この理不尽な世界に負けたくない。
西郷
序章
未来~始まり~
──時を超えて光が届く様は、時空を連想させる。
透き通るような夜空に輝く星々をみて拓未はそう思った。
何故星をみて時空なんていう超絶ワードが思い浮かんだかというと
先ほど初めて現実世界が並行世界。別の時空と融合したと知ったからだろう。
この星空をみながら寝ころびたい気分だったが今はそれが許される世界ではない。
ビルの上から躊躇なく跳んだ彼────
(傍からみたら自殺願望者だと思われるな。)
下にいる人物の反応に期待しながら
「.......!? 怪我してたら直ぐに教えてね」
面白い程驚き心配してくれた彼女────陽向
「ハハ、ごめん実は全然大丈夫。」
俺のふざけたような反応をみたゆいはぷくーと可愛らしく顔を膨らませる。
「心配したんだよ?本当に、怪我したら直ぐに言ってね。」
目を見つめて心配され、恥ずかしくなった俺は思わず目を逸らす。
「.......もちろん。所で質問なんだが今日の探索範囲ってどこまでだっけ。」
「江戸川区までだよ。距離もあるしここからは慎重に行こう。」
「了解。寝られるのが次の日になるのは嫌だし少し急ぐか。」
---
「........久しぶりの東京だ。」
東京には最強種とダンジョンが存在するためモンスターの強さが桁違いだ。
その調査のために遥々来たのだが、こんな場所に今来るのは俺らくらいだろう。
「たっくんも東京出身だったり?」
「もって事はゆいもか?まさか千葉で出会った俺らが両方東京出身とはね」
出身トークというものをしてみたかったのだがエリートゴブリン一体と通常のゴブリンの群れが現れる。懐かしんでいる暇は殆どないと思った方が良いかもしれないな
「ッフ!」
俺は拳に青い気をのせ、息を吐きだしながらゴブリンの顔面を殴る。
だが、その程度で何もできずにやられてくれるエリートゴブリンではない。
死ぬ間際に所持していた投げナイフという土産を残してきた。
「あっぶね」
右手の親指と人差し指で白刃取りを再現し頭に刺さるのを防ぎ戦闘は終わった。
「エクスプロージョン」
魔法陣を構築し、具体的なイメージをする為に詠唱を唱える。
彼女がそう呟いただけで、ゴブリンの群れが吹き飛び、半壊する。
だが、しぶといゴブリンが3体ほど残っていた。瀕死のゴブリンに向けてゆいは弓を構え二発連続で放つ。矢はゴブリンの脳天に突き刺さり消滅した。
「........やっぱり気配がするな。」
ゆいの戦闘を見届けた拓未は戦闘中にも僅かに感じていた遠くの気配に向かって移動するのだった。
---
『ヴォオオオオオオオオッ!』
「あヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁあ」
少年はモンスターを倒して自分も強くなりたいと思い外出をしていた。
出会ったのがホーンラビット単体なら万が一勝てた可能性はあるが
そもそもが無謀な行為な上に、絶賛ミノタウロスに襲われ逃げていた。
「くそぉ速すぎだろ!」
逃げたのは良い判断だが、一瞬にして追いつかれ命の危機に瀕する。
「オマエを倒して、ぼ、ぼくだって特殊な力を手に入れてやるんだ!」
『ヴゥオムォンッ!』
少年にはミノタウロスの鳴き声がまるでオマエには無理だと言っているように聞こえた。思わず少年は涙を流してしまう。少年の命の灯が消える瞬間。
「無事か?少年。」
拓未がミノタウロスの人など軽々と爆散させるであろう一撃を受け止めていた。少年は落ち着く声音が聞こえ涙で視界が歪んだ瞳を開ける。
「ぇ、ぇ」
少年はあり得ない光景をみて、声にもならない声をだす。
「強くなりたい気持ちは痛い程わかる。だけどおまえは無茶しすぎだ。」
何時自分が潰されるかもわからない状況なのに思わず説教する拓未
「.......っと、説教の前にこいつを倒さないとな」
ミノタウロスを倒すと宣言し、目にも止まらぬ速度で距離を取る。
拓未は深く腰を落とし、右手に被せる形で左手を添える。
1秒ごとに右手から青き光が溢れ出す程の気がチャージされる。
一瞬にしてミノタウロスの前まで移動すると、碧く光る拳を解き放ちミノタウロスを跡形もなく吹き飛ばしたのだった。
───半年前
2027年12月13日 欧州原子核研究機構、SERN
SERNは大型ハドロン衝突型加速器ことLHCを使い神の粒子とも呼ばれるヒッグス粒子の発見など数々の未知を判明し人類の科学技術を進めてきた。
そんな研究所の、研究者達は自分たちでさえ前例のない実験をしようとしていた。
「やるんですか。僕らでさえ新発見の粒子の性質はまるで理解できていないのに」
新米の研究員が所長に対して、本当に大丈夫なのか?という意思を込めて訴える。
「確かにS粒子の性質を私たちは理解できていない。
だが、事実や理論を明らかにし、未知を既知にするのが研究だ。」
彼らは度重なる実験によって、新発見の粒子。
別名S粒子の世界初発見に成功していた。
