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「あー……ついこの間も言った気がするんだが……アレはどういうことだ?」

 翌日の昼休み、生徒会室にメンバーが揃うなり、苦りきった様子で恭二がそう問いかけた。先日と違う点は、視線の集まる先が望美であるということだ。

 自分を見つめる面々を見回した望美は、ことりと首を横に倒して口を開いた。

「アレ、と言いますと?」

「昨日の【コンクエスト】の件です!」

 わざとではないのだろうが、自分がやったことの再現をされるのに居たたまれなくなったらしい悠が声を上げた。

「当たったからいいようなものの、あんなガラスのある場所で武器を投擲とうてきするのはいかがなものかと思います!」

 万が一外れてガラスが割れでもしたらどうするのかとの叫びに、ようやく何が問題視されているのかを理解して望美はうなずいた。

「高等部の校舎は損壊しても翌日には修繕しゅうぜんされるというお話でしたので、大丈夫かと思いました」

 望美の言葉に、上級生たちが納得したように声を漏らしてうなずいた。確かにその話は以前自分たちが聞かせたものである。

 だが、その返答に納得しない者もこの場には存在したのだった。

「それはそれとしてですね! 誰かが怪我でもしたらどうするのかと僕は言っているんです!」

 机に両手を叩きつけて叫んだ悠に、望美は押し黙った。確かに施設の損壊自体は修繕されるのかもしれないが、人的な被害は取り返しがつかないのだ。悠の言い分ももっともだろう。

「そこまで考えが回りませんでした。申し訳ありません」

 深々と頭を下げた望美に、今度沈黙するのは悠の方だった。露骨にうろたえ、救いを求めるように周囲に視線を投げるも、上級生たちは皆面白がって笑うばかりだ。そんな上級生たちを恨めしげに睨んだあと、悠は望美へと顔を向けた。

「……わかっていただけたなら、それで結構です。それと、ええと……少し言葉がすぎました、すみません」

 そう言って、彼もまた頭を下げる。

 互いに頭を下げたまま動かなくなってしまった一年生二人を見やり、苦笑を浮かべながら恭二は手を打ち鳴らした。

「よし、それじゃこの話題はこれで終わりってことにするか」

 その言葉を合図に、詩織がお茶を淹れるために立ち上がる。全員の元にお茶が行き渡ると、彼らはいただきますと唱和して弁当箱の蓋を開いた。

「で、今日の本題な。この間も言ったが、来週のオープンキャンパスでイベント戦闘を行う予定となっている」

 私立志貴ヶ丘学園は中学から大学までの一貫教育だが、高等部と大学部でそれぞれ外部入学枠が存在するため、入学希望者に向けて毎年説明会を行っている。当然ながら参加者は学外の人間ばかりであるので【コンクエスト】を行う意味合いはないように思えるのだが、高等部において【コンクエスト】は最早一種の学校行事だ。うっかり何も知らない人間が入学して驚かないようにという配慮から、説明の一環としてオープンキャンパスの場でイベント戦闘が行われることとなったのである。

「……それはつまり、何も知らない人が入学して騒ぎになった過去がある、と」

 恭二が一通りの説明を終えて口を閉じると、じっとりとした眼差しで悠がそうつぶやいた。

「「「お察しください」」」

 嘘くさいほどに爽やかな笑みを浮かべ、上級生たちが口を揃えて答える。

「……そこは否定してほしいところなんですが」

 自ら追及しておきながら、悠は頭を抱えて呻いた。そんな悠を見やった上級生たちは互いに顔を見合わせた。

「いや、だって……なぁ?」

「表向きは県内有数のエリート校、されどその実体は知る人ぞ知るお祭り校、それが私立志貴ヶ丘学園ですわ?」

「今更この学校に何を期待するって言うの? 中須ちゃん」

 したり顔でうなずく上級生たちに、悠は机に両手を叩きつけて立ち上がった。

「常識とか節度とか、そういうものですよ!!」

 魂からの叫びに、上級生三人は再度顔を見合わせる。そして、やはり声を揃えて答えた。

「ないな」

「ありませんわね」

「そんなのあるわけないじゃん」

 見事なまでの即答に、望美は感心とも呆れとも判断のつかない吐息をこぼし、悠は脱力して床に崩れ落ちたのであった。

「うちはこういう学校だから、あきらめが肝心だぞ。で、話を続けてもいいか? 中須」

「……どうぞ」

 うつろな眼差しで答えると、悠はどこか危なっかしい足取りで立ち上がり、イスに座った。その様子に恭二は大丈夫かと言いたげな視線を送ったものの、結局何も言わずに説明を開始した。

