恋着の蟲

途上の土

第1話



 郵便受けのつまみを引っ張ると、1枚のはがきが舞い落ちた。はがきを捨おうとして冷たい風が肌を削ぐように襟元から流れ込む。僕は肩をすくめるように寒さに身を縮めてから、落ちたはがきを手に取った。宛名は鈴木誠一。間違いなく自分宛てだと確認して、次に差出人欄に視線を移した。よく知る名前だった。用件を確認しようとはがきを裏返すと「同窓会のお知らせ」と見出しに大きく書かれていた。


 もう中学卒業からどれだけ経ったっけ。不意に、当時の甘酸っぱい青春の香りと下駄箱から滲む鼻をつく臭いとが入り混じった懐かしい空気を感じた。僕はかつての空気を味わうように深く息を吸って、懐古の情に浸りつつも、はがきの文に目を走らせた。


 視線が止まったのは、締めの文言だった。定型句の長い文章の丁度中間当たりに黒い毛虫がいた。文字を塗りつぶすハリケーンのようなぐちゃぐちゃとした乱雑な線に、目玉が2つ添えられた簡易な毛虫の絵だ。誤字を消すための黒塗りをお茶目な毛虫キャラクターに仕立て上げたようだった。僕はその毛虫に見覚えがあった。宝箱の錠にカギを差す感覚がした。次の瞬間、蝶の群れが一斉に飛び立つように過去の記憶が脳裏を飛び回った。

 この毛虫を見たのは……そうだ。あれは中学3年のことだった。

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