創作小説創作落語

清水らくは

ダザイ

 えー、キャラクターにとって名前というの重要でして。どんなイケメンキャラでも「カイワレ」って名前だったらかっこ悪そうというもんで。どんな名前にすりゃいいか悩む小説家は多いわけですが、ここに出てきます男、何を思ったかお寺にやってきます。


「ええ、ええ、こんちわ。いやね、今日の用事ってのは小説のキャラの名前を決めてもらいたくてですね。東方出身の貧しいが腕っぷしの強い剣士なんですが。あっしの頭じゃもう考えきれなくて。早くしねえと電撃に間に合わねえもんで」


「そうは言いますがね、なかなかにキャラの名前といううものは難しいものでして」


「そこをなんとか! 戒名だと思って!」


「不思議な頼み方ですな。まあいいでしょう。いくつか提案いたします。ええ、中世ヨーロッパを舞台にした、東方出身の貧しいが腕っぷしの強い剣士でしたかな?」


「ええ、そうなんですよ」


「では、ダザイというのはどうでしょう」


「ダザイ?」


「これは非常にめでたい名前でしてな。人間失格、斜陽、そのようなネガティブな作品を残すことで多くのダメ人間に読書の喜びを与えたという」


「それは果たしてめでてえんですか?」


「では、クシロノタクボクというのは。これはですな、豪遊して借金をこさえて逃げてしまっても、良い句さえ残せば尊ばれるという非常にめでたい名前ですな」


「そうは聞こえないんだがねえ。他には?」


「クリームシチューというのがとてもめでたいですな」


「急にうまそうな名前になりやしたね」


「たとえきっかけが何でも、改名すると成功するということでめでたい名前になっとりますな」


「もっと厳かなのがいいかなあ」


「コクハクマツ リコンヲマツ サトリヲマツ……」


「それは何の呪文で?」


「青年が熊本から出てきてな、東京の美人な女性と両想いになったんだが告白できなかった。だが後に人妻となった彼女を手に入れ、その罪にさいなまれ寺に行くが悟りを得られない。『人生いろいろ』ということだ」


「いいんだか悪いんだかさっぱりわからねえんですが」


「じゃあこれはどうだ。カクヨムナロウニアルファポリ〇」


「なんで伏字があるんですかね?」


「他にごろのいいのを作者が思いつかなかったんですな。これは日々新しい物語が出てくるという非常にめでたい場所を表した言葉ですぞ」


「こじつけもここまで行くと尊敬しますわ。もっと続けてみてくだせえ」


「デンシショセキニ カミショセキというのは?」


「なにかの販促ですかい?」


「ありがたい言葉を残すには、デジタルがいいかなアナログがいいかなという話で」


「わかんねえですなあ」


「では、ペルンノダジボーグ ダジホーグノストリボーグ スヴェントヴィトトリグラフというのがありますな」


「いよいよ狂っちまいやがったのかな?」


「これは東欧神話の神ですな」


「もっと簡単なのはないですかい」


「うーん、ドフトエフスキーというのは」


「急にありそうなのでびっくりしちまいやした」


「これは作品がとても長いということで、長生きの象徴ですな」


「なんかそうも思えねえんですが。もう少し短いのは?」


「アガサはどうでしょう」


「もっと普通なの来た」


「こちらは世界中で親しまれておりましてな」


「いやあ、なんとなく序盤で人が死にそうな名前にも聞こえますが。いやもう、選べないですかね。いったん名前を全部書き出してくれませんかね。なかなか覚えられなくて。ええ、ええ、そうそう。確認してみますかね。


ダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツ カクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルンペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサ。いやあ、どれかには決めれねえなあ。もう全部つけることにしますわ」


「ええ、それは大変では」


「いえいえ、小説では長いのが流行りでね。これぐらいなんてこたあないでさア」


 そう言って男は家に帰ると、執筆を始めます。


「剣士の名はダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツ カクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルンペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサと言う。

 身なりは貧しいが、腕っぷしは強い。ある日、背後から声をかけられた。


『アンタはダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツ カクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルンペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサね!』


『確かに俺はダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツカクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルンペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサだ』


『ようやく見つけたわ、ダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツ カクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルンペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサ。あなたの名前を頼りに、この町まではるばる来たの。ダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツ カクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルンペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサ、私を守りなさい!』


『おいおい、ダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツ カクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルンペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサはそんな安い男じゃねえぜ、いいか、ダザイダザイクシロノタクボククリームシチューノ コクハクマツリコンヲマツサトリヲマツ カクヨムナロウニアルファポリ〇デンシショセキニカミショセキペルン……ハアハア……ペルンペルンノダジボーグダジホーグノストリボーグストリボーグノスヴェントヴィトスヴェントヴィトノトリグラフノドフトエフスキーノアガサってのは……』


ああいけねえ、名前が長すぎて、序章だけで規定枚数越えちまった」




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