「まぁ、そういうわけでオープンキャンパスでイベント戦闘を行う。流れとしては、校門での資料配付と体育館への誘導、学園長によるオープンキャンパス開催の挨拶、生徒会長の挨拶と続く。教師による説明会が終わったら、舞台上に乱入して【コンクエスト】開始だ。決着がついた後、今のが学校行事の一環だという説明をしてから見学開始の案内となる」

 何か質問は、との言葉に、悠と望美が同時に手を挙げた。しばらく互いに譲り合っていたものの、やがて悠が口を開いた。

「今更ツッコむだけ野暮という気もしますが……直前まで説明がなかったことの理由をお聞きしても?」

「悪い、忘れてた」

「どうせそんなことだろうとは思ってましたよ、ええ! 知ってましたとも!」

 悪びれもせずに即答した恭二に、やっぱりかと悠が叫ぶ。

「知ってたならわざわざツッコむ必要ないじゃん。中須ちゃんたまに体力の無駄遣いするよねー」

 呆れたような薫のつぶやきに、詩織が楽しげに笑い声を漏らす。

「この光景、文芸部の方がいらっしゃったならば大変喜ばれたでしょうにねぇ」

 その言葉に、ああ、と薫はうなずいた。

「たしかに。文芸部のいいエサだよね、あの二人」

 たぶん無自覚なんだろうけどさ、と薫がつぶやき、それに詩織がうなずく。

「わざとだったら反応に困りますわね」

 それはそれで楽しいですが、と続けられた言葉に、薫は何とも言えない眼差しを向ける。

 傍目はためには無邪気にじゃれ合う少年二人と、それを呆れ混じりに見守る少女二人という大変平和的な光景に、望美も小さく笑みを浮かべる。

 しばらくそうやって微笑ましそうに様子を見守っていた望美だったが、そっと手を挙げて口を開いた。

「あの、わたしからも質問をしてよろしいでしょうか?」

 一斉に視線が望美へと集まり、代表するように詩織が笑みを浮かべてうなずく。

「ええ、どうぞ?」

「オープンキャンパスでのイベント戦闘は誰が出撃するのでしょうか?」

「ああ、それな」

 望美の問いかけに声を上げると、恭二はようやく悠を解放した。ほぼ関節技をかけられていたに等しい状況だったのか、悠は助かったと言いたげな表情を浮かべて恭二から距離を取った。そんな悠の様子に、詩織と薫がおかしそうにくすくすと笑い合う。

「現行部員全員――つまり渡瀬と中須、在原の三人だ」

「え? それじゃあ、オープンキャンパスの司会進行は誰がやるんですか?」

「誰って……手の空いてる人間に決まってるだろ?」

 きょとんとした様子で問いを重ねた望美に、何をわかりきったことを訊くのかと言いたげに恭二が答える。

「いや、だって黒崎先輩三年生ですよね!?」

 予想外の答えだったのか、受験生が何言ってるんですかと悠も声を上げる。

「受験生って言ってもなぁ……基本内部進学エスカレーターだから、よほどの成績不良者でもない限り何の問題もないし。そもそも三年が抜けたら生徒会の運営に支障が出るだろう」

 そう答えたあと、ふと何かに気づいたように恭二はわずかに眉をひそめた。

「――ちょっと待て、どうしてそこで俺の名前だけが出るんだ?」

「都筑先輩には、特にこれと言った不安要素がないからですよ」

「それこそどういう意味だ!?」

 しれっと答えた悠に、恭二は叫んで立ち上がる。長机を挟んで追いかけっこを始めた二人に、ある者はため息をこぼし、ある者は楽しげに微笑みながら様子を見守るのであった。



         ◆



 様々な準備に追われている間に日々は過ぎ去り、オープンキャンパス当日がやってきた。

 望美たち生徒会役員は校門の両脇に立ち、様々な制服に身を包んだ参加者たちに資料を配って会場となる体育館への行き方を説明する。教師も動員されているとはいえ、流石に人手が足りないために会場までへの道筋には協力者を募って案内役を配置した。

