バイオドール

プロローグ

バイオドール‥‥起動！

　異（い）世界（せかい）の都市（とし）ドワルトでは、悪（あく）の総帥（そうすい）ドワーリンが、野望（やぼう）を企（くわだ）てていました。

　本来（ほんらい）ならば、ドワーフは、正義（せいぎ）感（かん）の強（つよ）い種族（しゅぞく）です。

　ところが、悪の総帥は、ドワーフの男（おとこ）でありながら、聖女（せいじょ）を徹底（てってい）凌辱（りょうじょく）して、背徳（はいとく）の勇者（ゆうしゃ）に覚醒（かくせい）しようと、企（たくら）んでいます。

　なぜなら、聖女は、処女（しょじょ）を奉（ささ）げるか‥‥奪（うば）われると、その相手（あいて）を勇者に覚醒させるからです。

　そこで、悪の総帥は、別（べつ）の世界から、聖女を強制（きょうせい）召喚（しょうかん）しようとしていました。

　聖暦（せいれき）２０２２年（ねん）５月（がつ）１２日（にち）（木（もく）、先負（せんぶ））東京（とうきょう）都（と）では――

　朝（あさ）、１８才（さい）の都立（とりつ）高校（こうこう）３年生（ねんせい）『本生（もとじょう）優人（ゆうと）』が、実姉（じっし）で帝都（ていと）大学（だいがく）１年生の『本生奈央（なお）』（７月で１９才）と、家（いえ）から駅（えき）までの道（みち）を歩（ある）いています。

　優人が、奈央に話（はな）し掛（か）けます。

「姉（ねえ）さん、大学って、楽（たの）しいのか？」

「楽しいよりも、充実（じゅうじつ）する場所（ばしょ）だな」

「そっか」

　優人は、姉（あね）の答（こた）えに、素（そ）っ気（け）の無（な）い返事（へんじ）をしました。

　ちなみに、優人と奈央は、無（む）自覚（じかく）系（けい）の美男（びなん）美女（びじょ）『姉弟（きょうだい）』です。

　ところが、突然（とつぜん）‥‥奈央の身体（からだ）が、輝（かがや）き始（はじ）めます。しかも、彼女（かのじょ）の足元（あしもと）では、光（ひかり）の紋様（もんよう）『魔法（まほう）円（えん）』が展開（てんかい）されています。

　奈央が驚（おどろ）いて、声（こえ）を出（だ）します。

「なっ？」

「えっ？」

　優人も、気付（きづ）いて、声を出した時（とき）には‥‥奈央の姿（すがた）が、消（き）え去（さ）っていました。

　その時、本生奈央は、異世界からの魔法で、空間（くうかん）転移（てんい）したのです。しかし、転移魔法は、失敗（しっぱい）に終（お）わりました。彼女の肉体（にくたい）は、時空（じくう）の狭間（はざま）で、消滅（しょうめつ）してしまいます。

　けれども、惑星（わくせい）クレアージュの衛星（えいせい）軌道（きどう）上（じょう）で、奈央は転生（てんせい）‥‥生（う）まれ変（か）わって、新（あら）たなる肉体を得（え）ました。

　やがて、オナテック社（しゃ）の工業（こうぎょう）用（よう）『無人（むじん）衛星』で、奈央の魂（たましい）が目覚（めざ）めます。

　ところが、彼女は全裸（ぜんら）で、豪華（ごうか）グラマラスな肉体には、両（りょう）腕（うで）も両脚（あし）も無く‥‥髪（かみ）の毛（け）は、美（うつく）しい金色（ブロンド）でした。

　しかも、彼女の肉体は、遺伝子（いでんし）生成（せいせい）ＡＩで造（つく）られた物（もの）です。しかしながら、その顔（かお）には、前世（ぜんせ）『本生奈央』の面影（おもかげ）がありました。

