Reave for a life 【映画と共に進んでいく僕らの夏】

紅月シオン

第1章 始まりを告げるStart dash

夏休み、それは人によって持つ意味が変わるだろう。

ある人は旅行をしたり夏祭りに行ったりとこの一瞬を全力で満喫する。

またある人はこの夏こそ分水嶺と言い部活や勉強に精を出す。

どちらも夏の過ごし方だしそこに優劣はないだろう。

そういう僕はと言えば、ホームルームが終わって彼らのところへ足早に向かっているところだった。

向こうもちょうど終わったのか教室から少しずつ生徒が出てきている。

その人込みをかき分けてクラスに入れば見知った隅の席で二人の男女が談笑していた。

そこへ駆け寄って開口一番、彼らに頼むのだった。


「宮古、伊吹!部活が廃部になりそうなんだ!力を貸してほしい!!」


先ほどの夏の過ごし方だが、どうやら僕が選らばざるを得なかったのは後者だった。


「・・・ちょっと待って蓮、いったん落ち着いて」


あまりにも急な出来事だったからか彼女、東雲宮古しののめみやこは長い黒髪をいじり怪訝そうな視線を寄せる。


「蓮の部活ってエイケンだよね?そんなに潰れそうな雰囲気には見えないんだけど」


正しい名前は映像研究会で確かについこの前まではそういう素振りも無かった。

だけど先ほど部長から部員宛のメッセージが届いたのだがその内容が


「夏休み中に1人1つ作品作って☆でないと廃部になっちゃう☆☆」


こんなあまりにもふざけたメッセージ1つで廃部宣告が下されたのだった。

ちなみに現在進行形で部員から抗議のメッセージが殺到しているが1人分既読が足りないのを見るに部長は確認すらしてないのだろう。

自分の所属している部活だからこう言うのもなんだけどあの人はいっぺん痛い目見た方がいいと思う。


「うわぁ別の部活でよかった。蓮もこっち来なよ。楽しいよ写真部」

「うん、かつてないほどそっち行きたいけどそうも行かないんだよ」


こっちとしてもエイケンがつぶれてしまうのは困る。

あんな場所でも僕の夢を叶えるためには大事な場所だ。


「まぁまぁ、それで?蓮は俺たちに何を頼みたいんだ?」


さっきからスマホのメッセージで笑いを堪えていた男、伊吹翔いぶきかけるはようやく落ち着いたのか話に入ってきた。


「うん、前から考えていたんだけど丁度夏休みだしさ。映画を作りたいんだ」


それを聞いて二人の目が丸くなる。


「なるほど映画ねぇ、つまりこの俺の腕が必要というわけだな!」


伊吹の口元が自信ありげに歪む。

言っちゃなんだけどこういう時の彼は逆立った髪もあって非常に迫力がある。

平安時代に投げ込んで鬼が出たと言おうものなら間違いなく信じられるだろうし頼光四天王あたりに追い回されるかもしれない。

それはそれで面白いかもしれないが少なくともこの姿を見て彼が文芸部所属というのは誰も想像がつかないだろう。

実際初めて聞いた時には絶対嘘だと思ったほどだ。


「うん、ある程度構想は練ってたから伊吹にはそれをもとに書いてほしいんだ」

「がってんよ、ある程度アドリブ効かせても構わねぇか?」

「要相談で、それと東雲には役者をお願いしたいんだ」

「ちょっと待ってよ。一番大事な部分じゃないの?それこそ漣がやりなよ」

「……いや、東雲の方が華があるしさ。ここはお願いしたいんだ」


喉元まで出かかった言葉を堪えてそれをお願いする。

東雲の長い黒髪やスラっとした体形は非常に映える、友人ということを抜きにしてもモデルやアイドルとしてやっていけるだろう。

東雲も暫くは口篭っていたけどやがて観念したのかため息と共に目を覆い始めた。


「本当に私でいいの?」

「うん、それに東雲用に合わせて書いてたから。受けてくれたらうれしい」

「そういうの反則だよ、まったく抜け目ないんだから」


東雲は何かを悩んだり考えたりしていたけどやがてため息をついた。


「分かったよ、役者はやるけどなるべく夕方前には返してよね。おばさんの面倒見なきゃいけないからさ」

「大丈夫、全体的に朝や昼のシーンが多いし夕方前には終われるよ」

「うん、ならそれでお願いね」


こうして話が進んでいくと少しずつ、僕がやりたいことが明確に形になってくる。

これから40日間で初めての映画作りだ、なんだかとってもワクワクしてくる。


「それじゃ、映画作成頑張ろう!」

「おー!」


3人で右手を重ねて掛け声を出す、今日から忙しない日々が始まるのだった。

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