この透き通る赫い春

甘幸

第1話 死亡、次いで再醒

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この地球は異能力蔓延る世界になっていた

異能力者が現れたのは2050年、始めは日本の千葉

確か…刃物による攻撃が通じなくなる異能力が通り魔事件で判明したんだったかな

異能力者はだんだんと増え現在は『2000人に1人は異能力者』と言われている


けれどそれは良い事と言える訳じゃない


確かに異能力が現れてから産業革命が起こって、異能力なしじゃ成り立たない程に社会は発展した


ただ、異能力者が現れると同時期に異形の怪物が現れるようになった


そいつらは異能力者の居るところに現れる

ついでに言えば異能力者が多ければ多いほど怪物も増えるし、逆を言えば異能力者のいない場所に怪物は現れない


異能力者が現れてから15年…2065年までは怪物が現れては異能力者がそれを倒す、そんなサイクルが続いていたけど…無論、何の犠牲もなしで倒されてくれる程怪物も甘くない

年間1000人は能力を持たない一般人が死亡、もしくは完治不可能な程の後遺症を負っていた


だから、日本では異能力者は隔離されるようになった


勿論、隔離と言ってもよくあるゾンビ映画みたいな隔離されて全員抹殺、なんてことは無いよ

むしろそんなことしたら殺そうとした側が全滅するしね

日本海の中心に、インフラの整った人工島が建てられて、異能力者全員がそこで生活を送るようになった


隔離されてあげて協力している以上、国から支援金も出るし、生活水準も一段階程上がる

それでも断った人がいるらしいが…全員不慮の事故で死亡しているらしいね


今は異能力者のみの人工島…『アルカディア』と呼ばれてるそれは、殆ど独立した1つの国として扱われてる


そんな世界の中、2124年

異能力の発現から74年経った今、浅先アサザキイコマは非能力者の普通の学生として、学校から家路に着いていた

部活やら委員会やらで時間が伸びに伸びて空はもう暗くなってる


スマホのライトを使って足元を照らしながら進んでいると、鼻の頭に冷たいものを感じる

どうやら雨が降ってきたようだ

怪訝な顔をして空を見上げる


コウモリのような翼、五指から生えたナイフのよつに鋭い鉤爪、のっぺらぼうのように何も無い顔面…そして何より

全身タイツでも着ているわけでは無いのに、色黒という訳ではない、文字通り真っ黒な地肌


まさしく、異形の怪物が空を飛んでいた


顔面になにもないのにこんな表現はおかしいかもしれないが、2人…いや、1人と1体の目が合う


「何で…こんな所に…嘘だろ、だってここは日本だぞ」


そんな独り言が闇夜に溶ける


次の瞬間、怪物は左手でイコマの頸を獲ろうとする

その翼は異常な速度でイコマに迫る

能力を持たない、通常の人間であれば避けることは不可能、そのままお陀仏だろう


しかし、イコマはそれを避けた


一般人なら避けられる筈がない、ならイコマは本当は異能を持っていて、それを隠しているのだろうか?


答えは否

イコマは異能を使えない

ならば何故避けられたのだろうか


それは、イコマが“元”異能力者だからである

何故か、イコマは後天的に異能力を失った


異能がないなら一般人と同じじゃないかって?


それに対する答えも否だ

異能力というのはエンジンのようなものだ

ただ、エンジンの種類は人それぞれ、メーカーが違う

エンジンだけなら、使えないだろう?

