平凡おじさん、ブログでランク表片手に遊んでいたら銀河最強~影から催眠、魔力行使、ドラゴンを使役で銀河帝国建設~

九頭見灯火

銀河ランクブック・ガイド

第1話

 アラサーになって改めて銀河皇帝になりたくなった。


 どうも初めまして。カヅキ・ミコト、年齢は34歳です。


 銀河皇帝というと銀河を統治する者を指すこともあるみたいだけれど、僕が言っているのは昔ながらの銀河を征服する古き良き時代の銀河皇帝のことである。

 銀河じゅうをひっくり返し、銀河を混迷の時代に引き戻すような存在になりたい。

 とりあえず、何でもいいからこの安らかすぎる世の中をひっくり返したい。

 そしてブログという形で記録に残しておきたい。


 そんなふうに考えてキーボードを叩いている。


 人の上に立つのが初めから得意であったわけではない。

 子どもの頃からリーダーよりは添え物の存在だったから。五人揃っても黄色か緑色のポジションだ。リーダーの赤色やクールな副官、青色にさえなれない。女の子にも泣かされる。とにかくダメだった。


 決してカリスマ性はない!

 こうしてキーボードを叩いているあいだにも同期がつぎつぎと役職を得て、出世している。銀河大学を出たエリートがそのまま出世コースに乗ったのだ。

 僕はアラサーになって体力もあまりなく疲労の回復も遅くなりつつある。三日前の疲れがいまに来る。


 だが、それでも銀河皇帝になりたくなった!

 これは憧れなのだ。

 銀河皇帝になるのは難しい。

 でも好きだ。

 どれだけ才能に恵まれていても、銀河は広いので命の危険は常に付きまとう。ただそれを切り抜けて銀河皇帝になったとしたら、権力や力を得たとか、銀河皇帝そのものになれたのだという深い満足感が得られるはずだ。


 僕みたいなおじさんでも銀河皇帝になれるのか。

 統率力やリーダーシップが無くても強い存在になれるのか。

 自分が実験台になって調べてみようと思った。

 場所がどこであってもひと花咲かせることができると思っている。それは銀河の戦場を股に掛けた無双なのか、銀河の辺境からの成り上がりなのか。場所は後から考えるけれど、どこかで銀河皇帝への切符を掴んで見せる。でも僕は至ってふつうの中肉中背のおじさんだ。


 それはそうと銀河皇帝という職業(?)は人気の職なのではないだろうか。

 なれると思ってなれるものではないし、数年前まで五稜星ペンタグラムと呼ばれる有力な五人の銀河皇帝候補がいた。一星ミエヴェル、二星ソゥヤー、三星リュウ、四星チャン、五星ハインリッヒの五人だ。

 ただその五人も失脚や代替わりで入れ替えがあったとかなかったとか。さいきんの銀河情勢で権力を振るうというのも難しい話なのかもしれない。


 僕はかつていた最強の銀河皇帝イクシェアが好きだった。

 皇帝イクシェアは史上最も大きい版図を手に入れた銀河皇帝だ。

 彼のいた時代は千五百年も前だけれど。とにかく好きだ。


 銀河皇帝チョコを集めたひとも多いんじゃないだろうか。銀河皇帝をコンプリートしてキラキラのシールを集めたひともいるだろう。僕にとって銀河皇帝はそういう存在だ。ヒーローとは違う。ヒーローは世界を救うが銀河皇帝は世界を壊す。

 ただ、あれはコンプリートするためのものというか、集めるだけで満足するようなものだろう。じっさいに銀河皇帝チョコから入って銀河皇帝になろうという人は見たことがない。いっしょに遊んだ銀河皇帝に憧れた子たちはどこかへ行って僕と同じふつうの大人になってしまっただろう。


