ソウル・ファンタジア〜カードゲーム世界一位がTCG世界に来たなら当然一位ですよね?

影崎統夜

第1話・ブラック企業くたばれ

 薄暗い会社の事務室のデスクに山積みになった書類内容をパソコンへ打ち込んでいく。

 連続出勤30日目の深夜23時半。

 今日も終電に間に合いそうにないから会社に止まる羽目になりそうだな。


「あ、青風あおかぜ先輩……」

「どうした?」

「そ、その。実は彼氏が」

「深く言わなくてもいいよ」


 おそらく帰る口実だろうが、可愛い後輩にこれ以上は無理させられない。

 今なら終電には間に合いそうなので、残りは引き受けて帰ってもらう。


「残ったのは俺だけか」


 少しだけ休憩するか。

 後輩が出て行ったのを確認した後、1人になった事務所内でスマホを取り出す。

 ホーム画面にはあるカードゲームのイラストが写っており、思わず深いため息を吐いてしまう。


「世界大会で優勝した時は嬉しかったな……」


 カードゲーム、ソウル・ファンタジアの世界大会。

 その時は上司に土下座して有給を取得して出た大会で、同僚からの冷たい目も気にせずに楽しんできた。

 

「久しぶりの休暇で好きな事をやれたな」


 ブラック企業の社畜としては失格だろうが、好きな物だけは否定したくない。

 同僚からブツクサ文句を言われたり、上司からの扱いがさらに悪くなったがそれでも引けない部分がある。

 

「さてと、明日までがんばりますか!」


 スマホをポケットにしまい、デスクに……あれ?

 なんで体が動かないんだ?


「あ、まず」


 パタリと床に倒れたまま動けなくなる。

 やっぱり睡眠時間が足りなくて限界がきたのかな?

 そう思いながら俺は眠気に誘われ、意識が落ちていくのだった。



 ーー

 


 フワフワと何か暖かい物に包まれている感じ。

 このまま眠りたい気持ちはあるが、朝日が眩しいので目を開ける。

 すると見覚えのない真っ白な天井が……え?


「こ、ここはどこだ?」


 いっつ。

 二日酔いみたいな頭の痛さを感じつつ体を起きあがらせると、テーブルの上に手鏡が置いてあり。

 そこには高校生くらいの整った顔立ちをしている少年が仏頂面で写っていた。


「えっと? ドユコト」


 マジで意味がわからん。

 鏡に写った少年とくたびれたアラサーだった自分の差が激しい。

 

「てか、これが俺なの!?」


 手鏡に写る自分〈仮〉に驚いていると、テーブルの上にある物が置いてある事に気づく。


「なんでカードケースが置かれているんだ?」


 見つけたのはカードを入れる為の四角いケース。

 しかも安っぽい物ではなく、アニメとかで見るしっかりとしたケースで開けてみると見覚えのあるカードが入っていた。


「ソウル・ファンタジアのスターターデッキかよ!?」


 前世でも愛用していたギルド・ウィンドのスタートデッキ。

 カードパワー自体は悪くなくトリッキータイプのデッキとして使っていた。

 

「個人的には本来のデッキの方がありがたいが」


 ないものねだりをしても仕方ないか。

 そう思いながらカードの束をまくっていると、最後に見覚えのないカードが目に映った。

 そのカードは他とは格が違うレベルで光っており、一目で貴重なレアカードと理解できるほど。


「EXレア、天弦竜スカイライン・エクシード?」


 前世の世界での最高レアリティはLレアで、EXレアなんて聞いたこともない。

 そう思いながらステータスを見ていたが……うん、クソ強いな。


「このカードが前世であったら制限カードデッキに1枚までになるレベルだぞ」


 やばいカードを見つけたので目を逸らしつつ、デッキをケースに戻して気持ちを切り替える。

 

「そういえばここはどこだ?」


 カードに夢中で忘れていたが、今の状況はドユコトだ。

 よくわからないままベットから立ち上がると、勉強机の上に手紙っぽい物が置かれていた。

 なので試しに開いてみると……。


『ハイケイ、青風あおかぜ斗真とうま様。貴方様は劣悪な環境で働いていた結果、27歳という若さで過労死しました。会社は貴方が死んだ時に責任逃れをしてましたが、国からの調査が入って上司達は逮捕。会社は潰れて同僚や後輩たちは賠償金を手にしました。ただ貴方様があまりにも恵まれないと思い、並行世界へ転生させる事になりました。

 貴方様が高校生に逆行転生したのはソウル・ファンタジアの勝負グレイズで人生が決まるカードゲーム世界で、元世界一位の腕前を持つ方にはぴったりな世の中です。

 長々と文章を書きましたが、青風斗真様に祝福を。

 差出人、転生の女神・アルファス』


 ……マジで?

 思わず目を擦りながらベットに戻り、何回も手紙を読み返す。

 ただ同じ内容が書かれていたので、目が点になりながら天井を見上げる。

 

「さ、流石にドッキリだよな……」


 そう思いながらテーブルに置かれていたチャンネルを手にしてテレビをつける。

 するとテレビに映ったのは。


『4月2日、朝のニュースです。まずは先月のトップファンサ達のランク結果を報告します。まずは世界のトップ、九条光輝くじょうこうきプロ!」

「……へ?」


 ソウル・ファンタジアをやるプレイヤーの事はファンサと呼ぶのはもちろん知っているが。

 ランクをニュースで報道されるとか、意味不明すぎて思わず固まってしまう。


「ははっ、本当にソウル・ファンタジアの世界に逆行転生したんだな」


 もう考えるのはやめた方がいいな。

 前世ではフラストレーションが溜まっていたが、この世界なら俺の価値が示せる。


「まずは手始めに世界一位を取り返すか」


 テレビに映るランキング1の優男っぽい金髪イケメンを尻目に、俺は思わずニヤッと笑うのだった。

 

「前世では社畜で不遇だったけど、この世界で最強になれば昔から抱えていたフラストレーションも解消されそうだな」


 窓のカーテンを開けると目に映るのは近未来っぽい都市。

 空中に浮かぶ車に、モニター付きの飛行船。


「おいおい、モニターにもソウル・ファンタジアの試合が写っているのかよ」

 

 しかもテーブルバトルではなく、アニメとかでよく見るユニットが呼び出されてバトルするシステム。

 その姿を見てワクワクとドキドキが湧き上がってくる。


「俺も早くやってみたいな」


 自分の中でテンションが上がる中、準備を整えて部屋から出ていくのだった。

 

 


 

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