ここで君を待つ

村上玄太郎

第1話 サクラ

仙台の桜が散ったかと思うと、恋も散った。

こういうときは、どうすればいいのだろうか。

仙台の高校に進学した私は、入学したてで、桜の咲き誇った校庭を歩いているときに、女性の先輩に呼び止められた。自分と同じ中学出身の先輩だった。話を聞くと、私のことが好きだと言う。すぐさま、私は付き合いますと答えた。

中学からの憧れの先輩に、告白されて付き合ったまでは良かった。私の高校生活はばら色だと思ったが、そうではなかった。二週間も付き合わないうちに、先輩のほうから別れ話を持ちかけられたのだ。

今、どす黒い気持ちが波のように、押し寄せては消えるような生活を、送らなければならないはめになって、この行き場のない怒りに似た感情を抱えながら、どうしようか迷っていた。迷ったときには、相談相手が必要だったが、それもいない。家族にも相談できない。では、友達はと言うと、一人信頼できる相手がいて、初めは、恋愛相談に乗ってもらったものの、そのうち、疎遠そえんになった。私と恋人とのけんか話を長々と聞いたので、ついに、うんざりしてしまったのだろう。教師たちとは、中学も高校もプライベートを話せるような仲ではなかった。大人を信頼できない子供だった私を、いい子として取り扱うしか能のない大人たちに対して、大事なことなど話せなかったのは、私の未熟さのせいだったのだろう。

これが現在の私の状況だった。

新たな恋が必要だった。

そう思うしか、希望を見出せない。

授業中、クラスで気になる女の子を、じっくりと眺めながら、その子がこちらを向くたびに、あらぬ方向を向いた。これはプライドの高い私が十年以上かけて編み出した技である。自分をアピールできると私は信じていた。はた目からみれば、明らかな不審者であるが、これが精一杯の強がりなのだ。スカートを見た。ひらひらしている。昨日の晩に、アイロンをかけておいただろうスカートのテカリが、教室に差し込む陽に当たり、きらびやかだったのを、私は彼女の顔の動きに注意しながら、横目でじっと見た。恋に飢えると、普段なら眼中に入らぬものまで美しく見えるらしい。

ただ、決して、彼女の顔は注視しないのだった。なるほど、女の顔はかわいかったが、美しいと思えるほどではなかったからだ。もし、ブサイク選手権がこのクラスで開かれれば、クラスで最下位は免れた程度だ。だが、やはり、私の心でどこかにひっかかるのだった。なぜだろう。心に余裕がないからだろうか。

それとも、失恋した先輩の顔を、どこか無意識の領域で、クラスの女の子と比べてしまっているのが原因なのだろうか。

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