証拠の無い殺人
Kalin.L
第1話
第1章 ※汚染※
「おはよう、ステラ。コーヒー入れておいたよ」
2階から降りてきた、ステラにコーヒーを渡した。
「ありがとう、ネイサン。あなたが旦那さんで私はラッキーね♬今日は天気がいいわね」
ステラは、外を見て嬉しそうにコーヒーを飲んでいる。
「おはよう。パパ」ソフィーはステラと同じ色の金髪を揺らしながら階段を降りてくる。
「おはよう。僕の可愛いお姫様。パンケーキを焼いておいたぞ」嬉しそうに、ソフィは足元に抱きついてきた。
「ソースの味は?」
ソフィを抱き上げおでこにキスをした。
「お前の好きなイチゴ味だ。食べておいで」
「やったぁ♡パパ大好き」
「ソフィー、食べちゃいなさい」
「はぁーい」ソフィーはプクっとふくれて言った。
俺の名前は、ネイサン・ベイリー 36才。
妻はステラ、31才。子供はソフィア、4才。
⋚ブッブー⋚ブッブー⋚
「マリクが迎えに来たわよ毎朝賑やかね(笑)」
「マリクが、来たァ♪」
ソフィーは窓の傍に行って、マリクに手を振っている。
「ママ。マリク家に入って来てくれるかな?」
目をキラキラさせて言った。
「呼んでみれば?(笑)」
「急いでるから、呼んだらダメだよ」
「パパぁ!マリクと遊びたいのぉ」
「また今度な。マリクに言っとくよ」
ソフィーを抱き上げて椅子に座らせた。
「ヤダァ!マリクと遊びたい」ソフィーの頬が膨らんでいる。
「今日は、保育園に行くんだろ?お楽しみ会を休んでも良いのか?」ソフィは、お楽しみ会を思い描いているのか、落ち着きを戻した様だ。
「パパぁ、保育園は行かなきゃだね。パパが、早く帰って来たら、お話しするね♪」
「早く帰れる様に、パパは頑張るよ」
「わかったぁ~」ステラは、ソフィを優しい目で見守っている。
「うふふっ(笑) ソフィー食べたら手を洗って、服を着替えて来なさい。保育園に、に遅れちゃうわ」ソフィを、少し急かすように、ステラは穏やかに騙り掛けた。
「マスクを忘れるんじゃないぞ」
「はぁーぃ。食べたから着替えて来るぅ」ソフィーの機嫌は、コロコロ変わるな。
マリク・J・ウィルソン は俺の相棒。34才 黒人で喜怒哀楽が激しく。幼なじみでもある。
二階の踊場からソフィが「パパ、行ってらっしゃい」と言った。
「行ってくるよ」
「ネイサン、気を付けてね」ステラにキスをして家を出た。
ステラは、優しく理解力があり、俺には勿体ないと思う程の妻だ。今は子育ての為、パートで病院のカウンセラーをしている。ソフィアは、病院に常設している託児所に通っている。
外に出ると、マリクが車の窓を開けて
「ネイサン、俺のコーヒーは?」
「ほら」俺は、マリクにコーヒーの入ったタンブラーとサンドイッチを渡した。
「毎日楽しみにしるステラのコーヒー。ステラのコーヒーは美味しんだよなぁ♬」ネイサンは車に乗り込んで「今日は、俺が作った」
「マジかよぉ、ネイサン!俺を愛してんだなぁ(笑)コーヒーを作ってくれるぐらいに(笑)」マリクは、ネイサンを見て言った。
「前見て運転しろよ」
「了解ってか、ちゃんと見てるぜぃ」
全く朝から元気な奴だ。どこから、このパワーが出てるんだろう。
マリクはラップ調で歌い出す
「♪♪俺は船が好き。俺はドライブが趣味。 俺の船は揺れてる。 隣の船は釣りしてる。 俺は歌う。 隣のやつはバッシング。 それでも俺はドライビング。 俺は負け知らずのキング♪♪」
簡単な韻を踏んでいるが、スペルが違う。俺は何も言わずに、鞄から資料を出して、聞いてない振りをした。これも、毎日の事だ。
「聞いてんのかよォ..せっかく気持ち良く歌ってんのに悲しくなっちゃうだろう」パグ犬の様な、目で見てくる。これが又、可愛くて情が出てしまう。
マリクは、また歌い出しそうだなぁ...ふぅ…
「♬.*゚全ての女が歌い出す。 あなたは素敵な人。あなたの情熱、感情、あなたは革命を...
