SAKURA DOLL 完全版1~暁桜編

鋼桜

暁桜編〈プロローグ〉



 ――彼女は泣いていた。


 深海のような冷たく重苦しい圧力に満ちた空間。

 自身の指先さえ見えない、深い洞窟のような暗闇の中、消え入りそうに膝を抱え、うずくまっている。

 そのつもりだが、顔を上げても指先すら見えず、座っているはずの地面も認識できない。

 そんな景色とは裏腹に、思考はモノトーンと、極彩色に彩られた悲哀と苦痛の記憶が、際限なく交互に巡っている。

 瞳を開ければ暗闇の、閉じれば思考のループに囚われ、眠ることもできないまま、永遠の苦痛だけが彼女をさいなみ続けていた。


 ――真闇の牢獄。


 ……なぜ? ……どうしてまだの? なぜの?


 答えはない。

 だが、それでも彼女は救われたいとは思わなかった。


 誰か…………誰か!………………!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る