐悦至極……」




「うっとうしい挨拶はやめろ。そんなことより、それはまだ寝てるのか」





 馬車の中のそれ。


 リシュを気にする様子のロキルトに、ラスバートは僅かに笑って言った。




「どうします? 見ます? そんでもって陛下、運んでくれます?

 あ、ユカ君でもいいんですけどね。もうなんか、昨日から抱っこしたり運んだり馬車に乗せたりって……もう、大変で。

 歳とると腰にくるんですよねぇ、こーゆーのは。……あ、リサナよりはデカくないし、ずっと軽いんですけどね、この子は」




「……ラス。おまえ、リサナを抱えたことあるのか?」




「え⁉ あっ、いやぁ……まあ、そのッ……ふざけてとゆーか、ちょっとだけっつうか……」




「ふざけてだと⁉」




「いえ、あの! でもちゃんとしっかりその後、殴られましたから、ヤマしい事とか全っっ然! してませんよ、俺は」





(……やっぱりコイツ油断ならねぇ)




 むすッとした顔でそんなことを思いながら、ロキルトは言った。




「そこから出ろ。ユカと合流してこの場を上手く取りまとめろ。そんで静かにさせてくれ。姫はその後で俺が運ぶ」





「かしこまりました」




 ラスバートは馬車から降りると、ロキルトにその場所を譲った。





「人払い出来たら呼べ。それまで俺はここで引きこもる」




「はいはい。ごゆっくり」




 どこか楽しそうに返事をするラスバートを睨みながら、ロキルトは馬車に乗り込み扉を閉めた。








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