歌を遮るように.¸¸♬︎.♪︎ 俺の、携帯が鳴った。
画面を見ると、署内からだった。誰だ?
「マリク、MDを止めて静かにしろ」
「何で?」ぽかんとした顔でMDを止めた。
「部長から掛かって来た。はい、ベイリーです」
「ベイリーか、ベニケットだ。ウィルソンも一緒か?」
「はい、一緒です。今、署に向かってます」
「方向転換して、バイレット通り9071番に急行してくれ。ビルの南側の路地で変死体が見つかった。」何故、部長から...
「見つかった、遺体の性別や状態は?」
「女性だ...状態等は取り敢えず、現場行ったら解るだろう」ツーツーツー通話が切られた。
「どうした?」
「マリク、バイオレット通り9071に行くぞ」俺は、カーナビに住所を入力した。
「ベニケット部長?マジで?」マリクは、サイレンを鳴らしバイオレット通りに車を走らせた。
「ボスからなら、解るけど...部長だろぉ。何で俺達に?」マリクは、驚いた顔で聞いてきた。
「解らん」俺は、頭が混乱し始めた。
「部長は、遺体の情報は言わなかったのかぁ?」
「女性の、変死体とだけしか言わなかった」
「1課飛ばして、俺達にか?意味が分かんねぇ」
「何か、嫌な予感がするな」
ネイサンの、予感は当たるんだよなぁ。こういう時は考え事をするから、なるべく話しかけないでおこうっと、ほら腕組みを始めたぁ。スピードをあげるか。サイレン鳴らしたら渋滞に巻き込まれねぇから楽だな♪
「あんまりスピード出すなよ」
書類を見てんのに、スピードを上げたのが、何故にわかるんだぁ...
「そんなに出してねぇよ💧ボスは、事件の事知ってんのかなぁ」
ヤベェ!喋っちまった。 聞こえてねぇみたいだな。でも...ネイサンから話しかけたんだから良いんだよなぁ。部長から直に連絡なんて、今まで無かったよなぁ。どんな変死体なんだぁ..
何故、部長から...ボスからの電話は納得出来るが...変死体って言うからには、今まで見た事の無い様な状態なのか、何故1課じゃないんだ。
新しく出来た2課に...まだ、俺とマリクしか居ないのに...頭の中に、あらゆる疑問がが浮かび上がって来る。
マリクも何か考えているのか、話し掛けて来なくなった。
「7号線を南に下って、サンタフェ通りを走った方が入りやすいかぁ」
マリクは、大通りから交差点を南に入りバイオレット通りに向かった。 この辺りは、少し治安が悪い所だ。
1ブロックを過ぎて、商店街の中をゆっくり車を走らせていた。
「バイオレット通りの入口に、コンテーションテープが張ってあるぜ」
コンテーションテープの、手前の路肩に車を停めた。
車を、降りながらマリクが
「ここから西側が、現場かぁ」
「2ブロック先の、空き地みたいだな」
テープの前に、ブレナー巡査が立っていた。
俺達は、少しふざけながら
「俺達も、バッチを見せなきゃダメなのかぁ?」と、マリクは含み笑いをして言った。
ブレナー巡査も、笑みを浮かべながら
「見せて下さい」
「マジかよぉ~www」俺達は、腰に付けているバッチを、ブレナー巡査に見せてテープの中に入ろうとした時...ブレナーが
「この路地をビル沿いに、西に行った突き当たりに現場があります」俺達は、足を止めて
「空き地じゃないのか」ネイサンは、ブレナー巡査に尋ねた。
「奥に、ブルーシートが見えると思うんですけど」ブルーシートを指差しながら答えた。
「結構、距離あんな」マリクは、遠くを見ながら言った。
「僕も、もう少ししたら現場の方に行きます」
「そっかぁ、ありがとな」俺達は、テープの中に入り現場に向かった。