 ではいま現役の銀河皇帝に相当する存在は誰かというと銀河連邦審議官オルフェイブスや銀河小部族連合族長のアルナントだろう。


 僕が考えるイクシェアみたいに領土を奪い、略奪りゃくだつをし、徹底的に踏みにじるタイプとは対称的で行政官のようなタイプだろう。(それを考えるといまの時代にそもそもイクシェアみたいな存在のニーズがあるかというとそういうわけではないのかもしれない。)


 でもさ、考えると世の中にはこの世界がひっくり返ってほしいと願っている勢力がけっこういるんじゃないかと思う。

 僕が子どものときには銀河テロリストが本気で銀河をひっくり返そうとしていた。懐古主義ではなくて僕はこの平穏な世界を壊したいのだ。


 いまの世界は静かすぎるし、管理され過ぎている。銀河に夢がない!

 したがってイクシェアみたいな銀河皇帝が好きな人もけっこういるんじゃないかと思っている。


 さいきんのネット記事でもさまざまな事件が起こっているらしい。暗殺やクーデター、その一点一点を大きなうねりに転換できないかというのが僕の見立てだ。

 そういう事件を見ていると僕みたいなタイプがいてもおかしくないと思っている。銀河皇帝になりたい、そんな人々がいるはず、いやいると考えることにする。


 繰り返しになるけれど、僕にはリーダーシップがあるわけではない。

 したがって次々と武勲ぶくんをあげて、いろいろな戦場の紹介をしていくことはしない。

 銀河皇帝を目指してその過程をゆ~っくり自己観察して下手くそ目線で書いていくつもりだ。

 それは必ず銀河皇帝になれるとか高尚なものではない。言うなれば日記だ。

 

 さてまずはどこから始めるか考えないと。


 ***


 銀河皇帝になると決めたはいいが何をしよう……。あれやこれやビジネス書を漁ってみても載っているわけはなかった。教養の砦たる本に載っているわけがない。そうだ、ネットだ。ネットで検索しよう。

 

 いまどきネットなら何でも調べられる。「銀河皇帝になるには」とネット検索するとこの銀河にまつわる昼食のレシピからジョーク記事、何から何でも集まる。

 この銀河でなにをするかの難易度を一覧にしているサイトを見つけた。

 銀河で出来ること、仕事からサービスを受けること、学ぶこと、商売をすること、犯罪行為まで何でも載っている。こういう変なデータ集は銀河大学の就活センターではぜったいに手に入らない。銀河じゅうのネットワークにはこういう時々意味がよくわからない情報が引っかかる。ネットは漁るものだ。

 

 サイトでは種別に難易度が50段階に格付けされている。格付けの数字は数が増えるほど難しいものになる。50段階の格付けが10段階毎に5つのカテゴリに分かれる。カテゴリはこうなってる。


 40~50 最高難易度   人外向け。

 30~40 屈指の難易度  銀河でなれる者が指の数しかいない。

 20~30 中~上級レベル 比較的楽な部類の銀河の長になれる。

 10~20 中難易度  初心者から半年以内でなれるもの。

 1~10 低難易度  初心者でもできる。平均して数カ月でなれる。


 銀河で学生になるとかは低難易度だと思われるし、じっさいにそうらしい。また逆に道から外れてアウトローな生き方をするにも低難易度だ。この銀河で浮浪者になるのは容易い。だから真っ当な道を進むのも同じだけ簡単だ。


 おそらく僕の見立てでは銀河皇帝は格付けが30~40程度の屈指の難易度だと思うんだよな。それより上を考えないのは僕のスペックはふつうの人間だからだ。最高難易度に銀河皇帝がいるとするなら、それは考えないことにしたい。