だから、エンジンを動かすガソリンのような役割の魔力も同時に存在する

そして、エンジンを通さずにガソリンだけを燃やすことで、1つだけ、異能力の効果とは異なる術が使える


『強化魔術』

そう称されるそれは、自身の肉体や自分の持っている物に魔力を流し、循環させることで魔力を通した物の格を上げ、強化するものだ


浅先イコマは、異能力を失った

しかし魔力まで失った訳では無い

自身の肉体に強化魔術を使い、身体能力を強化して怪物の攻撃を避けた


避けられた、ただそれだけだ

魔力がある、と言えど所詮異能力を持たない一般人

2撃、3撃と続く怪物の攻撃を避け続け、反撃をするのは至難の技だ


一分、経っただろうか

傷だらけの浅先イコマがそこに立っていた

いや、動くこともままならず、立っていることが限界だった

左目は抉られ、右腕は肘から先な切り落とされ、体中に擦り傷、切り傷がある


怪物は右腕を大きく振りかぶり、イコマの頸に向けた

1人の少年の頸は落とされ、彼の物語はここで終わる


ナレーターごっこはこんなもんにして、そろそろ私も動こうかな


私は自分の異能を使い、イコマの魂、意識とパイプを繋ぐ


―――――――――――――――――――――――

《SIDE∶浅先イコマ》


「あれ…此処は?」


目を覚まし、辺りを見渡す

どうやら此処は海の中のようだ

足元は砂浜、頭上を見れば3〜4m程上に海面が見える

衣服は何故か濡れていないし、息も苦しくない

なんなら水に浸かっている感覚もなく、普通に動ける


「やあ、イコマくん」

「お目覚めの所失礼するよ」


後方から声が聞こえる

さっき周囲を確認した時は人影なんて見当たらなかった

急に出てきたということは、瞬間移動系の能力者なのだろうか、あるいは…


「おいおい、無視するなよ?泣いちゃうぜ?」


「…誰だ?」


「つれないねぇ、折角助けてあげようとしてるのに」


黒いセーラー服、アルビノを彷彿とさせる真っ白な髪と赤い瞳

不敵な笑みを浮かべてこちらに近付いてくる


「助けるって、どういうことだ?」


「忘れちゃったのかい?君は怪物に襲われて死んだんだよ」

「だから私が蘇生してあげる」


「…人を生き返らせる能力、なんてものはないハズだ」


「理屈っぽいね、君。自分のこと頭いいと思ってる?」

「それに、まだ見つかってないだけでしょ」


「…なんで僕を助ける?」


「質問ばっかりだね、君」

「まあ良い、答えてあげるよ」

「私の名前は三廻部ミクルベだ、親しみを込めてミクちゃんって呼んでくれ」


「三廻部さん、何で僕を助ける?」


「話し聞かないねぇ君」

「それで、助ける理由だったかな」

「私も助けて欲しいからだよ、私は君を助けるから君も私を助けろっていう取引、等価交換ってヤツ?」


「助けるったって、何をすれば良いんだ?」


「嗚呼、それはね…」


曰く、現在彼女は強大な異能を持つが故にアルカディアの何処かに監禁され、実験体モルモットのように扱われているらしい

普段は培養液に入れられて異能が全く使えないが、五年に一度の液体の交換の際、拘束が少し弱まった瞬間に異能を使い、僕とパイプを繋いだらしい

元から特殊な縁のような繋がりがあったからこうして話せているが、僕を逃せばもう逃げられる手立ては無いという


「分かった、やろう」


「即答だね、さっきまで全然信用してくれてなかったのに」


「人が助けを求めてるんだ、断る理由なんて無いでしょ」


「普通の人なら、そんな風に考えないと思うけど」

「…まあ良いや」

「一度、これから少し説明をしてから君を生き返らせる」

「君だけが頼りなんだ」

「頼りにしてるよ、イコマくん」


―――――――――――――――――――――――《SIDE∶浅先イコマ》


目を覚ます、辺りに赤黒い液体が飛び散っている…が、自分の体に不調はない


「体が軽い…生き返るのと同時に老廃物でも全部消えたのか?」


そんなことを悠長に考えていると、背後から翼を羽ばたく音が聞こえる


「そうだ、先に倒さないとだった」


黒い怪物を前に身構え、強化魔術を身体に掛ける

元々、イコマの魔力量はあまり多くない

このままではこの怪物を倒すことなど、ましてやイコマが三廻部を助けるのは不可能だろう


だから三廻部はイコマとのパイプを通して自身の魔力を供給することにした

供給している間、三廻部は魔力を使うことが、異能を使うことが出来なくなるが元々拘束され異能を使えないので問題はない


これによりイコマは三廻部が持っていた無尽蔵の魔力を手に入れる

強化魔術は一度に使う魔力を増やせば増やす程強化倍率も上がる

そうは言えど、まだ一度に多くの魔力を使うことにイコマは慣れておらず、強化魔術は決定打にならなかった


「…よし、出来る、絶対出来る」

「最後に使ったのは八年前…勝手は違うだろうけど根本的な使い方は体が覚えてるハズだ」


三廻部がイコマに行った技は4つ

1つは蘇生、1つは魔力の供給

そして、残りの内1つは…



『強化魔術による、新たな異能力の発現の促進』



三廻部曰く、イコマは異能を発言させる才能がずば抜けて高いらしい

些細なきっかけさえあれば、こんなことをせずとも新しい異能力を開花させていたのだと


イコマが魔力を練る

イコマを中心にして砂塵が舞い、辺りに疾風が掛ける

新たな異能力の門出を祝うように、キリギリスの鳴き声が辺りに反響する

イコマの脳に、自身の異能力を示した概要、そしてそれを操る為の回路が刻まれる


「選り好みは出来ないな…と、思ってたが」

「まさかこんな能力になるなんて」


魔力を流し、異能を発動する


「初仕事だ、派手なの頼むぞ…」

「『澄んだ赫絶ワインレッド・マージナル』!」

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