両サイドには、廃墟と思われるアパートが建っていた。薄汚れた壁には、落書きがあり道路脇には、ゴミが溜まっている。
俺達は、左右のアパートと道路のタイヤの痕跡を確認しながら歩いていると、信号の無い4叉路に出た。
「この狭い道の左右にも、コンテーションテープかぁ」小型車じゃ無ければ、通れない程の狭さだ。
「北南の道が狭いな」
完全に、封鎖している様だ。部長が絡んでいるから、厳重な封鎖体勢なのか。
北が空き地で、南が廃車工場か。
「この奥かぁ?ブルーシートが見えて来たぜ。空き地が、現場じゃなかだたんだなぁ」ブルーシートが、風で大きく揺れている。車が2台ギリで、通れる広さだな。
「結構歩いたな。奥に、線路が見えないか」
ネイサンは、西の奥の方を見ながら言った。
「うーん、整備施設に行く線路じゃねぇか」
廃車工場からは、ガソリンや鉄屑の匂いがし機械音が聞こえて来る。
「普通は、これくらいの広さなら舗装されて無い所が多いいけどさ。一応綺麗に舗装されてんなぁ」マリクは、荒んだ道路を見ながら言った。
「手前のアパートの壁には、スプレーで落書きされてたな」
マリクは、周りを見渡しながら
「監視カメラは無さそうだな。期待する方が無駄かァ」
「手前のアパートにも、無かった、と言うより誰も住んで無さそうだ」
「難しくなりそうな事件だなぁ。これだけ落書きがあったら、誰か溜まってた可能性はあるんじゃ無いのかぁ?」
ネイサンは、足元を見た。悪ガキが溜まってたなら、もっとゴミが有る筈だが微妙に...小綺麗だ。
「誰か居てそうな雰囲気の中で、遺体を遺棄しないだろ。複数のタイヤの痕は有るが、古いし大型車の痕が多いいな」現場を確認しながら、結構な距離を歩いた。
「やっと、着いたかぁ」
検視官のイザベラ・マウアーが、複雑そうな顔をしてブルーシートから出て来た。
検視が、丁度終わったのだろうか。
俺達は、イザベラの近くに行った。
イザベラは、俺とマリクを見るなり早口で
「2人を待ってたのよ。遺体の名前は、グレース・ニューマン。性別は女性、白人、18歳、赤毛、中肉中背...IDが袋に、入ってたわ。遺体は裸で、密封状態で保存されてらしいわ。発見者が袋を開けて、声を掛けたみたいだけど既に死んでたんだけとねぇ」イザベラは、こめかみに指を当て何かを考えている。
「他殺なんだろぉ?」
マリクは、イザベラを見ながら聞いた。
「今は、断定出来ないわ。初見で、目立った外傷は無し。遺体は密封されてたらしいけど、袋から出されてたし。ラボで調べないとだね」アンバーアラートが、鳴らない年齢だけど、18歳は若すぎるな。ネイサンは思った。
「密封?密封されてたのか?」不思議そうな顔で、マリクは聞いた。
「ええ。痕跡らしき物は、見られたわ」イザベラは、証拠が汚染されていたのが気に食わないのだろう。少しイラ付いている様に見えた。
「裸で、IDを持っていたのか」ネイサンは、不自然な状況に戸惑った。
「ネイサン、不思議でしょ?手と手の間に,挟まってたらしいの!見てないけどね。もう1個、不思議があるんだけど」イザベラは、俺の顔を覗き込んだ。
「もう1個って、何だ」
イザベラは意地悪そうに、焦らしながら
「聞きたい?・・・・袋の下には、砂と芝生が敷いてあったの」
俺とマリクは、驚きで声も出なかった。
「ビックリよねぇ」
「空き地だから、芝生はあるんじゃねぇのか?」
ネイサンは、周りを見渡した。空き地の所々に、雑草は見られるが芝生は見当たらなかった。俺達は、ブルーシートの中に何時入れるんだろう。説明は、有難いが中でも出来るんだが...
