けいおん部っ!

瑠奈

プロローグ

 ――歌えない。


 わたしはマイクを持ったまま凍ったみたいに固まった。


 目の前にいるたくさんのお客さんが、不思議そうな顔でわたしを見ている。今まで大きく鳴っていたはずの音楽が、すごく小さく聞こえてくる。


 どうして、なんで、どうしよう。


 その言葉だけがわたしの頭の中でぐるぐるしていた。


 昨日まで歌えていた曲なのに。なんで、歌えないの。


 次の歌詞が、メロディーが、出てこない。思い出せない。


 わたしは、思わずステージを飛び降りて走り出していた。


「――!」


 誰かがわたしの名前を呼んでいるような気がしたけど、止まれなかった。


 なんで走っているのか自分でもわからなくて、それでも走るのをやめられなくて。


 ……わたしって、今まで何やってたんだろう。

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