現実世界のギャルがキョロ充に優しいなんて聞いてない! 〜幼馴染を陽キャにNTRされた俺の復讐譚〜

ヨルノソラ/朝陽千早

プロローグ

 ネットを介せば、大抵の情報は仕入れられる時代。

 小難しい計算式は実生活で出番はないし、翻訳機能は年々進化を続けている。

 最近では金融教育が義務化されたが、学校で学ぶ内容よりも、ネットに溢れている討論動画でもみた方がよっぽどタメになる。


 だから、俺──阿澄浩太あすみこうたが代表して宣言しよう。


 ──学校の勉強に意味はない、と。


 ただ、それでも俺は授業をサボったことがないし、教師の何気ない一言をメモする程度には真面目な学習態度を維持している。


 勉強そのものに意味があるかはさておき、勉強できる人間には意味があるからだ。

 主に、重要事項をまとめたノートは需要がある。テストが近づけば人気者になれるからな。だから、昼休み明けの眠たい環境下であっても、真剣に授業と対峙していたのだけど。


「ちょーい、ちょいちょい。無視すんのひどくない?」


 先ほどからギャルによる妨害を受けていた。

 一つ後ろの席に座る女子──二宮心愛にのみやここあは、シャーペンの先でちょんちょんと小突いてくる。


「さすがに鬱陶しいんだけど」


「あ、やっとこっち見たし。ねね、ネイルやってみた。可愛くない?」


「授業に集中しろよ……」


「ぷはっ、阿澄っち超真面目なんだけど。てか、あーし文系行くから、数学とかやる意味ないし」


「そういう問題じゃねえよ。というか、文系でも数学の授業はあるからな」


「ま? 初耳なんだけど。あ、やばっ、板書消されてる。阿澄っち後でノート見せて!」


「ヤだね」


「むぅ。あーし、阿澄っちのカノジョなんですけどー。優しくない彼ピとか幻滅なんですけどー」


 頬に空気を溜め込んで、ぶー垂れるギャル。

 そう、このギャルは俺のカノジョだったりする。


 平々凡々な俺にはとても釣り合っていない相手。

 けれど、虚偽でもなんでもなく、俺と彼女は交際している。


 人生、何が起こるかわからない。平穏な学生生活なんてのは、ある日突然、何ら前触れもなく崩れ去るのだ。


 例えば、そう──。


 俺がギャルと付き合い始めたように。


 俺の初恋の子が、クラスの陽キャラに取られたように。


 文章にしてしまえば一文で終わってしまうような出来事で、日常生活は大きく変化を遂げる。だからまぁ、何事においても用意周到に準備したほうがいい。


「ねぇってば。なに無視してるし」


「え、ああ……なんか言った?」


「だーかーら、あーしの彼ピが優しくないって言ってんの。もっと労ってよね、あーしの身体はもうあーしだけのモノじゃないんだし」


「ブッ、ごほっ、こほっ! な、何言ってんの⁉︎」


「ウケる。阿澄っち、超動揺してんじゃん」


 俺が盛大に咳き込むと、ギャルは楽しげに笑みをこぼした。

 と、さすがに授業中に発して良い声量ではなかった。クラス全体の視線が俺の元に注がれる。


「授業中ですよ、私語は慎むように」


「す、すいません……」


「あはは、怒られちゃったね」


「誰のせいだと思ってんだッ」


 俺が不服を前面に押し出しながら睨むも、ギャルは軽快に笑うだけで動じない。


 くっ……コイツが絡むとロクなことがねえ……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る