殺人ボランティア

柚凪月

第1話 ファーストコンタクト

閑静な住宅街。

布団に入る住民たち。

スコープを覗く殺人鬼。


今宵も悪人の頭に鮮血の華が咲き乱れる。

スコープから目を離し、

無表情のまま去ってゆく。


暗殺者の名は


「FOX」


今回の殺人も、FOXによるものだと

推測されています。


俺の名はダクト。

仕事に行くためのタクシーに乗っている時、

スマホからそんなニュースが

流れてきた。


FOXというのは年齢も素顔も本名も

何もわかっていない、凄腕のアサシンである。


FOXは「フィナーレ」という名前の会社、

と言うか組織に所属している。


フィナーレは、依頼されたら人材を派遣する。

言ってみれば派遣会社である。


ただし、フィナーレが派遣する人材は、

全員が腕利きの殺し屋なのである。


FOXは、そんなフィナーレの中でも別格

とされている。


でも、FOXは何故か依頼料を

受け取らないのだという。

考えようではボランティアだ。


なんでこんなことを知っているのか、

そう思ってるだろう。


答えは簡単。

俺もフィナーレに所属しているから。


と言っても、今回が初仕事なのだが。


初の仕事は、地上げ屋の護衛。

その地上げ屋は、なんかポカをやらかして

ヤクザに狙われることになったので、

我々に依頼してきたというわけである。


そして、初仕事なのに相方はFOX となった。

びっくりだ。


FOXにはもともと相棒と呼べる存在はいなかった。


だからずっと一人で仕事をしてきたわけだが、

一人で仕事というのは

いくらFOXでもかなり危険なため、

適当に俺がつけられたというわけだ。


今回 俺に言われたことはただ一つ。


FOXの足を引っ張るな。


無礼極まりないことである。

フィナーレの人間は、全員50m先の的を

射抜く試練に合格しているのだ。

それなのに足を引っ張るななんて。


舐めているとしか思えない。

最悪だ。

クソッ。


そんなことを思いながらタクシーに

料金を払っておりる。


芝が生い茂る野原

ここが初仕事をする場所だ。


見ればFOXはもうそこにいて、

リュックサックからスナイパーライフルを

出しているところだった。


地面には、ボウガンやピアノ線がおいてある。

何に使うのだ。


とりあえず、俺はFOXの隣に腰を下ろす。


「今回の依頼は地上げ屋の護衛というより

 敵の駆除だからね」

FOXが老若男女どれともつかない声でそう言った。


FOXの年齢や性別は誰も知らない。

最近の小学生でも知っている。


俺はてっきり、誰も顔を見たことが

ないのだと思っていた。


違う。

顔の半分を覆う狐の仮面。

老若男女どれともつかない声。

小さな体を覆うオーバーサイズのパーカー。


身につけているものすべてが素性を隠している。


「そ、そうなんですか」


俺はそう言うのが精一杯だった。


かくして、俺の仕事が始まったわけである。

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