 僕の最高学歴の銀河大学卒業相当はどのくらいの格付けなのか。昔の知識を使って具体的に当てはめてみよう。


 僕の芸術工学(学士)は後に続く修士・博士課程の手前だったはず。修士・博士課程はなかなかなれるものではないはずだ。

 僕は学士認定はたしかされなかったのだ。そんな程度だ。

 芸術工学修士・博士課程は相当な難易度だろう。ということで確認してみると……。


 格付けは30だった。

 あれ50段階のうちで30って思ったより低くないか。

 ここから上の格付けは一気に人数が絞られるから、修士・博士課程に絞れば高いと思ったんだけど。

 このレベルはお呼びでないということか。最上級レベルはもとよりこれで中~上級レベルとは難しい。


 そういえば昔、僕がしていたバイトはどれくらいの格付けになるんだろう。遥か昔、20代も手前の頃にしたバイトだ。バイトなんてそれこそ両手の指の数ほどしかしたことはないんだけれど。


 銀河トラックの配達員。これはすぐに仕事が覚えられた。

 これで格付け3……。

 そういえば銀河トラックの船外活動EVAを伴うエネルギーユニットの交換作業も実地で教えてもらったな。先輩が優しかったわけではないが、見よう見まねで覚えた。

 よく見たら格付け8に宇宙知識関連講師もある。暗記は得意だったから数カ月から一年くらいやっていたこともある。宇宙の基礎的なことを受験生に教えるのだ。手取りの給料もまぁよかった記憶があるぞ……。

 

 いずれにしても低難易度に入るものばかりだ。

 僕がじっさいに挑戦できそうなのはこんなもんなのかな?

 さっき挙げたものも習熟には数カ月かかるってあったし。


 そういえばもう一個だけ習熟できたことがあった。

 操船免許大型Ⅰ類だ。これは上手くやれた記憶があるぞ。惑星上で言うところの乗用車の運転に相当する技術だけれど、宇宙ではその移動距離は指数関数的に跳ね上がる。操船技術が無ければ立ち行かないけれど、だいたい大学生が取るのは小型から中型のゼロ類からⅡ類までだ。大型免許を取るような者はコルベット級の操舵手くらいのもので、あとは海賊行為に及ぶようなアウトローなやつらだ。


 操船免許大型Ⅰ類、こいつはどのくらいだ?

 格付け13。カテゴリは中難易度だ。

 あの頃はとにかく早く移動したくて買えるわけでもない大型Ⅰ類の操船免許を取っていたな~。バカだったな~。教習はめっちゃ楽しかったし、免許を取ったときは嬉しかった。

 あの感動は忘れないな~。


 ここはちょっと背伸びしてカテゴリが中難易度クラスに挑戦してみようかな。半年以内で手が届くらしいけど、おじさんだからそこまで順風満帆には行かないだろう。でも決めたからにはがんばろう。やってみよう、オー!


 中難易度で銀河でできること、ほかには何があるんだろう?


 ***


 むかしは宇宙に旅立つと思ったら、ナビAIを買ってきてスペースシップのモニターに繋ぐ必要があった。宇宙のマップや言語事典、科学知識、食料の知識などを搭載したナビAIはたいへん重宝したと聞く。


 ナビAIとはアレです。「ゴ主人様、宇宙ヘハ私ガ案内イタシマス」というあれです。宇宙へ旅立つには必須の機械。ただこれが基本的にどこにも売っていない。つまり廃棄されたスペースシップに繋がっているのをそのまま持ってくるしかなかったのだ。

 中古のナビAIを購入できる店を知っている人ならいいけれど、銀河広しと言えどナビAIがどこで作られてどこで販売されているのかをみんな良く知らない。中古で買った人の話を聞けばなかなかな値段がして、手軽に購入できるものではなかった。


 AI自体は家庭用で販売されているものは、僕が子どものときは性能が貧弱だった。五種類の料理レシピしか覚えられなかったし、家族も三人までしか登録できなかった。当時はタロンとかヘルメスとか家庭用AIがあって親たちが使っていたけれどそのような家庭用AIでスペースシップを動かすことはできなかった。

 