今実験は本来陽子同士で行う衝突実験の片方をS粒子に置き換え衝突させるというどうなるか誰にも正確な予想が出来ない実験だった。
数々の工程を経てバンチと呼ばれる状態になった陽子ビームをLHC本体へ注入する。S粒子は前段階の加速の工程を踏まず、LHC本体に注入される。
エンジニアたちが準備を終わらせたのを確認した所長は軽い演説を始める。
「今回の実験は我々処か歴史上で初の実験だろう。実験を成功させるため
職員全員、全力を尽くしてほしい」
所長はそう述べ、各自の準備が整ったと判断すると加速器のスイッチを入れた。
S粒子は科学者達の予想通りに段階を踏まない加速にも関わらず、陽子と同等の速度で加速されていった。だが、時間を経過していく毎に研究者たちの予想を遥かに超える速度でS粒子は加速していく。
「この加速はいくらなんでもおかしい.......。このまま加速すれば光速を超える可能性だって────」
モニターで計測しているメガネをかけた研究者の声を聞き研究者たち全員が驚きの声をあげる。物凄い速度で加速されたS粒子のエネルギー量は陽子を遥かに超越する
「........残念だが、実験は中止だ。」
所長は想定を遥かに超え、宇宙全体にどこまでの影響を与えるかわからないこの状況を危険だと判断し緊急停止ボタンを押す。
.........
「何故だ、何故停止しない!?直ぐに原因を探れ!!」
他の研究者たちに原因判明の指示を出す。
所長は今一度緊急停止ボタンを押すが、まるで反応はない。
「どうやら、緊急停止ボタンと加速器の接続が、絶たれているようです!!」
入念に準備をしたはずなのに、何故気付けなかった......?
だが、今はそれよりもこの事態をどうにかする方が大切だ。
「エンジニアたちに告ぐ、直接緊急停止ボタンを押してくれ!」
その言葉を聞いてもエンジニアたちは誰一人とも動こうとはしない。
絶望しかけた所長だが、唐突にエンジニアたちは動き出す。
指示を無視して、エンジニアたちは独特な踊りを始めたのだ。
「エンジニアたちが接続を切ったのか!それどころか彼らの狙いは────」
この踊りの意味を理解している所長は緊急事態にも関わらず考えだす。
「今から停止ボタンのあるLHC本体に向かっても間に合いません!」
他の研究者から悲鳴にも似た絶望の宣告を受け、思考から現実に引き戻される。
所長には責任があった。プロジェクトの責任者として、そして政府から無理を言われたのもあったが、男の知的好奇心がこの実験をする最終判断を下したからだ。
「.......この区域全体に避難指示をだし、マスコミに報告してくれ。
その他全ての職員は今すぐに、全員避難しろ!」
研究所には警報が鳴り、直ぐに身支度を済ませた研究者たちが逃げていく。
だが、僅か数分後、研究者たちの避難も間に合わずにS粒子は物理法則上ありえない、光速にまで到達し光速の99.999999%にまで加速した陽子と衝突した。
反物質、ダークエネルギー、Xエレメント。
言い方は様々だが、未知のエネルギーが放出され次元の壁すら破る。
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粒子加速器を起動すると並行世界への扉が開くという陰謀論が噂されていた。
それは半分正しい。粒子加速器を起動しただけでは並行世界と繋がらない。
粒子加速器による光速の99.999999%同士の陽子の衝突の瞬間に世界は繋がる。
今までの実験で並行世界と繋がった時は繋がりが弱く殆ど影響などなかった。
だが、今回は未知のエネルギーが放出され次元の壁すら破ってしまった。
結果この世界とは似ても似つかない、異世界のような世界に干渉してしまった。
未知のエネルギーの放出により倒れ、意識を失いかけていた所長が、研究者が最後にみたのは歪んでいく世界だった。
世界各国でパニックが起きていた。
A.M8:00 アメリカ
「な、何なんだ今のは!」
世界が歪んだことにより、自分がおかしくなったのかと錯覚する男
次の瞬間、男の目の前にはスライムがいた。
「俺は幻覚でもみてるのか......?なあ、キャシーにもこいつがみえるか?」
隣の女性が答える間すら許さず、スライムは男に容赦なく飛び掛かる。
P.M22:00 中国
「どこから抜け出したんだい?変なツノだけど可愛いウサギだな。」
ジャッカロープの可愛さに油断していた男の腹を一突き。
「え、」
抵抗する間もなく腹を貫かれた男はウサギの群れに食べられる。
大量の人々が次々にウサギやゾンビに殺され、食われていく。
P.M23:00 日本
「こんなにデカい建物今までなかったよな?」
突如として現れたダンジョンに驚き混乱する人々。
その入り口からモンスターが津波のように溢れ出す。
世界は神様にだって想像できない形で、融合した。
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