ラウンド5

「やっほー。ねえ、入学式ですごいうなされながら寝てたね。すごい目立ってたよ! ひょっとして、昨日は緊張して眠れなかったってやつ~?」

 上原遥之うえはらはるのがゆみに話しかけてきたのは、担任から一通り学校の説明が終わり、生徒たちが帰りの支度をしているときだった。

 派手な人……ギャルって人種だ……。

 ゆみは遥之の姿を見た途端、びびってしまった。

 ばっちりとメイクされた顔に、アイメイクで強い目力を持つ目。耳にはピアス。ピンクのリボンを着けた白いシャツに、腰にはベージュのカーディガンが巻いてあった。ミディアムヘアの髪はブラウンのカラーが入っており、巻き髪パーマがかかっている。ネイルも、ばっちりされていた。紺ソックスだけが、普通の女子高生らしかった。

 まさか、東京から引っ越してきて早々、ギャルに目を付けられてしまった。

 っというかここ明陽高校は、地元でトップの公立進学校のはずでは? なぜギャルが?

 色々疑問に思うことがあったが、ゆみはとりあえず、びびりながらも遥之の言葉に返事をした。

「あ、ええとあの……」

「ごめんごめん。いきなし馴れ馴れし過ぎたかな~? あたし、上原遥之ってゆーの。いやー、ウチの高校、同じ中学の人少なくてさ。一人で寂しかったんだよね~。っていうかみんな真面目すぎ! 普通、校長の話なんて真面目に聞かないっての、ねえ? あ、っていうかそのパーカー可愛いね。どこのやつ?」

「ええっと……」

「あ、ごめんごめん。一人で喋りすぎたかな? あたし喋るの好きでさー。初対面の人でもついたくさん話かけちゃうんだよね~。えっと、名前は確か……」

「髙野ゆみです。あの……私、入学式で目立ってたんですか?」

「ちょー目立ってたよ! なんかうなされててさ、隣の子とかビビッてたもん!」

 ゆみは恥ずかしさで、顔が真っ赤に沸騰していた。まさか隣の人がビビるくらい、うなされながら寝ていたとは……。

「ひい……恥ずかしい。もう、高校生活おしまいです……」

「あははははっ。髙野さん、おもしろいね! よかったらさ、一緒に帰らない? あたしバスなんだけど」

「あ、私もバスです。私でよかったら是非」

「あー、そういう遠慮がちな感じいいから。あたしのことは遥之でいいよ。髙野さんのこと、ゆみって呼んでいい?」

「はい、全然構いません! 遥之……さん!」

「もー! 敬語とか堅苦しいからなしなーし! もっとフランクに、呼び捨てでいいよ!」

 遥之は、満面の笑みでゆみの背中をバンバン叩いた。

 派手な外見で、遥之のことを怖い人だと思っていたゆみにとって、遥之の笑顔は癒されるものがあった。

 ゆみは安心した。遥之の勢いに押されるような形になったが、友達ができた。

(こっちに引っ越してきて、よかった)

 心の中で呟くと、ゆみは遥之と一緒に教室を出た。

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