私の義妹はツンデレを演じきれていない
緩音
プロローグ(1)
「お姉ちゃんなんてきら...好きじゃないし!」
叫んで自分の部屋に戻って行く私の妹の優芽ゆめ。階段をドタドタ音を立てながら上がっていき自分の部屋のドアをバァン!と閉める。
「
お母さんが怒った声で言う。そんな光景を見ながら私は朝ごはんのトーストを1口齧る。
「どうしてああなっちゃったのかしら....」
「あはは。」
笑って誤魔化す。多分妹がこうなったのは私のせいだから。
これを話すにはまず10年前に遡らなければならない。
「初めまして、
「おかあさん?どういうこと?」
「玲奈、今日から結子さんと結子さんの子どもの優芽ちゃんと一緒に暮らすんだ。」
「そうなんだ。」
こんな会話をしたのを今でも覚えている。私のお父さんである
「ほら優芽自己紹介なさい。」
「えっと、ゆめ、です。」
ゆめちゃんは名前を言うなり結子さんの後ろに隠れてしまった。
「私はれな。よろしくねゆめちゃん。」
「玲奈。優芽ちゃんは玲奈の1歳下だ。お姉ちゃんとしてよろしくな。」
「うん!」
依然として優芽ちゃんは結子さんの後ろにいて目が合うとすぐに逸らされてしまった。
「ごめんなさいね、この子人見知りで。」
それから結子さんと優芽ちゃんは私たちの家に住むことになった。
最初は常に結子さんの後ろに張り付いていた優芽ちゃんだったが徐々に私にも懐いてくれるようになった。ちなみにお父さんは懐かれるまでに3年の時を要していた。ドンマイ!
懐いてくれるまでにいろいろあったが何が決め手になったかと言うとあの日だろう。
それは雨が激しく降る夜の事だった。お父さんもお母さんもその日は仕事に行っていて雨のせいで帰ることが出来ないと電話があった。夜ご飯は冷凍のものをレンジで温めて食べた。お風呂は入らないでと言われたので着替えだけした。もう7歳にもなればパジャマに着替えるくらいなんとかできる。私は優芽ちゃんの着替えも手伝って寝ることにした。私達はお父さんたちの寝室でいつも寝ていてお父さんとお母さんが使う大きなベッドの横に布団が2枚敷かれているのでそこで寝ている。
雨はまだ激しく降っていてたまに遠くで雷が鳴っている。さすがにその時は近くに落ちないか怖かった。しかし嫌な事は的中するので一瞬外が光った後直ぐに爆音と共に落雷して小さな光を出していた証明が消えた。すぐに復活したが心臓がバクバクしていて寝れそうになかったが早く寝てしまおうと目を閉じていた。すると泣いている声が聞こえた。優芽ちゃんが泣いてしまったのだ。
「ゆめちゃん。だいじょうぶ?」
声をかけたが優芽ちゃんは泣き続けたままだった。私は優芽ちゃんの布団に行って優芽ちゃんを抱きしめた。最初は震えていた優芽ちゃんだったが徐々に落ち着いてすやすや眠りに落ちて行った。私も安心して眠りに落ちた。今思えば私も怖くて人肌で安心したのかもしれない。
そんなこんなで優芽ちゃんは私に懐いた。懐いたというよりベッタリと言う表現が正しいかもしれない。公園に遊びに行く時もずっと私と同じ遊具で遊ぶし、家でお絵描きをしてる時は自分もペンと紙を持ってきて私の横で描き始めた。
そんな優芽が何故こんな風になってしまったかと言うと恐らく漫画の影響だ。
中学生の時私は恋愛小説にハマって買い漁っていて、たまに優芽にも貸したりしていた。事件はそんな時に起こった。
「お姉ちゃんの推しっている?」
「推しかぁ。今読んでるのだとこの子かな。」
私が推しと言ったのは恋愛小説のヒロインの1人だ。この子は自分に正直になれなくてし主人公に冷たい対応を取ってしまうという悩みをかかえていた。
「へーお姉ちゃんはこういう子が好きなんだ。」
「ビジュもいいしねー。」
「お姉ちゃん。その本貸して。」
「え、まだ読んでる。」
「いいでしょ。」
優芽は全8巻あるその小説を全部自分の部屋に持って行ってしまった。今日買ってきた最新刊も含めてね。
結局小説が私の元に帰ってきたのは1週間後でそこから優芽の様子が変わってしまった。
今まではお姉ちゃん子だったのにいきなり私を無視したり、少し冷たい言葉を使ったりしてきた。優芽と出会ってから8年間くらいずっとベタベタだったのにいきなり離れて行かれると困惑するし少し悲しい。
そう思うのが普通の姉だろう。しかし私は違う。私は優芽に貸した小説をもう一度読んで気がついた。優芽は私の推しと全く同じことをしている。何故そんなことをしているのかは検討がつかないが多分優芽は私を嫌っているわけではないのだろう。だってこんな態度しながら学校には一緒に通っているのだから。なんて微笑ましい妹なんだろうか。しかしお母さんからは不評だった。
その後なんやかんやで私は近所の高校に合格した。
「合格おめでとう。玲奈ちゃん。」
「おめでとう。」
お父さんは泣いていた。
