ミンミンざいざい

蓮池キョウ

若者の街

 少し長く眠りすぎたようだった。若者たちが乗り降りし混雑する車内に目を泳がせ、ここが何駅なのかを確認する。「原宿駅」とアナウンスの後に、電光掲示板でも確認ができた。なるほど、目的地の「品川」までは少し先か。


 小百合は厚着したものの重みの心地よさを味わいながら、座席の角を確保できたことに悦に入り、睡眠剤を飲むか迷っていた。


 不眠を理由に医師から処方されている睡眠剤だが、小百合が用法用量を守ることはほぼない。

 「夜眠る前に3錠」が正しい使われ方だが、小百合の場合は「眠れそうなときに3錠」だ。眠れそうであれば、電車の中でも、授業中でも、湯船に浸かっていても服薬する。これじゃ逆に過眠でよくないのではないかと思う。


『小百合、作戦まで20分を切った。今回ばかりはオクスリ我慢しておけよ!』

 インカムで玲司が指示を飛ばす。

 本作戦に実働部隊として参加してるのが、小百合、玲司、穂香の3人だ。東京都の中心部を回る環状線にダメージを与えればいいらしい。その結果どんな被害が出るとか、今後の日本の国際社会での立ち位置とかは、本部に丸投げしちゃえばいい。

 『小百合、穂香、定刻通り作戦を開始する』

 玲司は列車後方、穂香は中腹、小百合は先頭車両に爆弾を仕掛け、自爆。簡単なお仕事。


 「自爆、か……」

 作戦前に不安を漏らす穂香に、小百合は眠剤を渡していた。

 「使わないよ〜」

 と断ると、「非常時のためだ、持っていけ」という。小百合は普段ポワポワしてるから不安になるけど、簡単には意志を曲げない芯の通った心がある。

 大丈夫。作戦は成功する。


 定刻通りになったら、他二人の状況を確認せず自爆する。それが本部からの命令。

 「小百合、玲司、どうか…………」

 スイッチに手をかけて、小百合に渡されていた眠剤を思い出した。一気に服薬その流れでスイッチを押した。


巨大な破裂音と衝撃音に脳が揺さぶられ、それも炎の火力に覆い尽くされた。

燃える体の熱の隙間で、逃げ惑う乗客が視界を掠める。熱い。熱い。熱い。燃えてるのよ。

口から、皮膚から、喉から酸素が奪われて水が焼かれていく。

大きくうねった車体はレールを外れる。

 作戦は成功したはず……。小百合と玲司は……。

 私達は正しいことをした、私達は、正しいことに…………。

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