第48話

「わぁ~!」




 みんな虹色のカードを食い入るように見ていますわ。


 むいが待ちきれないといった様子でしきりにいおさんの白マントを引っ張りますの。




「め、めくっちゃいますね……」




 五枚のカードは全部アンチ系状態異常回復ポーションでしたが……。


 虹色カードは――おおっSSRですの!?


 って、ええ……なんですの、コレ。




「えっと。石……よね?」


「そう、みたいですにゃ」




 カードに描かれていたイラストはただのまん丸の石でしたの。


 唖然としているわたくし達に、




「おめでとございますですでち! それは超貴重なマジカルストーンでちよ!」




 マリィさんがベルをカランカランと鳴らしながら祝ってくださいました。


 ……マジカルストーン、ですの。


 あ、もしかしてっ!




「ストーンって、BEO2のカードと同じものかも」


「そうですわ、わたくしも多分そうだと思いますのっ!」




 BEO2のカードシステム。


 ボス敵を倒したときに手に入る素材を組み合わせて作るアイテムのことですわ。


 そのカードを作成するにはボスを何十体、いえ、何百体も倒さなくてはいけなく、しかも確率が0.1%の貴重素材も必要だったり……とにかくレアなアイテムでしたの。




 でも、それだけをする価値がありまして……なんと、カードがあればボスモンスターのスキルや魔法、特性を自由に使えるようになるんですの。


 わたくしの持っていたXRレアリティのウェザーカードは、天候を自在に操ることが出来たりと、まあボスカードによって効果は様々ですの。




 ただカードは使っても無くならない代わりに、一日に回数は何回までって決まっていますの。強力なカードほど回数は少ないですわ。ウェザーは二回まででしたわね。




「ちっちっちー。それがこのマジカルストーンシステムはちょっと違うんですぅ」


「なのっ、もっと簡単になったなの!」




 と、言いますと?


 ティエチナさんの頭の上で寝そべっているシャノンはどこか自慢げに、




「このモンスターストーンはあらゆるモンスターから落ちる可能性のある珍しい石なんですぅ。一番MROで弱いウルフからも落ちるですよぅ」


「でも、あたしの火蜂で倒したときはこんな石なんて落ちなかったわよ」


「そうそう。確かあの時みやかちゃんのマシンガンで千匹ぐらい狩ったよね。でも毛皮とか爪ばっかりだったよ?」




 不思議がるみやかとむいに、




「珍しい石、なんですよぅ? たった千匹狩ったくらいじゃ出ないですぅ」


「……千匹が、たった」


「ご主人ちゃま、顔色が悪いのっ」


「えっとえっと。じゃあ何匹狩ったら出るのかにゃって……気になりますっ」




 シャノンのふわふわの髪を指先で撫でつつ訊ねるいおさん。そして、それに甘えるようにパタパタと羽を動かすシャノン。


 お話の途中ですが、このお二人……なんだかとっても絵になりますわね。幻想的って言いますか、海外のファンタジーなイラストを思い出しましたわ。


 わたくし、ちょっぴり羨ましいですのっ!




「えっとですぅ……確率だと確か、一万分の一だったハズですよぅ?」




 一万分って……カードの素材となるものが千分の一の0.1%なのに、それよりも低い0.01%ですの!?




「ひゃー。そんなの絶対無理だよぅ!」


「まあ、れらのラーニンググローリーと比べたらマシだけど……。でもそういう問題じゃないわよねぇ」




 あらら。みなさんの顔がどんよりと曇ってきちゃいましたの。




「まぁまぁ。とにかく、手に入ったいおしゃんはラッキーなんですよぅ! どんなモンスターのストーンですぅ?」


「気になるなのーっ!」




 妖精さんたちの眼差しに、いおさんはうんっと頷いて、




「えっとですね。あ、『のたうつドラゴン』のストーンみたいです」




 カードが瞬く間にストーンに変わっちゃいましたわ。


 なんだか深い色合いの黒い石ですの。


 ほえ~っと、出てきたちっちゃな石をみんなで見ていますと、




「の、の、のたドラぁ!? ひぇ~、とんでもねーのが出たですぅ!!」




 シャノンが興奮していおさんの周りを飛びまわりましたわ。




「それって凄いの? ドラゴンっていう程だから凄そうだけど……」


「凄いってもんじゃねーですぅ! のたドラは通称ハラペコドラゴンと言う、ドラゴンの中でもわりと低レベルで頻繁に見かけるモンスターなんでぃすが……その効果が凄いんですうっ!」




 興奮するシャノンの説明をまとめますと、このマジカルストーン――長いので魔石という呼び方にしますが、この魔石にはあらゆるモンスターの力が込められているそうですの。




 前作カードの場合ですと、ウェザーなら天候を操る特殊能力だけで、ウェザーというモンスター(ボス自体は水龍みたいなものでしたわ)の特性である水雷攻撃無効化、スキルのライトニングなどは使えませんでしたの。