「取り敢えず、遺体を見てきたら?もう少しで、ラボに運んで貰うから」やっと中に入れるのか。
イザベラは、鑑識に何か言いそうになったが
「この場所に、遺棄された時間は解るのか」
「ネイサン。袋の汚れ具合はでは、1日とも言えるんだけど...死斑がねぇ...」
「死班?死班は、水中で死なない限りは出るだろ」死班が出ない位の死亡時刻なのか。
ビル風の様な、突風で砂埃が舞い上がり、砂が目に入りそうになった。
「水中で、死亡してないけど...死班が出てないのよね」イザベラは、髪を必死に押さえている。
「殺人で決まりだ」マリクは、自信満々っで言った。
「殺人とは、断定出来ないの。まぁ、彼女が死んでから袋には入れないからねぇ。死体遺棄だけは、断言するわ」
「何じゃそれ?」イザベラは、何故だかソワソワしながら「2人とも早く遺体を見ないと、写真でしか、見られなくなるわよ」ネイサンは心の中で、彼女が中に入れてくれなかったのに、それを言うのか...
イザベラは、ブルーシート越しに
「ネイサンとマリクが遺体を見たら、直ぐに遺体と証拠品をラボに移して!」鑑識員に言った。
「ありがとう。見て来るよ」
「見た方が、良いと思うわ。写真だけじゃ解りにくいでしょ」マリクは、周辺を見渡しながらイザベラに言った。
「終わったら、ラボに行くよ」
「ええ待ってるわ。マリク」そう言ってイザベラは、車のある方に向かって歩きだ出した。
イザベラの足取りが軽く見えたので、機嫌が治った様に思えた。何故なら、彼女はマリクに好意を寄せているのが解るからだ。マリクが気付いて無いのが不思議だが、ネイサンは、心の中で呟いた。
ブルーシートを、開けて遺体の傍に行った。
少女と言って良いだろう。透明の袋から、少女の上半身が出でいた。
第一発見者が、袋から引っ張り出したと思われる。その証拠に、上半身には砂と芝生や雑草が付いていた。俺達は中腰になり、真空にしたと言っていた袋を凝視した。
「圧縮袋に、入れらてたのか!」ネイサンは、圧縮袋と少女の遺体の状態に驚きを隠せなかった。
「ロスで、こんなデッカイ圧縮袋使うかぁ?」マリクは、上を向き思い出すかように話している。
ネイサンは、鑑識員に
「ウィーバー、遺棄されてた状態は」
「ベイリー警部補。頭は北向きに。背中が西側に向いていて、右を下に、横向きに寝かされてたと思われます」
芝生は、1m×1.5m程の長方形に見える。
「芝生の上に、置かれてたのか」
「芝生の窪みから見て、そうだと思われます。遺体は動かされていたので、目認はしてません」芝生の中央に、窪みが見られた。
「何とも言えねぇなぁ」マリクは、悲しそうな目をしていた。
「ありがとう、ウィーバー。ラボに移してくれるか」
「はい。解りました」ウィバーは、ストレッチャーに遺体を乗せて白い布を掛け車の方に押して行った。
俺達は、ブルーシートの中から出た。
「さて、聞き込み始めるかぁ」
ふと、スクラップ工場の方を見ると、柵の傍に、ブレナー巡査が立っていた。
ネイサンはマリクに「ブレナーの所に行くぞ」マリクは頷き、2人でブレナーの元に行った。
「ブレナー。状況は?」
「はい。ベイリー警部補!朝の7時35分に、緊急通報が入り救命士が、7時48分に到着。救命士は概に亡くなっていたのを目認した為、現場保存を優先し、発見者と警察が到着するを待っていたそうです。警察の到着時間は8時01分です。鑑識に連絡したのは8時04分です。鑑識の到着時間は8時37分です」
ブレナーは、いつもの様にメモを見ずに状況説明した。
俺達が連絡を受けたのは8時位だった、1時間半ぐらい経ってるのか...
