俺は、死んでも強くなる。

ちょす氏

F級トレーナー鈴喜

 『俺、今日からE級になったっす!鈴喜さん!』

 『私も!』


 「おっ!良かったじゃないか!」


 冒険者ギルド。


 後輩たちがそう元気よく見せてくる冒険者プレートには格好良く"E級"と刻まれた冒険者プレートがあった。


 だが俺は、チラッと二人のステータスを隠しつつ掌で蓋をして裏返す。


 「ったく。ここは冒険者ギルドの本部だ。誰が見ているかわからないところでは?」


 『『見せびらかせない!』』


 「⋯⋯そうだ。俺も甘くしたいところだが、流石に進級していった二人をニュースで名前を見るのは嫌だからな」


 『ごめんなさい〜』

 『今度から気をつけます!』


 「みんな初めはそういうがな⋯⋯気付いたら文句言われるようになるのがトレーナーって奴だ。そうだ、二人は飯行ったか?」


 首を振る二人。

 まぁこれくらい良いだろう。


 「記念に焼肉、奢ってやるよ」


 『本当!?』

 『うしっ!』


 それぞれ男女らしく大きくガッツポーズ。

 良かった良かった。


 


 「ところで鈴喜さんは、なんでトレーナーの仕事を続けているんすか?」


 楽しく喋りながら焼肉を満喫している最中、彼⋯⋯清田大悟が質問してくる。


 「俺に才能がなかったから。未だにD級以上の塔に入る事ができないからだ」


 「⋯⋯なんかすんません」


 そう気まずそうにへこへこ謝罪する大悟くんに俺は手で謝るのをやめさせる。


 「良いんだ。もうこんな歳だ。慣れっこさ」


 そして彼女⋯⋯道中綾香も会話に入ってくる。


 「でも鈴喜さん、色々初心者からの評判良いし、指摘も凄い有り難いのに」


 「ありがとう道中さん。でもこれが、現実ってやつかな」


 そうだ。

 自分も彼らのようになれると思ったあの日から、もう年齢は40を超えた。


 「私は鈴喜さん⋯⋯かっこいいなって思います!」


 「俺もっす!!」


 「ははは、有り難いお言葉だよ⋯⋯⋯⋯本当」


 窓際が見える春先の夜空を見上げ、俺は悲しく呟いた。


 その後別にしんみりとした雰囲気になることはなく、普通に食べ終え、駅前で解散。


 「別に気にしてないならいいんだけど、道中さんは彼氏とか男避けになる人はいるか?」


 「あっ、兄が!」


 「それなら良かった。大悟くんも一人で平気かい?おじさん臭いけど、春先は変わり目で物騒だからね」


 「うっす!問題ないっすよ!E級になったし、チョチョイのちょいっす!」


 「馬鹿っ。そういう奴が真っ先危ないんだから」


 大悟くんの額を手慣れたスナップで笑って引っ叩くが、どこか柔らかい笑みを浮かべている。


 「さて、俺はこっちだから、二人も気を付けてね」


  「「はいっ!!」」


 さて、帰りにコンビニチキンでも買って帰ろうかなーと、暫く歩いた時だった。


 「「鈴喜さーーん!!」」


 そう呼び掛けられ、思わず立ち止まって二人の方へと振り向く。


 「どうしたー?」


 「「ありがとうございましたー!!」」


 「この半年間、人生で一番楽しかったでーす!」


 「俺、鈴喜さんみたいに後輩が出来たら優しく教えられるように頑張れる先輩になるっすー!!!」


 ⋯⋯⋯⋯。


 「あぁ。二人共、命だけは大切にするんだぞ」


 「「はーい!!!」」


 「⋯⋯ありがとう」


 少し目頭が熱くなったが、それは花粉症のせいだろうと、なんとか自分に言い聞かせて⋯⋯自分の家へと夜の街に消えて行った。





 ピピピ、ピピピ。


 目覚ましアラームが2回鳴ったところで全力で止める。


 朝の4時。俺は起床する。

 白湯を用意して顔を洗って口をゆすぐ。

 終わったら300mlの白湯を喉越しよく飲みきったら、続けてデカめのタブレット端末を開いて自分が立てたスケジュールを確認。