 もちろん家庭用AIでしかできないロボット掃除機の操作や家事ロボットのマルチオペレーションなどそういうメリットはあったんだけれど、家庭用AIでもスペースシップが動かせたらいいなとはよく思っていた。


 スペースシップを動かすナビAIとおなじOSで動いている家庭用AIは多数存在する。だからナビAIの声が家庭用AIの声とまったく同じだったり、操作パネルのデザインが同じだったり、楽しかった。この家庭用AIの延長線上にスペースシップを動かすナビAIがあるんだから。

 ただ家庭用AIとナビAIはイコールじゃなかった。家庭用AIがナビAIの多機能性についていけてないのは歴然で、友達同士の会話でナビAIを家庭用AIとおなじノリで話してくるのは少し嫌だった。


 さいきんはデンキ街へ行くとナビAI搭載型アンドロイドが販売されていて機械の体を持った存在になっていた。驚くべき進歩だ。ナビAIもだんだん性能が上がってきて、家庭用AIの性能も上がってきたので、ほぼおなじことができるナビAIが販売されている。家庭用AIが下位互換しているのだ。


 男性型をアンドロイド、女性型をガイノイドという。男性型は僕みたいな中肉中背タイプから屈強な戦士のようなタイプが売られていて、女性型もかわいらしいタイプからすらっと背の高いタイプが売られている。姿かたちはオーダーメイドで基本形からカスタマイズできる。どの体にも最新式のナビAIが搭載されているから、宇宙への旅をするための良き相棒として購入するひとも多い。


 僕も宇宙を旅するにはナビAIが必要だと思ってデンキ街に来ていた。


 男性型は端正な顔つきの白い肌のアンドロイドで、A-23型とA-24型があって23型は三年後にアップデートが終了する代わりに30パーセントオフの値段で売っていた。いっぽう女性型は多彩だ。男性型より使用される場面が多彩だからだろう。コンビニ店員のような印象を残さない顔つきのG-09型や水仕事を行えるG-37型やほかにも十種から二十種のバリエーションが存在した。


 僕は視線を漂わせてなんとなく相棒は男性型じゃない気がした。

 相棒は女性型にしよう。女性型ならメンテナンスの苦労も少ないと聞くし……。


 選んだのは小柄な少女タイプのガイノイドだ。かわいらしい外見と最先端のナビAIが搭載されているので知能面はじゅうぶんだろう。値段はだいぶしたが、これも銀河皇帝になるためだし……。


 ガイノイドを横倒しのまま、こめかみのところの電源を入れる。ブーンという起動音がしてガイノイドが目覚めた。無機質な声とともに彼女は話し出した。


「初メマシテ、ゴ主人様」

「やぁ」

「私ノ名前ヲ決メテクダサイ……」

「じゃあ、セシリアで!」

「〈セシリア〉デスネ。今カラ個体情報ヲ統合シテ相応シイキャラクターイメージヲ構成シマス」


 セシリアへの書き込みが完了する。


「ゴ主人様ノ呼ビ名ハ、イカガシマスデショウカ?」

「ミコトで」

「ミコト様デスネ?」

「いいや、ただのミコトでいいよ」

「カシコマリマシタ……」


 別途、姿のオーダーをまとめて自宅へ届く予定だ。


 三度日が沈んでから朝が来るとセシリアが自宅に届いた。金髪のゆるいウェーブのかかったショートヘアに、青緑ターコイズの瞳。彼女はぱっと見、ビスク・ドールのような気品を漂わせているが、自分よりに二十センチくらい低い背丈に可愛さを感じてしまう。ビスク・ドールのような造形の美しさというよりも丸みを帯びた目鼻立ちと愛嬌を感じる顔つきがアンバランスな印象を与えて、そこが良かった。


 時代を超えて僕の意識は変わった。家庭用も宇宙用も変わらなくなったナビAI。それも身体を持った存在にアップデートされているのだ。


 ……ということで最新式のナビAIをインストールします。

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