正しい嘘

浅井二式

第一章 君が望む永遠

第1話 プロローグ

 境目もわからない暗闇の中に、色とりどりな光を放ち火花が炸裂する。花火を見るとワクワクした。それが一瞬のきらめきでも、残されるのが最初より濃い闇と静寂であってもずっと見て感じていたいと思った。青春とはそんなのものなんだろう。


 嘘の多い人生を送ってきた。

 人生と言っても15年しか経っていないが、嘘のない生活が想像できない程度には人をだまし、自身をだましてきた。それがいけないと体を張って教えてくれたのは幼馴染の女の子だった。一生分とも思える涙を流し、思春期には耐え難い羞恥と怒りをその幼い女の子にぶつけ、嘘のない人生を送ろうとただそれだけを決めて高校に進学した。


 その高校は県内では上の下ぐらいの位置にあり、垢抜けしない普通の県立高校だった。そこで嘘だけは付かないとの決まりを持って入学から7か月が過ぎた。彼は特に目立つわけでもないが、かと言って中学時代のように孤立することもなく女の子の親しい友人を2人作った。それが三森しずくと秋野裕美だった。


 いつも控えめで、何か話しかけてくるわけでも無く、楽しそうにしているわけでも無いが、いつも一緒にいるしずくと距離感がバグっていて、膝の上に座って話しかけてきたり、突然後ろから抱き着いて来たりする秋野さんだ。


 本来なら3人とも目立つタイプではないが、この3人の奇妙な関係はクラスでも目を引いて結果として目立つグループとなっていた。最初から3人だったわけでもなく、入学当初はいつも一緒に登校してくる彼としずくを見て周りは付き合っているんだろうとなんとなく思っていた。何人かに聞かれて、そのたびに馬鹿正直に、

「付き合ってない…」

「別に…」

とか答えるのも面倒になり、コミュニティはどんどん閉ざされていった。5月ごろには秋野さんが加わり、明らかに友人としては行き過ぎた愛情行動を取る彼女に対し、周りのクラスメート達は驚き、呆れ、そして慣れていったのだ。


 元々のしずくとの関係がうわさされる中、秋野さんが加わり、この男1人と女2人のグループがどんな関係なのかクラス内でも色んな憶測を呼んでいた。しかしながら周りとつながりが薄い我々に面と向かって関係を尋ねてくる友人も増えてはいかなかった。


 3人の関係性はクローズドで周りを巻き込むようなことはほとんどなかった。しずくはクラスでもっとも早く彼氏を作った女の子として、たまにクラスの女子の恋愛相談を受けたりしているみたいだが、秋野さんは周りとの関わりもかなり薄くほとんど他の生徒と会話をしているところを見ていない。


 彼は彼女たちよりもう少しだけコミュニケーション能力に優れており、体育の時間や休憩の時間に困らない程度には浅い友人がいた。しかし、基本的にはこの3人で過ごす時間が一番長く、彼らはこの関係に満足していて十分楽しい高校生活だと認識していた。


 衣替えも終わり10月も半ばになったころ、2人の女の子がこの3人の奇妙なグループに話しかけてきた。それは昼休みの間で3人で机を囲み秋野さんが1人でしゃべり、彼が突っ込みを入れ、しずくがニコニコ笑っている空間だった。


 高校生というものは、異なる属性を持ったグループには警戒心を抱くものだ。それがより上位のグループともなれば緊張も加わる。話しかけてきたのは、清潔感という言葉を体現したような女の子で明らかに陽の気を放つ柚木さんという女の子だった。

「ちょっといい?」

「………………………」

「いや、あの、なんか言ってよ」

 俗に鳩が豆鉄砲を食らったというが体験学習ができるとは思わなかった。


 柚木さんはどちらかというと真面目なお嬢様グループにいる。といってもいつも2人で行動しているが。相方は今現在も一緒にいる緑川さんだ。少し明るい髪をボブにした女の子にしては少し身長が高く、均整の取れた体形をしている柚木さんとおさげで身長は平均ぐらいだが出るところは出ている女の子らしい体形をした緑川さんだ。


 弓道部の柚木さんと茶道部の緑川さんの接点はわからないが気が合うのだろう。しかしながら我々と彼女たちの違いは明らかで柚木さんはギャルグループから体育部連中まで幅広く仲がいい。緑川さんも常に愛想がいいので彼女たちはすべてのグループに受け入れられてる。


 正直なところ柚木さんはかわいい。このクラスに入った時、1番最初に目に入ったのが彼女だ。『高嶺の花』と辞書を調べれば彼女が出てきそうだと憧れたことがある。だからと言って声をかけたことすらないのではあるが。

「明智くんたちに言ってるんだけど聞こえてる?」

 

 彼こと明智くんは臨機応変に物事に対処できるタイプではなかったようで怒られてるような苦手意識を顔に出しつつ答えた。

「聞こえてるよ。どうかした?」

 

 ぎりぎり聞き取れるかどうかの声でしか返事ができなかったが、とりあえずは会話の意志ありとは伝わったようだ。


 堂々と腰に手を当てている柚木さんに対して緑川さんは半歩下がって柚木さんの後ろに若干隠れている。対照的な2人だなとか考えていると柚木さんが言った。


「正直に答えてほしいんだけど、明智くんと秋野さんは付き合ってたりするの?」

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