「泣くほどのことじゃないって。」
なだめても合格が決まった日はお父さんはずっと泣いていた。そしてこの日は我が妹も祝ってくれた。可愛いやつめ。
高校生にも慣れた夏前くらいから優芽はよく勉強をするようになった。
「どこの高校目指してるの?分からないところあったら教えるよ?」
「うるさい。勉強のじゃましないで。」
うーむ。今日もツンツンしてるなぁ。でも話かけられたときに一瞬笑顔だったのはどうしてかなぁ。
優芽が席を外したタイミングで優芽が解いていた問題集の表紙を見てみる。すると高校受験のときによく見た表紙だった。
「うわ、過去問じゃん。」
つい声が漏れる。もう二度と見たくないと思ってた表紙だ。....おっと違う、見なきゃ行けないのはどこの高校かだ。えっと確か表紙の右上に高校名が書いてあったはずだから....あれ?これ私の行ってる学校じゃん。そのタイミングで優芽が戻ってきた。
「何してるの。お姉ちゃん。」
「あっえっと、その....」
「別にお姉ちゃんと一緒の高校に行きたいなんて思ってないんだからね!!!」
「えっと、つっこんだ方がいい?」
「?なんのこと?」
嘘だろ我が妹よ、そんなザ・ツンデレみたいなセリフを意図せずに言ったというのか。本当に可愛い妹だなぁ。今すぐ抱きしめてよしよししてあげたい。そして私の腕の中でキャンキャン吠える子犬みたいなこの子をドロドロに堕としてあげたいなぁ。
「ゃん。えちゃん。お姉ちゃん。」
「な、何?」
まずい変な顔してなかったかな。
「私リビングの方が集中できるから。出てって。」
「はーい。」
さすがに勉強のじゃましちゃったかな。私としても優芽と学校に行くのは楽しみなので、勉強頑張って欲しい。
少し時は流れて秋になった。私は母校の学園祭に来ていた。
「あっ会長!」
「お久しぶりです!」
2人の中学生に話しかけられた。
「おー久しぶり!元気にしてた?」
「「はい!」」
この子達は生徒会の後輩で、今年度の会長と副会長だ。この学園祭で生徒会は代替わりするので生徒会メンバーは特に力を入れる行事だ。
「会長の仕事はどうだった?」
「大変でしたけど楽しかったですよ。会長ほど立派な会長にはなれませんでしたけれど。」
「褒めても何も出ないよ〜。クレープ奢ってあげる。」
「やったー!」
そう喜ぶのは副会長の子、この子も変わらないなぁ。その後2人にクレープを奢ってあげて少しお話した後に別れた。
さあ今日のメインへと向かいますか。私は3-1と書かれた教室へと向かった。
「いらっしゃいませご主人様!」
メイド服や執事服を来た子たちが出迎えてくれる。優芽のいる3-1はメイド喫茶をやっている。
「あれ?優芽ちゃんのお姉ちゃんですよね?」
席に座っていると話しかけてきた。
「ああ、優芽のお友達の。久しぶり。」
「覚えててくれたのですね!嬉しいです。」
彼女は何回か遊びに来たことがある優芽の友達で部屋にクッキーを持っていった時に少し話した以来だ。
「じゃあ可愛いメイドさん。注文を取ってもらってもいいかな?」
「はい!かしこまりました!」
abcの3つのセットがあり、私はコーヒーとクッキーのcセットにした。
少し待っているとメイド服に身を包んだ優芽がトレーにコーヒーとクッキーを乗せて持ってきた。私はそれをにこにこと見つめる。
「おまたせしました。ご主人様。こちらcセットでございます。」
「ええ、ありがとうございます。」
「では、失礼いたします。」
「少し、お話していかない?」
「....当店ではそのようなサービスは承っておりません。」
「あら、そうでしたか。失礼しました。」
「いえ、ではごゆっくりどうぞ。」
優芽は恭しくお辞儀をするとバックヤードに帰って行った。コーヒーとクッキーを楽しんで教室を出ようとする。すると数人のメイドさんに囲まれた。
「優芽ちゃんのお姉さん。少しお待ちください。」
「どうしたの?」
「今日のメイド服の優芽ちゃん可愛いですよね?」
「うん。そうだね」
「デートしたいと思いません?」
まさか。
「まさか。」
「ええ、優芽ちゃんのシフトはここまでなので宣伝も兼ねてメイド服のまま行ってもらおうかなと思ってるんですけど〜、優芽ちゃん可愛いから少し心配だなーって思いまして。」
私はその子と握手を交わす。
「ええ、メイドさんを守るのも主人の役目ですからね。」
「ではよろしくお願いします。優芽ちゃーん。」
裏から優芽が出てきた。さっきはよく見れなかったけど今は全身が見える。かわいい。
「かわいい。デートしよ。」
優芽の手を引っ張って歩き出す。
「デ、デートって。これは宣伝に行くだけ!」
「いってらっしゃーい。」
優芽と私の新しいお友達の声が廊下に響いた。
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