懐胎する犀 〜異世界転生モノの小説作家が異世界転生したので、自分の思い描いた異世界で無双する!?〜

七つ味

#1 エピローグのエピローグ

あらすじ


 西と東には原初の魔女がいて、この世に生まれ落ちた全ての命は、余す所なく彼女たちの所有物であった。その証として、みな一様に、卵の殻の内側にあるとき、母胎の羊水で浮かんでいるとき、すでにその体のどこかに烙印が刻まれている。西の魔女の青白い海鳥のような印、東の魔女の赤黒い山犬のような印。それはそのものの運命を決める印である。

 この世界では、何人なんぴともその定められた生命の軌跡を辿らざるを得ない。

 とある街の娼館で働く乙女のメザロは不幸なことに客の子を孕んだ。若い彼女は次第に胎の子に愛着が湧きはじめ、この子を産むことにする。だがその子にはあるはずの烙印がなく...。

 

◇◇◇


 私は幻想的な装飾のその13つの小説たちをローデスクの上に並べ、考える素振りを見せていた。馬鹿馬鹿しい演技である。すでに執筆を終えているのだからこれ以上悩む必要などない。


「オーケーです。ではデータを確認させていただいて。はい、ではありがとうございました」


 作業部屋での撮影が終わると、気を回した出版社の担当がさっさと彼らを引き上げさせた。


「では有馬先生、私もこの辺りで失礼させてもらいます。後のことは追って連絡させてもらいます」


 がらんとした部屋には私と、そしてこの一冊、出版社の頼みを聞いて半ばいやいや執筆した何年かぶりの続編となる、その新刊だけが残った。

 表紙には二人の赤子が太極図のように並んで寝転がっている様が印刷で描かれている。

  

 オフィスチェアに掛けた上着のポケットで携帯が鳴っているのに気がついた。


 その着信はきっと母であろう。何度もかけ直してくるあたり、執念深い。

 

 息苦しさを感じ、異音を発する暖房を切り、オフィスの中央にある南向きの窓を開けた。


 甲州街道の薄緑の歩道橋の上で女性が子供を毛布にくるんで抱いているのが見えた。


 2月の空気が鼻腔さして、夕方の日の暮れる前の寂しい風がオフィスへと吹き込んでくる。


 私はいつもの倍の量の睡眠薬を飲み込んで、ソファーに横になった。

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