「第1発見者はジョン・デイビス氏、53才男性であちらで座っている男性です」
ブレナーは、廃車置場の入り口近くに、座っている男性を指差した。
「発見者によると出勤し、7時20分頃に空き地前に車を停めたそうです。ビニールの中の遺体を発見し圧縮袋を開き、何回か声を掛けて反応を見た所、反応は見られかった為、緊急通報したとの事です。まだ目撃情報はありません。救命士は仕事がある為、消防署に戻りましたが、分署と救命士の名前はこのメモに書いてもらいました。発見者の名前と連絡先もです」ブレナーは、ネイサンに時間系列や氏名等のメモを手渡した。後ろの方から、シャッター音が聞こえてきた。
鑑識員は、タイヤ痕を撮影していた。
「ブレナー、ありがとう」
俺は、マリクにメモを見せて
「この消防士は、知り合いじゃなかったか」
「スコットとは、たまに飲みに行くけど、何でだ?」
「救命士に連絡して、この現場の報告書は、正確に書いて良いが。圧縮袋と砂と芝生は、絶対に口外するなと言ってくれ。捜査妨害にすると、俺が言ってたと」
「マジかよ、空き地の方で電話してくるよ」
マリクは、小走りで空き地に向かった。
俺は、ローク鑑識員に声を掛けた。
「ローク、遺体は車で運ばれたのか」ロークは、手を止めて「ベイリー警部補まだ解りませんが。車でないと運べないと思うんですが、トラックのタイヤ痕が多いんですよ。遺体に1番近い、新しいタイヤ痕は発見者の物だけです。後は全てのタイヤ痕を、検索して調べます」
「足跡は、見つかったのか」
「今の所、足跡は発見者と救命士の物だけで...それは、識別出来てます」
少女と、芝生や土を持っていたのに、何故足跡が無いんだ。何で遺体を運んだんだ...
「ローク、手を止めさせて悪かったな。情報が解り次第、連絡してくれ」ロークは、ネイサンを見て「解りました」と、言い作業を再開した。
俺は、マリクを見たが、電話をしながらメモを取っていた。
俺だけ、先に発見者の話を聞きにに行くか。俺は、発見者の方に歩み寄り、バッチを見せながら
「ジョン・デイビスさんですか。ロス市警のベイリーです。」デイビスは、立ち上がりな
「はい、そうです」声が少し震え動揺しながら応えた。
「IDを、見せて貰ってもいいですか」
「はい」財布からIDを出してくれた。
運転免許証を見たが、不審な点は見られ無かった。ブレナーのメモに、住所や携帯番号は記載してあったな。
「ありがとうございます。IDは、しまって下さい。どちらで仕事を?」
デイビスは、後ろの廃車工場を指を指しながら
「廃車工場で、車をプレスしてるんだよ」
俺より背は低いな、175cm位か。
「朝は何時も、1人で仕事をしてるんですか?」俺は、メモを出し書き取り始めた。
「何時もは、8時半に出勤して3人で仕事をしてるよ」廃車工場から、また大きな機械音がして来た。プレスを始めたのか...俺は少し大きな声で
「今日は、早く出勤されたんですね」
「昨日は1台プレスするのを、忘れてたんだ。社長に怒られちまうから、早めに来て終わらせようと思ったら...これだぜ」
デイビスは、太めの体を震わせながらタバコに、火を付け吸いだした。
「何時頃に、職場に着きましたか」煙草の煙が、顔に纏わりついてくる。
「7時20分頃かなぁ」
「会社に入らずに、空き地前に駐車を?」
「鍵を開ける前に、煙草を吸ってたんだ」
デイビスは、動揺を隠せないでいる。
「会社は、禁煙なんですか」
「禁煙ではねぇけど、吸う場所は決まってんだよ。ガソリンが残ってたら引火すんだろ、危ねぇ事はしねぇよ」
通りに面した廃車場には、鉄柵が張り巡らされていて安易に侵入出来ない造りになっている。奥には、プレスした車が積み重なっている。デイビスが、足元に煙草を捨て靴で消し始めた。俺は、ポケットからティッシュを出し
「デイビスさん。ここは犯罪現場なので、煙草は捨てないで下さい」デイビスの足元にある、吸い殻をティッシュで掴み取った。
後で、ロークに渡そう。
「すみません」デイビスは、ティッシュを受け取ろうとしだが
「僕が捨てて置きますので結構です。デイビスさん、出勤した時に、不審な車や人は居ましたか」
「無かったよ」無愛想ではあるが、正直に話しているように見受けられる。空き地の方から此方に向かってくる足音が聞こえた。多分マリクだろう。
