黒鱗病の特別

汐凪吟

第1話

燦々と辺りを照らす太陽、若草色の大地、眠りから醒める動物たち……

目の前にはいきいきと拍動する景色が広がっているはずだった。わたしが黒鱗病にかかっていなければ霧夜といっしょに見れたのにな。でも、寝てる間にすっかりよるになっちゃった。

 

「お母さん、わたし…死神様のごはんになっちゃうの?」

  体がボロボロ落ちていくのがわかる。砂が足りない。いたい。くるしい。あつい。これが黒鱗病のいたみなの?体の中に火があるみたい。

「大丈夫、貴方のことはお母さんが守るんだから。だいじょぶよ。大丈夫だから…。ほら!もうこんなに夜が深まってる。そろそろ寝なさい。明日に響くわよ」

 お母さんが真っ暗な外を指差す。

「うぅ、でもまだ霧夜にあってないよ。あいたい!」

 最後だったらやだもん!!

「きっと明日には会えるわ」

「やだ、いまあいたい!」

 明日がこないかくりつのほうが高いもん。

 するとノックの音がなりひびいた。ひょっとしてきり…

「失礼するよ、母さん。村長が呼んでるよ」

「あら、わかったわ。晴華、一人で大丈夫よね。おやすみなさい。霧夜にはまた会えるわ」

 お母さんは足ばやに私の隣からお父さんの後ろへと消えていった。行かないで!

「お、父さん」

 一緒にいてくれる?

「ごめんな、晴華。父さんは晴樹の様子をみてくるから。晴華はお姉ちゃんだから我慢できるな?おやすみ。いい子でな」

 お父さんはそう言ってすぐにドアを閉めた。やっぱりいてくれなかった。お母さんもお父さんもきっとこれが気持ち悪いんだ。怖いんだ。なら、お母さんたちよりも私を気味悪がらない霧夜といっしょにいたい。

「霧夜、どこ?あいたいよ」

 あかりもないからまっくらで怖いよ。さみしいよ、霧夜……。

「晴華、まだ起きてるか?」

 ドアの外からこえが聞こえた。

 「うん!おきてるよ、霧夜」

「わかった、入るぞ。体調は……よくなさそうだな」

 へやに入ってきた霧夜は顔をしかめた。きっと目に見えてわかるほど黒鱗病が悪くなっていたのだろう。

「つらいか?」

「ちょっとつらいけど霧夜が来てくれたからもうだいじょうぶ。この時間に来るとは思わなかったけどね」

「ほんとうは?俺に隠し事が通用すると思うなよ。お前のことならなんでも知ってるんだから、強がらなくていい。どうせおばさんたちは晴樹で手一杯なんだろう?」

 そういった霧夜のかおは真剣そのものでほんとうの気持ちがかんたんにひきだされた。

『つらかったよ、こわかったよ。ずっといたいんだもん。みんなすぐいなくなっちゃうし、霧夜もいない……。さみしいよ。でもこれなら霧夜とおそろいだね』

「おそろいか……。でもそれだとお前は一週間以内に死ぬんだぞ。治したいとは思わないのか?」

「でもこの病気はしの病っていわれてるくらいなんだから治す方法なんてないじゃん!まだ生きたいにきまってるよ!」

「じゃあこれから俺がやることは二人だけの秘密だ。あと、俺に何をやられてもおどろくな」

「うん。霧夜にやられて驚くことなんてないよ」

「覚悟が決まったならこれ飲んで」

 霧夜からコップを手渡される。中にはとうめいな水がはいってる。

「にがくない?」

「あぁ、大丈夫だ。だから安心しろ」

 霧夜から渡されたコップに口を付ける。するとトロっとした水が口の中にゆっくりながれこんでくる。にがくはないけどおいしくはなかった。

「……あんまりおいしくないね」

「そりゃそうだ、まず普通の人が飲むものじゃないからな」

「これでなおるの?」

 これをのんだだけですぐいたみがなくなった。

「まだいたみをけしただけだ。次で最後だから俺が何しても我慢してくれ」

「??うん、わかった」

 霧夜の顔がゆっくりと近づいてくる。次のしゅんかんには口にあたたかいものがふれていた。そしてすぐに口を開けられてさっきのんだ水とおんなじあじがした。そう思うとあたたかいものはいっしゅんではなれていった。

「これでもう大丈夫だ。黒鱗病も徐々に治ってくる」  

 「ほんと?」

 「あぁ、本当だ。だから安心してくれ。泣かないでくれ。俺はお前に泣かれたらどうしたらいいのかわからない」

気がつくとめからなみだが出ていた。『私、しななくてすんだんだね。まだ霧夜といっしょにいられるんだね』……うれしい。まだBABEL《バベル》に、神様にみはなされてなかった。

「ありがとう、霧夜」

「さっきのことは秘密だからな。この方法は一人にしか使えないんだ」

 霧夜の私よりすこしあたたかい指でなみだをぬぐわれる。そうするとだんだん安心してきて眠気がおそってきた。

「ねぇ、霧夜?まだこわいからいっしょに……」

「それで晴華が安心するなら」

霧夜が小さくわらいながら私のふとんにもぐりこんだ。そして、そのあたたかさをかんじながらめがおもくなっていった。

「おやすみぃ、きりや」

「あぁ、いい夢見ろよ。おやすみ、晴華」

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