この研究テーマは闇が深すぎる ~未知の世界に関する研究~
マツ田タケ夫
第1話プロローグ
研究者。
頭脳労働の筆頭たるその職に就くものは、面白いことに“頭がおかしい”と揶揄されることが多々ある。
実際のところ、そういった研究者は少ないのだが、何がそう思わせる原因なのだろうか。
一流と言われる研究者に共通しているのは、自分が未知のものを解決するんだ、という強い信念と熱意だ。
一見、不可能に見えることに立ち向かうその姿は“賢い”ではなく、“愚か”と形容されるかもしれない。
既知の物事を常識とする、いわゆる一般的な常識人にとって、そのような研究者は狂人として眼に映っているだろう。
ここにいる彼女もそういう眼で見られることがしばしばある。
「見えないけどいるんだよねえ」
こぢんまりとした部屋で、椅子に腰かけながら、女は何もない宙を見つめて、そう言った。
充分に成熟した風貌とは裏腹に、その物言いにはどこか少女のような無邪気さが感じられる。
女の目の前の机の上には、何やら難しいことが書いてありそうな文字が浮かんでいる。
しかし、それには目もくれず、難しい顔をしながら上の方を眺めている。
女の口から、ぼそぼそと何かを呟く声が発せられる。
すると、何もなかったはずの空間に光の玉が現れた。
「呼べば来てくれるのよね」
何度も見た光景だと言わんばかりに、当たり前の顔で、その光の玉の発生を受け止めている。
女はそれに触れようと手を伸ばしたが、何の感触も生じず、手はただすり抜けた。
そのすぐ後、光の玉は何をするわけでもなく消えてしまい、元の何もない空間だけが残った。
それを見た女は寂しそうな顔をして、また光の玉を呼び出した。
「ワタシの言うこと聞こえてるんでしょ~? ねーえー?」
女は光の玉を指でつつこうとするが、指が玉に触れることはない。
「お話しようよ~。何か言ってよ~」
当然だが、その無機質な光の玉は沈黙を貫いている。
しかし、女は飽きもせずに、光の玉が消えては出し、あれこれ話かけ続ける。
独り言を続けるその姿は、見る人にとっては異様かもしれない。
しかし、本人はいたって真面目にその行為を楽しんでいるように見えた。
そうやって戯れているうちに女は自然と笑顔になっている。
「さて、今日もがんばりますかあ」
自分自身を鼓舞するようにそう言って、椅子に掛けてある白いローブを手に取った。
そのローブに身を包み、女は部屋から出る。
女と光の玉だけの静かだったその部屋とは異なり、外の広間では轟音や閃光を伴った炎や雷が飛び交っていた。
さらに、それを見ながら活発に議論をする多くの人がいる。
女はその光景を気にも留めず、人々の合間をひょいひょいと縫うように移動して、また別の部屋に入っていった。
女が入ったその部屋からは、一際強い光が一定の周期で輝き続けた。
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