「女性が、見えた時の状況を教えて貰えますか?」マリクは、横でメモを出し話に耳を傾け始めた。
「車を停めようと、前を見てたらビニールが見えたんだけどさ。後で捨てたら良いかってタバコ吸って、何気にビニールを見てたんだ。マネキンが見えて目を凝らしてたら
人間だ!っ解ったんだ。急いで、車を降りて袋ん所に行って、生きてんのか確かめんのに袋を開けて手を引っ張って女の子を出したんだ」デイビスは、再び状況を思いだしたのか、顔色が悪くなっている。
「袋は、どんな状態だったか覚えてますか」
「透明の袋が肌に、ピッタリ張り付いて中に空気が無かった。考えれば死んでるって、解ったんだが...生きてる様に、見えたんだ」
生きてる様に見えた、どんな状態で圧縮袋に入ってたんだ。マリクを見ると、俺と同じ思考をしている様に思えた。
「何時もと違っている物はありましたか」
「芝生だよ」デイビスは、空き地を指を指して答えた。俺達は、空き地を見た。
「なっ!空き地にも、この周辺にも芝生が無いだろ?」デイビスの、目の瞳孔が開いている。
「この周辺に、芝生が生えている場所は無いんですか」
「見た事ねぇよ。芝生の上に、横向きになって眠ってる様に見えたよ」
何故、砂と芝生を態々運んで死体を遺棄したんだ。プレス音が鳴り止んだ。
「昨夜は、何時に帰りましたか」
「20時頃、3人で会社を出たよ」デイビスは、煙草を吸いたいのか、胸ポケットに手をやっては下に手を下ろす動作を繰り返している。
「昨夜は突き当たりに、ビニールは有りましたか」
「無かったよ。あんなデカイ袋有ったら覚えてると思うよ」
「デイビスは、仕事場を見て仕事に戻りたそうな様子を見せた。不可思議な事は、言って無さそうだ。
「協力ありがとうございます。あと誰に質問されても、絶対に袋の事と芝生等を見た事は、誰にも言わないで下さい。言えば捜査妨害と見なします」
「い、言わねぇよ」デイビスは、少し怒った口調で言った。
「気を悪くさせましたが、捜査に支障出ると困るので、お伝えしました。何か思い出したら連絡してもらえますか」
「わかったよ」
ネイサンとマリクは、デイビスにそれぞれの名刺を渡した。
「それと、従業員の方は出勤されてますか?」
「あぁ、中の事務所に居てるよ」ネイサンは、柵の間から廃車工場の奥を見た。
「協力ありがとうございました。仕事に戻って下さい」
「住所と携帯番号は、教えてあるからな」
「ありがとうございます」デイビスは、廃車工場に入って行った。
「砂埃が、スゲェなぁ」
北西から、断続的に風が吹いている。
「従業員に話を聞きに行こうか。救命士と、話は着いたか」俺達は、廃車工場の入口に向かった。俺達には、ルールがある。発見者等の質問は俺がする事。マリクは、車の運転と女性全般の聞き役になって、話を聞き出す事だ。
廃車場の入り口を入って、真っ直ぐ歩くと左にコンクリートで出来た事務所が見えた。
「車が、こんなに平らになんのかァ..俺の車が、ペシャンコに成ったら絶対に泣く」
マリクは右側に置いてある、プレスされた車を見ながら言った。
ガソリンと鉄屑の匂いで噎せ返りそうになりながら、俺は事務所のドアをノックした。
「デイビス、今日は1台も残すなよ」
社長らしき、人物の怒鳴り声がドア越しに聞こえて来た。
ドアが開き、小太りの男性が出てきた。
「ロス市警のベイリーとウィルソンです」バッチを見せた。
「あぁ、事件の事か」中から、男性特有の汗の匂いがしてきた。
中を覗き込むと12畳位の広さで、壁はコンクリート打ち付けである。
「ここの、オーナーですか」
「そうだが」かなり苛立っている様子だ。
「中に入って少し、お話を聞かせて貰えますか」
「あぁ、入ってくれ」オナーは、自身のデスクに向かって歩き出した。俺達は、事務所の中に入った。
「お名前は」椅子に座ったオーナーに尋ねた。
「ジョン・レイモンドだ」カチカチと、連続して音が聞こえる。
「昨日西の突き当たりの道路に、何か有るのを見ましたか」
「いちいち、突き当たりは見ねぇよ。人も車も来ないんだからな」
「もう1人、社員がいると聞いたんですが」
レイモンドは、ボールペンをカチカチと押している。この音か...
