20 「え、市のマスコットキャラの声ですか?」
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雨が降っていた。
自分の部屋の窓から雨の景色を眺めている。
自身のセミロングの髪を、指でくるくると巻きつかせて暇を弄びつつ、微かに響く雨音に耳を澄ましていると、電源スタンドに立てていた携帯電話から落ち着いたバラードのメロディが鳴り響いた。
メロディから、女性マネージャーの高瀬からだと解り、落ち着いて電話に出た。
『あ、もしもし、園子ちゃん。今、大丈夫?』
「はい、大丈夫です。仕事ですか?」
『ええ、そうよ。珍しく、ご指名よ。しかも、オーディション無しの!』
「そうですか。それで、どっちの仕事ですか?」
『伊吹まどかとしてよ』
その名前を呼ばれて、女性の表情が少し明るくなった。
「それって……」
『表の仕事よ。といっても、アニメとかゲーム、ましてや吹き替えの仕事じゃないけどね』
「え? それじゃ、どんな仕事なんですか?」
『えっとね。伊河市という市のマスコットキャラの声をやって欲しいというものよ』
「え、市のマスコットキャラの声ですか?」
『そう。伊河市という場所知っているかしら。温泉がそれなりに有名らしい所なんだけど……』
「すみません。知らないです」
『あら、そう? まぁ、そこからのお仕事よ。言うならば、お役所仕事ね。そこから、園子ちゃんに直接オフォーが有ってね。是非、やって貰いたいと言うのよ』
「……なぜ、私なんでしょうか? 私が言うのもなんですけど、そういうちゃんとした仕事は、他の方のほうが……」
『そう言わないの。園子ちゃんがどんなであれ、どこで仕事が舞い込むか解からないでしょう。事務所的には、この依頼OKで、あとは園子ちゃんのOK次第なんだけど……。返答なら、二、三日あとでも……』
「解かりました。やります。やらせてください!」
『そう言ってくれると思ったわ。それじゃ、先方の方に伝えておくわね。詳しいことは後日伝えるから。打ち合わせとかあると思うから、失礼がないように伊河市のことを調べて置いた方が良いわよ』
「わかりました。それじゃ、よろしくお願いします」
『はーい。それじゃーね』
電話が切れると、女性は電源スタンドに携帯電話を置いた。
彼女の名前は桑井園子。職業は声優。伊吹まどかの名前で活動していた。
「市のマスコットキャラか……。これで最後にしよう……」
園子は雨音に掻き消されるほどの小さな声で、そう呟いた。
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