ダンジョン探索をするはずがBACKROOMSにノークリップしてしまった件について

八重垣みのる

第1話 公国の定例議会

統一暦 四年


大陸中南部に位置する公国の定例議会には、国王以下、様々な顔ぶれが一堂に会していた。


国王の補佐官、議事録作成のための書記官、公国軍の参謀に近衛隊師団長、商工や工芸、農業のギルドそれぞれの代表たち、それに市民会から選ばれた一般市民の代表団もいた。


「国王様、最後の議題に重要なものがございます」司会進行を務める補佐官が言った。


「なんだね?」


「例の、魔窟でございます」


五年ほど前までこの公国は、大陸南部に拠点を置く魔王軍と連合軍との戦闘の最前線であった。

最終的には、連合軍が戦闘に勝利して、それによって大陸に統一と平和、平穏がもたらされた。


と思われていた。例の魔窟が雄たけびを上げるまでは。


それは統一暦元年も終わりになる頃だった。


公国の南部国境近くには、廃墟となった魔王軍の巨大な要塞跡が残されていたが、そこからまるで獣の叫び声のような大きなが発せられたのだ。


それは遠く離れた場所まで聞こえるものであった。


魔王軍の残党か、魔王の子飼いだった魔物が今も潜んでいると考えた公国は、すぐに軍の部隊を編成して現地へ向かわせた。


捜索の結果、険しい岩山をまるまる利用して作られた要塞の麓に、おおきな洞穴が見つかった。叫び声のような音はそこから発せられていた。まさに魔窟と言えよう。


さらに少数精鋭の調査隊が組織され、その内部へと向かうことになった。だが一晩、一週間、一カ月、それ以上の時間が過ぎても、彼らが戻ってくることはなかった。


その翌年には再度、調査・捜索部隊が組織されて魔窟の内部へと向かったが、その彼ら彼女らも、戻らぬ人々となってしまった。


軍の部隊だけではなく、民間から集まった勇敢な義勇隊や、命知らずの冒険家や探検家、はては賞金稼ぎまでもが、大小さまざまなパーティやグループを組んで魔窟へと果敢に進んでいったが、そのいずれも戻って来なかった。


魔物が外へ姿を見せることはなかったが、今でも時折、昼夜を問わず叫び声をあげ、人々に恐怖心を与えていた。


そして、軍の参謀が言った。


「第三次調査隊を送るべきだと考えます」


「しかし、そうは言ってもだね……」


国王は、ほとほと困ったというような表情をみせた。

かつては魔王軍の戦闘で先陣に立って部隊を率いた猛将という一面もあったが、今はその面影はほとんどみられなかった。


「国王様。我が公国軍の近衛隊には、第三次調査への参加を熱望している騎士が一人おります」


「それは結構なことだが、これ以上、兵士や騎士、あるいは勇敢な者たちが魔窟の犠牲になるのは、正直言って心が痛む」


「しかしですが、今回は外部からも人材を登用しようと考えております。すでに二名の、有望と思われる人材に目星を付けております」


「ほう?」国王はその言葉に関心をみせた。「それはいったい、どのような人物かね?」


すると今度は、師団長が答えた。


「なんでも流浪の旅をしている旅人とやらで、銃の名手ガンスリンガーだと自称しています。少なくともこの男は、そもそも魔窟を目指して旅をしてきたそうです」


国王は驚嘆のため息をこぼした。


「相変わらず、命知らずがいたものだ。それで、もう一人は?」


「はい、国王様。もう一名は若い女で、まるで狼のような、たいそう大きい犬を連れた施療師ヒーラーを名乗る、こちらも旅人ものようです」


再度つづけて参謀が言った。


「それともう一人、こちらは公国の者になりますが、魔導士も一人、適任者がおりますので」


「そうかね……」


国王はあまり気乗りしないようすであったが、参謀は続けた。


「意気揚々とした騎士、新鋭の魔導士、銃の名手ガンスリンガー施療師ヒーラー。この四人の少数精鋭ならば、万が一の場合にも損害は最小限になるというものでしょう!」


「うーむ……」


「国王様、いまだに魔窟は、時折あの叫び声をあげているのです。国民の中にはそのことで恐怖を感じている者も少なくないのです。行動をしなければ国の威信にもかかわることでしょう」


それを聞いて、国王は渋々といったようすでうなずいた。


「分かった。よかろう。しかし、彼らの準備は万全なものとして、できる限りの支援もすることを条件とする」


「国王様、ご決断をありがとうございます」


そうして、魔窟への第三次探索計画が始動することとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る