「もうそろそろいいわよ、準備してらっしゃい」

 校門をくぐる他校生の姿が少なくなってきた頃、桐生がやって来てそう声をかけた。手には他の役員たちの分だろうか、配付資料の入った紙袋を提げている。笑顔で手を差し出してくる桐生に自分たちの分の紙袋を渡すと、望美と悠は体育館へと向かった。

 体育館の舞台脇にある控え室で順番に着替えをすませると、戦闘員たちも含めて最終的な段取り確認が行われた。

 そんなことをしている間に、オープンキャンパス開催を告げる詩織の声が聞こえてきた。彼女の声に誘導され、小笠原が舞台に上って挨拶を始める。

「……相変わらず外面はいいんだよねぇ、理事長」

 不意にこぼされたつぶやきにそちらへと顔を向けると、口をへの字に曲げた【若苗】の姿があった。彼は望美の視線に気づくと、一瞬驚いたように目を見開いた後、小さく笑みを浮かべた。

「真面目にやろうと思えばできるのに、いつもはアレだからな。まったく、何とも残念な御仁だ」

 音量を抑えながらも、今度は【若苗】の声と口調でそう告げる。どこか皮肉気な言葉だが、その声音には親しみが込められていた。文化祭でのイベント戦闘の打ち合わせの時や、普段の花壇に植えられた花の世話をしている時の姿を思い出し、確かに、と望美も顔をほころばせる。【黙っていればナイスミドル】、それが小笠原に対する学園関係者の認識だった。

 そうこうしている内に小笠原の挨拶は終わったらしく、舞台からは拍手が聞こえてきている。今度は恭二によって生徒会長の詩織が紹介され、彼女の挨拶が始まる。

 学科ごとによる履修内容の違いなど、授業に関する教師の説明を半分聞き流しながら、望美は時計へと視線を向けた。オープンキャンパスはほぼ予定通りに進んでおり、彼女たちにとってのメインイベント【コンクエスト】を残すばかりとなっている。

 説明を終えたらしい教師が壇上で一礼し、階段へと向かう。それを見た【若苗】が合図を送った。教師への謝辞を述べる詩織の声と聴衆たちの拍手とを聞きながら、望美たちは一斉に舞台袖から飛び出す。

 【世界征服部】は壇上へ、戦闘員たちは聴衆たちとの間に壁を作るように舞台下へ。それぞれの配置が完了したのを確認すると、【若苗】はマントを払うように右手を伸ばし、聴衆を一瞥した。静かに、けれども強い声音で宣言する。

「さあ、征服を始めよう」

 その声に、わぁっと歓声が沸き起こる。【正義の味方部】の出動要請の放送を打ち消すほどの声の大きさに、望美は驚いて目を瞠った。だが、扉を開けて体育館に駆け込んできた【正義の味方部】の姿を見て、すぐにそちらへと意識を切り替えた。

「お前たちの好きにはさせないぞ、【世界征服部】!」

 一息に階段を駆け上って壇上へと躍り出た【ジャスティスピンク】がお約束の口上を述べた。舞台上手かみてに【世界征服部】、下手しもてに【正義の味方部】という構図で対峙する。

 【正義の味方部】にやや遅れて到着した【特殊報道部】が、戦闘員と聴衆との間に位置取って中継開始を宣言するのを横目に見ながら、【若苗】は不敵な笑みを浮かべてサーベルを抜いた。眼前に掲げ、どこか儀礼的な仕草で構える。

「――行くぞ!」

 鋭く叫び、【若苗】が駆け出す。望美と【青藍】も武器を構えてそれに続いた。

 【ジャスティスピンク】が【若苗】を、【ジャスティスグリーン】が【青藍】、【ジャスティスブルー】が望美を迎え撃つ。

 いつの間にやら対戦表が固定化されているな、などと思いながら、望美は振りかぶったピコハンを思い切り叩きつけた。逃げ足に定評のある【ジャスティスブルー】は当然ながらそれを回避、床に叩きつけられたピコハンが大きな音を立てる。