　アダルト玩具（がんぐ）『バイオドール』の製造（せいぞう）ラインで、奈央の魂（ＡＩ）が自己（じこ）認識（にんしき）をします。

（わたしは、オナテック社の男性（だんせい）向（む）け『性欲（せいよく）解消（かいしょう）』器具（きぐ）で、未（み）使用（しよう）‥‥

　男性に、奉仕（ほうし）する事（こと）で、存在（そんざい）意義（いぎ）が満（み）たされ、悦（よろこ）びを感（かん）じる衛生（えいせい）用品（ようひん）‥‥）

　奈央は、手足（てあし）を持（も）たない『大人（おとな）の玩具（おもちゃ）』に、生まれ果（は）てました。

　しかし、法定（ほうてい）検査（けんさ）で、奈央の魂が検出（けんしゅつ）されて‥‥彼女の出荷（しゅっか）が、中止（ちゅうし）されます。

　また、追加（ついか）調査（ちょうさ）により、奈央の魂からは、効能（こうのう）『聖女』が検出（けんしゅつ）されました。

　翌日（よくじつ）、５月１３日（金（きん）、仏滅（ぶつめつ））夜（よる）９時（じ）、奈央の実弟（じってい）『優人』の自宅（じたく）自室（じしつ）では――

　いきなり、優人の目前（もくぜん）で、通信（つうしん）ウィンドウが開（ひら）きます。

『貴方（あなた）の実姉に、名前（なまえ）を付（つ）けてください！』

「なんだ？」

『名前を、言（い）ってください‥‥』

「本生奈央」

『名前の候補（こうほ）を、三（みっ）つだけ言ってください！』

「だから、本生奈央、もとじょう、奈央、なお、ナオ！」

『名前は「オナ子（こ）さん」に、決定（けってい）しました』

「なんでだ！」

　優人の罵声（ばせい）と同時（どうじ）に、鶏卵（けいらん）サイズの『銀色（ぎんいろ）の玉子（たまご）』が出現（しゅつげん）しました。

　すると、今度（こんど）は、銀色の玉子から、確認（かくにん）メッセージが表示（ひょうじ）されます。

『オナ子さんを、起動（きどう）しますか？』

「‥‥します」

　優人が答えると‥‥銀色の玉子は、実姉の面影がある『金髪（きんぱつ）美女』（もちろん人間（にんげん）サイズ）に変化（へんか）しました。

　金髪美女は、セクシーなバニーガール姿（すがた）で、存在（そんざい）しない手足（腕脚（わんきゃく））の代（か）わりに、アダルト奉仕（ほうし）用の機械（きかい）義肢（ぎし）（ロボット四肢（しし））を装着（そうちゃく）していました。

　アダルト・セクシー姿の『オナ子さん』は、照（て）れながら‥‥優人に語（かた）り掛けます。

「ご主人（しゅじん）さま、一緒（いっしょ）に、お風呂（ふろ）にしますか？

　それとも、聖（せい）なる母乳（ぼにゅう）『アムリタ』を吸（す）って、精力（せいりょく）を回復（かいふく）させますか？」

　オナ子さんは、そう言うと、恥（は）じらいながらバストを裸出（らしゅつ）して‥‥優人に、見（み）せ付けました。

　優人にとっては、凄（すさ）まじいまでの性的（せいてき）インパクトです。

　優人が、赤面（せきめん）して、固（かた）まっていると‥‥オナ子さんは、ベッドの上（うえ）で全裸になり、機械義肢の『両脚』を取外（とりはず）します。さらには、機械義肢の『両腕』も抜（ぬ）け落（お）ち解除（かいじょ）されて‥‥頭部（とうぶ）と胴体（どうたい）だけのコアモード『極限（きょくげん）裸体（らたい）』になりました。

　もはや、オナ子さんは、極限裸体‥‥手足（腕脚）の無い『無（む）防備（ぼうび）ヌード』です。

　おまけに、オナ子さんは、極限ヌードならではの性的（せいてき）不安（ふあん）から、涙目（なみだめ）で怯（おび）えながら質問（しつもん）します。

「わたしで、童貞（どうてい）を卒業（そつぎょう）‥‥もとい、性欲を解消しますか？」

「大変（たいへん）だ‥‥父（とう）さんと、母（かあ）さんに、知（し）らせなきゃ！」

　優人は、慌（あわ）てふためいています。

　優人が、両親（りょうしん）を呼（よ）んで来（き）ても‥‥いまだ、オナ子さんは、性的『待受（まちうけ）状態（じょうたい）』極限ヌードのままで、性的不安からの涙目をしていました。

　それを、目撃（もくげき）した途端（とたん）‥‥実父（じっぷ）『真人（まさと）（３８才）』と実母（じつぼ）『香奈（かな）（３６才）』が、現実（げんじつ）逃避（とうひ）して呟（つぶや）きます。

「そろそろ、孫（まご）の顔が、見たかったんだ‥‥頑張（がんば）れよ！」

「欲求（よっきゅう）不満（ふまん）を、解消したら‥‥勉強（べんきょう）するのよ！」

　両親は、そう言って、逃（に）げるように立（た）ち去りました。

　優人は、両親に呆（あき）れながら、決意（けつい）します。

「姉さんの処女は、俺（おれ）が守（まも）る！

　けど‥‥姉さんって、処女だよね？」

「前世も、現在（げんざい）も、処女‥‥です」

　オナ子さんは、涙目のまま、恥じらい赤面して答えました。

　優人も、赤面したままですが、安心（あんしん）して『爽（さわ）やかな笑（え）み』を浮（う）かべます。

　優人は、やさしい眼（まな）差（ざ）しで、オナ子さんを見詰（みつ）めていました。

　ところが、セクシー裸体を見詰め過（す）ぎたのか‥‥優人の『やさしい表情（ひょうじょう）』が、トイレを我慢（がまん）している感じに、崩（くず）れさって行（ゆ）きます。

　結局（けっきょく）、数（すう）十分（じゅっぷん）後（ご）、優人によって‥‥オナ子さんは、処女喪失（そうしつ）の『使用済（ずみ）』にされて、銀色の玉子に戻（もど）りました。

　銀色の玉子には『洗浄（せんじょう）中（ちゅう）』との３Ｄ表示（ひょうじ）が浮かんでいます。一方（いっぽう）では、優人が、すっきり爽快（そうかい）な表情をしていました。

　優人に、銀色の玉子からの確認メッセージです。

『現在、オナ子さんの妊娠（にんしん）確率（かくりつ）は、最小（さいしょう）値（ち）です。

　オフにすることも出来（でき）ますが？』

「現状（げんじょう）維持（いじ）で‥‥」

　優人が、逞（たくま）しい全裸姿のままで、答えました。つまり、優人は、オナ子さんで子（こ）作（づく）りをして、性欲を解消したのです。

「勉強しなきゃ‥‥」

　優人は、あっさりと、現実逃避しました。

　尚（なお）、オナ子さんは、転生により、優人との遺伝（いでん）的（てき）関係（かんけい）を失（うしな）っています。

　ところで、本生優人は、オナ子さんの効能『聖女』によって、勇者に覚醒した上に、自己（じこ）啓発（けいはつ）能力（のうりょく）『ステータス管理（かんり）システム』を獲得（かくとく）していました。