 まあ、天候を上手く操れば雷攻撃も出来ましたが……。でもこの魔石ならば、全ての力を使えるようになるみたいですの。


 使うにはスロットの空いてる装備品を持っていて、該当する箇所に入れなければいけないみたいですが。




「うっげ……それって強すぎない? バグってるとしか思えない仕様なんだけど」


「確率が低いからそうそう手に入らないと思うけど……。す、凄すぎるよね」


「しゃの、ちょっと違うなのっ! 全部の力を使えるのは姫ちゃまが持ってる超魔石だけなの。普通のモンスターの魔石はスキルか特性か特殊能力か……全部ランダムで一個だけしか使えないようになってるなの」


「あうっ、そうだったですぅ~! 失敗失敗……」


「しゃの、慌てん坊さんなのっ」


「むーぅ。もっかい説明するですよぅ!」




 なあんだ、そういうことでしたのね。


 さすがに全部の恩恵を受けられるのはボス石だけで……って、ちょっと待ってくださいまし!


 ティエチナさんの声が聞こえないみんなのためにもう一度マジカルストーンについて説明しているシャノンに、




「いおさんの持っているそのマジカルストーンって……もしかしてボスのストーンですの?」




 わなわなと手を震わせながら黒い石を指差すわたくし。


 みんなその瞬間「ええ~!?」と驚きましたわ。




「ミラコンよ、ミラコンに入れてアイテム詳細を見せて、いお!」


「ひゃ、ひゃい! ちょ、ちょっと待って欲しいにゃって……あ、出てきました! のたうつドラゴン……低レベルですが、たしかにボスモンスターです。しかも、この効果……ひょえええ!?」




 涙目の茫然自失になってそれ以上言葉を紡げずにいるいおさん。




「……姫、ちょっと見せて」




 エメラルドグリーンに光り輝くミラコンのアイテム表示。


 それにはこう書かれていましたわ。




 ☆レアリティSSRのスーパーマジカルストーン:のたうつドラゴンの超魔石


 『この魔石が装着可能な場所は武器。特殊能力:攻撃をする際、ある一定の距離に対して全体化になる。スキル:属性ブレス(効果は装備者の属性によって変わる)特性:火属性攻撃は全て無効』




「完全にチートアイテムですわ、これ……」




 わたくしが呟くと、みやかはニヤリと笑っていおさんの肩に手を乗せました。




「ふっふっふ。いいじゃない、その力を持ってぎゃふんと言わせんのよっ!」


「ふぇ!? ぎゃ、ぎゃふんですか……?」


「……ギルティメイズに行くわよ。いおはバグっているだけで、強い人だなってのは見てすぐに分かったもの。あたしの眼に狂いは無いわ。その石で自信をつけて、あんたをバカにした奴らを見返してやりなさい」




 その言葉に目を潤ませるいおさん。




「あたしはね。ゲームを攻略するだけでも楽しいけど、強い人とも戦いたい性質たちなの。その中にはね、いお……あんたも入っているのよ。だから、あたしの期待に応えて欲しいわ」


「き、綺羅さん。はい……はいっ! 私、一生懸命頑張りますっ!! いつか綺羅さんを満足させるような戦いを……します!」


「……うん。あたし、その日を待ってるからね」




 ケープを翻して時計塔へと――ギルティメイズへと向かうみやか。


 その後ろを鼻水をすすりながらついて行くいおさん。




「みやかちゃん、かっこいいね」


「当然……綺羅はいつだって輝いてる」


「えへへっ、うん。そうだよね!」




 それに続くむいとれいらさん。




 ……おバカですわねぇわたくし。今頃になって気付いちゃいましたの。


 第1位のウェザー・キングじゃない。第2位のミヤカに観客みんなが惹かれていたその理由を。




「待ってくださいまし! わたくしをお忘れですわよっ!」


「むぎゅっ!? お、重いわよななよ! 急に抱きついてこないでよぉ」


「まっ、お言葉ですわねっ。わたくしこう見えても標準より痩せ型なんですのよっ!」


「……違うわよ、そ、そういう意味の重いじゃなくって。別の部分の……ああ、もういいわよっ。さっさと行くわよ……みんな大人しくついて来なさい!」


「はーいっ!!」




 わかっていますの。


 わたくしもみやかに惹かれた人の一人ですわ。


 だからこそあの時――わたくしみやかにだけ引退を告げる気になったんですのね。




「ふふっ」




 自信たっぷりなみやかに、不安げのいおさん。


 無邪気に笑うむい。無表情のれいらさん。


 そして……わたくし。




 てんでバラバラなタイプが集まった五人ですが、その心はしっかりと繋がっていますの。


 さあ、いよいよですわ。待っていてくださいまし――ギルティメイズ!

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