 ひねりを加えた後方伸身宙返りなどという無駄に華麗な技を披露した【ジャスティスブルー】は、けれども反撃には出なかった。戦闘を繰り広げる二組を迂回して走り出すと、追ってこいとでも言いたげに望美へと視線を寄越す。

「【ジャスティスブルー】VS【杜若】、またもや鬼ごっこに突入する模様です! これは様式美を気取っているのか!? いい加減真面目にやらないと偉い人に怒られるぞ、ブルー!」

 冗談めかしたリポーターの合いの手に、どっと会場が沸いた。それに望美も小さく笑みを浮かべながらピコハンを握り直すと、【ジャスティスブルー】を追うため床を蹴った。

 戦闘中の二組を挟むように【ジャスティスブルー】とは逆側を駆け、その正面へと回り込んだ望美は横薙ぎにピコハンを振るった。けれども【ジャスティスブルー】は、【若苗】と熾烈しれつな戦いを繰り広げている【ジャスティスピンク】を盾にするようにして望美の一撃をかわす。

 背後から乱入される形となった【ジャスティスピンク】が左腕でピコハンを受け止め、弾かれたようにこちらを振り向く。何が起こったのかと言いたげに受け止めたピコハンと望美とを見比べる【ジャスティスピンク】の様子に【若苗】が小さく噴き出し、何を思ったのか斬り結ぶ相手を【ジャスティスブルー】へと変えた。【ジャスティスブルー】もまた、彼にしては珍しくマトモに応戦する。

「……ちょっと待て、何なんだ一体!?」

 一人状況に置いて行かれる形となった【ジャスティスピンク】が、思わずと言った様子で叫び声を上げる。

「事故です。クレームは【ジャスティスブルー】までお願いします」

「明らかに君も当事者だと見えるが!?」

「逃走を図ったのは【ジャスティスブルー】であり、わたしはそれを追撃したにすぎません」

 ですのでクレームは【ジャスティスブルー】にどうぞ、と繰り返した望美に、うぐぐと唸りながら【ジャスティスピンク】は【ジャスティスブルー】へと顔を向けた。

「覚えていろよ、【ジャスティスブルー】!」

 一声吼えると彼女は望美へと向き直った。全身から立ち上るオーラは怒りか、はたまた強化スーツのリミッター解除によるものか。

「おおっと、ここで対戦カードの変更です!! しかも【ジャスティスピンク】はリミッターが解除されている模様! これは少々分が悪いか、【杜若】! それともようやくマトモな相手との戦いでその実力を見せつけるのか!?」

 軽妙な語り口調でリポーターは場を盛り上げる。今までの【杜若】の対戦を直に目撃していた戦闘員たちがうっかり噴き出し、誤魔化すように奇声を発する。

 外野の声など耳に入っていないのか、裂帛れっぱくの気合いと共に【ジャスティスピンク】が地を蹴る。一足飛びに望美の懐に飛び込むと、手刀による連続突きを繰り出した。連撃のあまりの早さに、まるで【ジャスティスピンク】の腕が何本もあるかのように見えるほどだ。

 ピコハンでその連撃を防ぐ望美だったが、徐々に防戦が追いつかなくなってくる。後退しながらどうにか凌いでいたものの、気づけば舞台の一番端にまで追いつめられていた。

「はぁぁッ!」

 鋭い叫びを上げ、トドメの一撃とばかりに【ジャスティスピンク】が突きを繰り出す。素早く、そして的確に照準された一撃。

 後退も、左右への回避も不可能。瞬時にそう判断した望美は、【ジャスティスピンク】の手刀を巻き込むようにしながらピコハンの柄を縦に回転させた。左のこめかみに触れるか否かと言ったスレスレの位置を掠めた手刀にヒヤリとしつつ、床を蹴ってその場を離脱する。

 体勢を立て直そうとしたその時、耳元で微かな音がした。考えるよりも先に体が動き、仮面を押さえるように右手を顔に押し当てる。次の瞬間、高く音を立てながら仮面の左側、丁度【ジャスティスピンク】の攻撃を受けた部分が砕けて落ちた。

「――【杜若】!」

 どこか悲鳴のようにも聞こえる声を上げた【青藍】が望美へと駆け寄る。斬り結んでいた【ジャスティスブルー】を【ジャスティスグリーン】の方へと蹴り飛ばして舞台中央に移動した【若苗】は、【正義の味方部】を牽制けんせいするようにサーベルを構えながら望美へと声をかけた。