「おーい。エリック、昨日西の突き当たりで何か見たか?」
右手の奥から、長身の男性が出てきた。190センチ以上ありそうだ。
「見てないっす」レイモンドは、ボールペンをカチカチと鳴らし続けている。マリクは、不快な顔をしている。
「見てねぇってよ。それよりも早くテープ剥がしてくれねぇか?仕事になんねぇだろぉ」
苛立ちが、一層激しくなっている。
「彼の、名前は」
「エリック・シモンズだ」
「レイモンドさん、一昨日か昨日、不審な車を見ませんでしたか」
ジョンは、思い出すかのように答えた。
「見てねぇな。業者や廃車を持って来る車だけだ」不快な、ペンを鳴らす音が耳に付く...
「廃車場に不審な車が、置かれていたとかは無いですか」
「ねぇな。入り口の門と柵を見ろよ。鉄を切れねぇくらい太いだろ。開けれるのは鍵を持ってる俺達だけだよ」シモンズが、コーヒーを入れているのか香りが仄かにしてきた。
「そうですか。解りました。それと、遺体発見の状況を、他人に話さない貰えますか」
「俺とエリックは、見てねぇよ」
「なるべく、早く終わるようにします。何か思い出したら連絡を下さい」
俺とマリクは、ジョンに名刺を渡した。
「名刺を、頂いても良いですか」
「ちょっと待ってくれ」
ジョンは、机の引き出しから名刺を出し俺達に手渡した。北と西の窓から日光が差し込んで蛍光灯の灯りがボンヤリとして見えた。
「これだよ。良いか」
「はい。ありがとうございました。では、失礼します」俺達はドアに向かい外に出た。
マリクが小声で「臭かったぁ。俺達の課もクセぇけど...ここのは、別格だなぁ」と、鼻を擦っている。
「死臭は、平気なのに汗の匂いは駄目なのか」
「それわぁ..別物だろぉ」マリクは、笑いだした。
俺達は廃棄工場の出口に向かった。
「ネイサン犯人は、この辺りの地理に詳しくねぇか」プレスされた車の間を歩き続ける。
「この辺りで、パトロールをした事は無いが確か信号が少なかった筈なんだ」
「俺、運転してたけど気付かなかったぁ」
ネイサンは、マリクの運転を改めて疑問視したが....「運転してると、目の情報で車を走らせるから、脳に記憶が残るのは少ないからだよ」
毎日、通っていると記憶に残るんだが。
廃車工場を出ると、マリクは周りを見渡しだした。
「西側は、行き止まりだろ?大通りしか信号が無いって事か?」俺達は、車の方に向かって歩き、再び付近の確認をした。
「大通りでも、三叉路が多いから信号が無かったと思う」
「交通カメラは、期待出来ねぇって事かぁ」
「多分な」話している間に、車に着いた。
俺達は、車に乗り込み
「バイオレット通りを通って帰るかぁ」
「そうだな、店舗に監視カメラがあるか見て帰るから、ゆっくり車を走らせてくれないか」俺はハンカチで、首の汗を拭いた。
「了解」マリクは、車を発進させた。
「でもさぁ、これは完全に殺人だよな。袋の中に自分で入って空気抜けるのか?」
「自殺では無い事は確かだし、誰かが袋に入れたのも確かだ」ネイサンは、左右を確かめるように見ている。マテオの交差点にも、信号は無いな。
「何で袋に入れたんだ!自然死だったら、普通そのまんま置いとくだろ?何で裸だったんだ?娼婦なのか?それともジャンキー?」マリクは、矢継ぎ早に疑問をぶつけてくる。
「殺人か、自然死なのか、事故死なのか、死体遺棄だって事だけは確かだ。そして砂と芝生...ラボに行って、イザベラに聞こう。鑑識も何か見つけているかも...」
近辺に、監視カメラらしき物は見当たらない。
「ボスに、連絡しておかないと」ネイサンは、携帯を出して電話を掛けた。
「連絡しねぇと、うるせぇからなぁ」
「ボス、ネイサンです。部長から、連絡があってバイオレットの現場を見終わりました」
