23 矛盾

『ねぇ、悟史』

「ん? どした?」

 今後の捜査方針を決めようとしたとき、レイが聞いてきた。

『この事件変じゃない?』

「まあな、まだ犯人が捕まっていないってんだからな。手掛かりなしってホントかよ。警察は何やってんだか」

『違う、そっちのことじゃなくてこっちの事件』

「こっち?」

『そう。ここで起きた水澤さん殺害の方』

 レイの言葉に俺は眉を潜めた。

「変って。ああ、お前は知らないのか。それならもう終わったよ。実は水澤を殺した犯人はこの館から逃げたんだよ。たぶん、俺達が犯人探しを始めたからこれ以上犯行はできないと判断して逃げたんだ。犯人はこの館の裏口から」

『知ってる』

「何だ、知ってるのか......って何で!?」

『だって見てたから。悟史達が犯人を探しているのも、裏口に集まったのも』

 どうやらレイはずいぶん前から記憶を取り戻したことによる苦しみから解放されていたらしい。

「何だよ、それならそうともっと早く言ってくれよ」

『姿を見せるタイミングがなかなか見つからなくて。ってそれよりも!』

 話が脱線しそうになり、レイが修正する。

『変だと思わない?』

「何が?」

『犯人の行動よ』

「どこが?」

『何で犯人は裏口から逃げたの?』

「そりゃ玄関のドアが閉まっていたからさ」

『そう。だから犯人は裏口から逃げた。それが分かったのはどうして?』

「音が聞こえたからさ。バタンッていう大きな音が」

『何でそれが裏口のドアの音だと思ったの? 他の部屋のドアの音だったかもしれないのに』

「裏口のドアが開いてたからさ。土井さんも言ってたぜ、たしかに閉めたのに何で開いているのか分からないって」

『そう、そこよ』

「どこよ?」

『裏口のドアが開いていたことよ。変だと思わない?』

「どこが?」

 レイの話は全く見えない。何が言いたいのだろうか。

『音が聞こえたってことは犯人は出ていって間もないってこと。それは分かるわよね?』

「ああ」

 そりゃそうだろう。

『ということはドアも開けられて間もないはずよね?』

「そりゃそうだ」

『だったら?』

「は? 水溜まり?」

『裏口の傍のところに水溜まりが出来てたわよね』

 そういえばたしかに出来ていた。かなりの大きさで土井が嘆いていた。

「それがどうしたんだよ。外はこの暴風雨だぜ。中に雨水が入り込んでもおかしくない」

 先程天気が気になりカーテンを開けたが、依然と強風に大雨だった。これでは今日も館から出られそうにないと思った。

『濡れるなら分かるわ。でも水溜まりができるのはありえないわ』

「何でだよ?」

『悟史達は音を聞いてからすぐに休憩室を出ていった。一度玄関を辿ったとはいえ裏口にたどり着くまでせいぜい五分くらいよ』

「まあ、たぶんそれくらいだろうな」

?』

「そりゃあ......」

 ......無理だ。いくらこの暴風雨でもあそこまでの水溜まりは出来ない。しかも、裏口のドアはほんの少し、せいぜい指二本分しか開いていなかったのだ。

『まだあるわよ。なぜ犯人はあんな大きな音をたてて出ていったの?』

「あ、慌ててたんだろう。それで勢い余って......」

『何を慌てる必要があるのよ。あのとき休憩室にいたのよ。誰かに目撃される心配はない。慌てる要素がどこにもないじゃない』

 レイの言う通りだった。あの状況なら犯人は歩いて出ていってもよかったはずだ。

『それに、音出してどうするのよ。わざわざ自分が逃げたしたこと私達に伝える意味が分からないわ』

 全くその通りだ。なぜ犯人はそんなことをしたのか。

「どういうことだ?」

『もしかしたら、犯人は......』

 ドンドンドンドン!!

 突然部屋に何かを叩く音が鳴り響いた。一瞬ビックリするが、すぐに部屋のドアを誰かが叩く音だと気付いた。

 レイとの話を一旦中断し、ドアへ向かう。

「森繁さん! 森繁さん!」

「間宮さん?」

 間宮の声だった。ずいぶん慌てている。

 ドアを開けると、やはり間宮だったが青ざめた顔をしていた。

「ど、どうしたんですか間宮さん?」

「よかった。無事だったんですね」

 無事だった? どういう意味だ?

 なんのことか分からず間宮に聞く。

「間宮さん、一体どうしたんですか?」

「も、森繁さん! お、おち、落ち着いて聞いてください!」

 まずお前が落ち着けよと思ったが、次の間宮の言葉に今度は俺が取り乱す羽目になった。

「ひ、火村さんが、亡くなりました!」 

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