「それでは戦えまい。ここは退け、【杜若】」

 ちらりと向けられた視線にうなずきで答えると、望美は仮面を押さえた右手越しに【正義の味方部】を見据えた。

「仕方ありません、この場はこれで退きましょう。ですが、これで勝ったなどと思わぬことです」

 そう言い捨てると、望美はくるりと身をひるがえした。舞台袖に駆け込んだ瞬間、限界を迎えたらしい仮面が砕けて指の間から落ちていく。

「在原!!」

「在原さん!」

 危なかった、とため息をこぼすのと、横合いから呼びかけられるのとはほぼ同時だった。

「大丈夫か?」

「どこか怪我などはされていませんか?」

 駆け寄ってきた恭二と詩織が口々にそう問いかける。心配そうな面持ちで覗き込んでくる二人に、望美は安心させるように笑みを浮かべた。

「大丈夫です、何も問題ありません」

 望美のその答えに、上級生二人がホッとしたようにため息をこぼした。

「一応、仮面も強化スーツの一部だから耐衝撃性能はあるハズなんだがな……。それを破壊するほどの能力補正とか、相当だろ」

 感心しているのか呆れているのか、あるいは一周回って面白がっているのか、判別のつかない表情で恭二が笑う。

「予測不能は先代たちの役所だったのですけれどもねぇ? 今後は【ジャスティスピンク】が【何があっても不思議ではない】とか言われるのでしょうか」

 何か愉快なことを思い出したかのように、詩織もクスクスと笑ってそう相槌を打つ。

「とりあえず、無事なようで安心しました。【コンクエスト】はあの二人にお任せして、在原さんは着替えてきていただけますか? 戦闘終了後、オープンキャンパス参加者への説明をお願いしたいのです」

「了解しました」

 二人に向けてうなずくと、望美は舞台脇の控え室へと向かった。



 望美が途中退場して頭数が減ったせいか、あるいはリミッター解除状態の【ジャスティスピンク】の猛攻に押し切られたのか、【正義の味方部】の勝利でイベント戦闘は幕を閉じた。【若苗】の負け惜しみを合図に【世界征服部】が舞台袖へと撤退し、舞台中央でポーズを決めた【正義の味方部】が高らかに勝利を宣言する。軽やかに舞台から飛び降り、体育館の外へと向けて駆けていく【正義の味方部】と入れ替わるように、制服姿の望美はマイクを手に舞台へと上がった。

「以上が、志貴ヶ丘学園高等部名物【コンクエスト】でした。ご存じの方も、そうでない方も、お楽しみいただけましたでしょうか? これを持ちまして説明会は終了となります。以後はご自由に校内をご見学ください。本日はオープンキャンパスにご参加いただき、誠にありがとうございました」

 望美の言葉が終わると、脇に控えていた教師陣が後ろから順番に参加者たちを体育館の外へと誘導し始める。なぜかツアーコンダクターよろしく旗を手にしている教師が存在し、参加者たちに声をかけているところを見ると教師による校内見学ツアーが組まれているのかもしれない。

 参加者たちがすべて校舎の方へと向かい、体育館が静けさを取り戻したところで制服に着替えた薫と悠が舞台袖から出てきた。戦闘員たちの姿がないところを見ると、彼らは裏口から外に出て行ったようだ。

「在原さん、大丈夫でしたか!?」

「在原ちゃん、大丈夫!?」

 開口一番声を揃えてそう叫んだ二人に、上級生二人が視線を交わして小さく笑う。

「はい、大丈夫です。お二人にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 笑みを浮かべてうなずいたあと、望美はそう言って深々と頭を下げた。

「イベント戦闘のことなんか気にしなくっても大丈夫! それよりも在原ちゃんが怪我しなかったかどうかの方が重要だから!」

 握り拳でそう力説した薫に、悠は一瞬何か言いたげに口を開いたが結局何も言わず、そうですねとだけ告げた。

「よし、それじゃ俺らも校舎内の見回り始めるか。毎年結構な数の迷子が出るからな、気合い入れて行けよ?」

 冗談めかして告げた恭二の言葉に笑い、望美たちもまた校舎へと向かった。

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