「あぁ、部長から聞いてる。部長に報告しろ、内線で回す。
マリクは、ゆっくり車を走らせ信号のカメラのチェックをしている。
「ちょっと、待って下さい」俺は携帯のマイクに手を当てて
「マリク、また静かにしてくれるか」
俺は、スピーカーにした。
「何だ」マリクは、会話を聞きながら運転している。
「今捜査してる殺人の件ですが、第2容疑者が犯人の確率が高くなだたので署に連れてきて話を聞くだけなんです」
「聞くだけなら、1課に行かせる。何故、第2容疑者なんだ」
「犯行時刻に、被疑者宅の近くの、カメラに映ってました。アリバイが崩れたからです」
「解った。部長に繋ぐぞ」
「解りました」携帯からは、保留音が聞こえてくる。
「どぅしたんだぁ?」車窓からは、ロスの街がゆっくりと流れて見える。
「マリク静かに」
「はい、バウエル」
マリクは、解った様に頷いた。
「ベイリーです」
「何か、解ったのか」部長の声は、低音で落ち着いている様に聞こえた。
「まだ、何とも言えませんが..現場を見て思ったんですが、殺人の可能性が高いかと。マウアー検視官は、今は、殺人と断定出来ないと言ってます。今から、署に戻ってラボに行こうと思ってます」
「マウアーの所に行く前に、部屋に来てくれ」
「はい、解りました」ツーツーツー通話切れ、ネイサンは思った。部長は通話のブチ切りが好きなのか....
「部屋に、来いってかぁ?俺達、クビかぁ?」
「それは、ないだろう」
「2課に移されて、部長から直々だぜぇ。何で2課を作ったんだ?」
「俺も、聞いてないから解らない」マリクは、横を向いて運転し始めた。
「頼むから前を見て、運転してくれ」
マリクは、慌てて前を向いた。
「この事件を、俺達2人で解決しろってかぁ?」
「そんな感じだな」俺は、周りの信号とカメラを確認した。
「1課に、人員いっぱい居るだろ?」
マリクは、落ち着かない様子で運転している。
「1課が、忙しいから俺達になのかもな」
「俺達だって、事件抱えてるじゃないかぁって今、解決したのかぁ。忙しい1課に、容疑者を逮捕させに行ったのか?矛盾してねぇか」見覚えのある景色に変わってきた。
「部長の話を、聞いてからじゃないと解らない」
「はぁ、部長も何考えてるか解んねぇし。事件も不可解だし...何で圧縮袋に入れたんだァ。芝生は、何なんだぁぁぁ」マリクは叫んでいる。暫くしたら落ち着くだろう。
「ウィルソン通りから右折して7号線を、左折したが信号が無かったな」
「運転してて又、気付かなかった...俺はバカなのかぁ」マリクは溜め息を付いている。
バカでは無いと言ってやりたいが、放っておこう。
「現場に入った、2ブロックは解るが。どこから来て、遺棄して帰ったのか調べる事は出来るのか」ネイサンは、思考を廻らせている。
「部長の話し聞いたら、交通カメラの場所と監視カメラの場所を探そうぜ」
マリクの、元気が無くなっていく...
「現場からの帰りの、道沿いの監視カメラを探したが見当たらなかった」
「その道から出入りした、可能性はあるんだよなぁ」
「マテオ通りを、南に下っても高架までは信号は無かったと思う」
「今の所、解るのはバイオレットの2ブロックの道だけかぁ」
「そうだな、もう少しで署に着くな。それと..お前はバカじゃないぞ」マリクは、また子犬が捨てられた様な目で俺をジッと見つめてきた。
「だからぁ、前見て運転しろよ」
「ネイサン、やっぱり俺を愛してるんだなぁ笑俺も愛してるぜ」
「やめてくれ」マリクの機嫌は、完全に治ったな。
「着いたぜ。降りて、部長室行くかぁ...何か気が滅入るぜ」
「あぁ」いつも以上に、2人とも疲労感が増しているのが解った。
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