エピソード12「小学校訪問」

収録当日、静かに旅客機がキンコー要塞の民間飛行場から離陸した。乗ってるのはテレビクルーとサングラスかけたドーマエ、お供の兵隊三人だけだった。全員ショルダーホルスターに陽電子拳銃を装備していた。士官の拳銃は個人調達なためドーマエはプロイセンの友人から送られたワルサー社のP380陽電子拳銃を持っていた。最新の拳銃で陽電子を充電して使うため弾数が有限なのは従来の拳銃と変わらないが弾数が20発と従来と比べて飛躍的に上がった。弾数以外にも軽量化や狙いの付けやすやに重点が置かれた設計で気に入っていたのは簡単なメンテナンスで確実に作動する陽電子圧縮装置があり、機械としての信頼性が高いことである。そしてグリップもプロイセンのシュバルツヴァルト星でしかとれない木材を使い、持ちやすくて手にフィットしている。部下が携行しているのはナンブ陸軍技術中将が開発したナンブ14式陽電子拳銃で、弾数は八発である。ナンブの方が命中精度は高い。ドーマエは拳銃を見ながらプロイセンのリストを思い出した。プロイセンの士官学校と交換留学した時の友人だ。

「本機はまもなくフソウ星ハネダ空港に着陸いたします。」

ドーマエは機内アナウンスにより現実に引き戻された。空港で朝食を済ませると学校を目指した。生徒が講堂に集まった。ステージにドーマエが歩いて出ていく。その時ピアノについていた教諭が演奏を始めた。やがて子供達の合唱が響いた。

「守るも攻むるも黒鐵の浮かべる城ぞ頼みなる、浮かべるその城日の本の皇國の四方を守るべし、眞鐵のその船日の本に仇なす敵を攻めよかし」

皇国が地球にいた頃の海軍で歌われた行進曲で今でも歌われる。生徒達はそのまま二番に入った。

「石炭の煙は大洋の龍かとばかりになびくなり、弾撃つ響きは雷の声かとばかりどよむなり、萬里の波濤を乗り超えて、皇國の光、輝かせ。」

曲調が変わって海ゆかばに入る。こちらも地球時代から歌われた軍歌だ。

「海ゆかば水漬く屍、山ゆかば草生す屍、大君の辺にこそ死なめ、かへりみはせじ」

演奏が終わった後に生徒の一人が

「気を付け!」

と叫んだ。全員が素早く姿勢を正す。

「全員、ドーマエ大佐に敬礼!」

生徒達は帽子を被っていないため挙手注目礼ではなく頭を下げた礼である。ドーマエは軍帽を着用していたため挙手注目礼で答えた。

「着席。」

椅子に生徒達が腰掛けた。

「おはよう。」

ドーマエの挨拶にその数倍もの大声が返ってきた。

「うん、皆元気だな。今日は皇国の宇宙軍の話をしたいんだが、僕の事を知ってる人はいるかな。」

「ハイハイ!」

全員の手が上がった。

「じゃあ、そこの君。」

小柄な少年は立ち上がってドーマエを向いた。

「ドーマエ大佐ですね。この間の対韓国戦で大活躍だった。」

ドーマエはその少年に礼を述べて着席させた。

「ありがとう。大活躍かどうかは置いといて正解だね。今は戦艦ムツの艦長をしています。」

国民にはヤマト型戦艦の事は伏せられておりナガトとムツは日本の誇りと言われていた。

「大佐!」

前列の利発そうな少女が手を挙げた。

「なんだい?」

ドーマエが尋ねる。

「はい、ドーマエ大佐の今までの戦いについて聞きたいです。」

「そうか。よし、じゃあ始めようか。まず士官学校を卒業して少佐、カゲロウ型駆逐艦ソラナミの艦長として正式に軍人となった。初陣は竹星雲の強襲作戦だった。戦艦ソウルと巡洋艦ペトュクサンを沈めた。この時は誘導弾を一発食らったが大した被害は無かったな。その後陛下に勲章を頂いて中佐に昇進、巡洋艦イブキの艦長になった。そしてインチョン会戦に参加して空母一隻を沈めたがその後のソ号作戦の際に敵の衛星機雷に触れ大破、雷撃処分された。触雷時に艦長会議に出席していたため詳しいことはわからない。そして直後に航空戦艦イセ副長に任命された。ト号作戦で囮艦隊に敵が引っかかったところで更に囮の囮となり他の艦隊を逃がすため一隻で敵航空機2000を相手にして奮戦、沈没した。その際にかなりの乗組員が生存しているが、これもアルガ艦長のおかげかな。そして今は戦艦ムツの艦長をしている。あまり詳しく話すと軍機に触れちゃうからざっくりとだけどこんな感じだよ。」

皆が感心した表情を向けてきた。

「大佐、軍にいて一番嬉しかったことはなんですか?」

「嬉しかったことか、難しいな。やっぱり任務をやり遂げた時かな。国のために働く、ということは皆達の事を守ることなんだ。だから皆が楽しく生活している所を見た時はやりがいを感じるよ。」

「じゃあ逆につらかった事や辞めたいと思ったことはありますか?」

後列の背の高い男子からだ。

「うーん、まだ前線に出てから半年しか立ってないけど、つらかったのは戦艦イセの沈没の際アルガ艦長との最後の別れをした時だった。若手の僕にあれだけ目をかけてくれたのに御恩を返せなかった。辞めたいと思ったのはイブキが触雷した時。自分の艦なのに自分がそこにいることが出来なかった。その時は軍人を続けていいのか悩んだよ。」

全員がしーんとしてドーマエの話に聞き入っている。

「皆も、絶対にこれにならなきゃダメって仕事はないけどね、でも宇宙軍は国民を守る大切な存在だから入隊を考えてもいいと思うよ。士官学校の試験は皆が小学校を卒業する時だから四年生の君たちなら今から勉強始めても間に合うよ。」

勧誘をしておいた。一応テレビのプログラムでもあるからだ。

「大佐!今やってる戦争は勝てるのですか?」

中列の女子からだ。

「絶対勝てる、と言い切るのは油断に繋がる。僕達は一戦一戦全力で戦うだけだよ。でもね、数兆人が暮らすこの皇国は、素晴らしい国だよ。今は対日大同盟というこちらより戦力の大きい国の集合体を相手にしているけど簡単には負けない。僕や僕の他にも軍人がいる。君達の両親や兄弟がそうかも知れない。こういった人達が自分の命をかけて国を守ってるのだからそう簡単には皇国宇宙軍は負けないよ。」

優しく諭すように話した。

「皆、午後の授業を中止にして僕とヤスクニに行こうか。賛成する人は挙手をして。」

全員の手が上がった。

「じゃあ行こうか。」

給食の時間まで生徒と雑談した後生徒が給食を食べ始めたらこっちも持参した弁当を食べた。軍の定時連絡で異常がない事を確認すると全員で歩いて出掛けた。小学校からヤスクニは歩いて20分程でついた。本堂の前でドーマエは手を合わせた。脳裏には今迄戦死していった部下であり戦友の顔が次々と浮かんでくる。そしてアルガ艦長が脳裏に浮かんだ時、不覚にもドーマエの目から水滴がこぼれ落ちた。ドーマエはアルガ艦長に脳内で

「戦いぬけ、それが皇国への御奉公だ。頼むぞ」

と言われていたのだ。

「艦長、わかりました。」

涙を流しながら小声で答えた。やがて祈りを捧げるとその場を立ち上がってヤスクニを生徒と共に後にした。

「では、皆さんさようなら。いつの日か戦友として出会えることを望んでいます。」

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