 「今日は休みか⋯⋯」


 と、事務用チェアにゆったりと腰を下ろす前に。


 「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ」


 『おはよう、おじさん!』


 「あぁおはよう!部活頑張れよ!」


 俺は毎朝欠かさずランニング混じりにジムへと向かい、1時間きっかり部位別のトレーニングが終わるとまた家まで走って帰るのが日課だ。


 これは少しでも体力が付くことを願っての事だ。

 体感微妙に増えてるくらいしか感じないが。


 休みだからといって、いつものスケジュールをやらない事はない。

 日本のニュース、英語のニュース、全て確認し、変わったことがないかチェック。


 「お、あの悪徳クラン遂に解体したのか」


 と、まぁ⋯⋯コーヒー片手に朝の確認はこんな感じで進む。

 

 俺の名前は鈴喜太郎。

 今年で45歳になるF級トレーナー兼、E級冒険者でもある。


 少し自分の話を聞いてくれ。




 ⋯⋯この世界は変わった。

 というより、一気に変わったという方が正しい。

 科学文明はある日突然終わり、空から大量のモンスターと、突如として、場違いで⋯⋯そして荘厳なタワーが現れた日──全ての日常は崩れた。


 当時小学低学年だった自分は、勉強も運動も文武両道で続けてきた自分だが、この世界に"ステータス"という数値が付けられた事で努力ではどうにもならない所が出来てしまった。

 ステータスはの説明は簡単で、力や速さなどの情報が自身の意思で閲覧できるようになるようになったのだ。その日から。


 不幸な事に、元々身体能力は努力でかなり向上していたのだが、ステータスというのを付与されてから⋯⋯どれも最下層のFだった。


 周りから嗤われたり、虐めなんかもあったりもした。だが俺はめげずに人生を無駄にせずに毎日毎日飽きる事なく努力し続けた。


 理由?子供の時の憧れってやつさ。


 タワーが出来てから、様々な社会構造が変わったのはわかるだろう。

 そのタワーというのが、中に魔物、またはモンスターと呼ばれるファンタジー生物たちが住む場所で、わかりやすく言うと、間引きに近い行動をしないとタワーから外に出ては人類を狙って喰ったり建物を破壊したりする⋯⋯まさに害悪生物が溢れだすんだ。害悪だろ?

 

 そんなタワーから溢れだす現象⋯⋯通称"モンスターフラッド"と呼ばれるんだが、その時俺は偶然家族と一緒に旅行していて、その瞬間を目の当たりにしたんだ。


 誰がどう見ても地獄の光景だった。

 一瞬にして建物は崩壊し、車も道路も、人も全て刹那の瞬間に血飛沫だけが映って、その時初めて人生で絶叫という声を発した。


 ⋯⋯その時に両親が俺を庇ってただの肉片になったのはトラウマだ。


 まぁそんな地獄みたいな状況なその時。


 死に瀕した俺を、初めて冒険者なんていう人たちに遭遇して、名もない冒険者たちが颯爽と、ビューンって剣で倒してたのを見て、それが凄くカッコよくて⋯⋯ふっ。なーんていうよくある話さ。


 この歳になってからそんな話をするのは中々に恥ずかしいものがある。

 

 まぁそんな訳で、そこから自分の人生はこうだー!って決まったと思った。


 ──だが周りの反応はお察しの通り。


 多少モテていた自覚もあったし、容姿もそこまで悪くないのは理解していたが、環境と言うやつが変わったせいで、周囲の目も変わったってわけ。

 

 ⋯⋯⋯⋯だが俺は、決して諦めなかった。


 中学生になっても。

 高校生になっても。

 

 毎日ランニングしてジムへ通い、将来の自分の為に英語の勉強と動画配信サイトで英語を話している人の動画を見て死ぬほど頑張った。

 ⋯⋯ま、ステータスはEとかDになったくらいだけど。


 と、ある程度行けるようになったら別の言語。

 教科書の内容も大幅に変わっていく頃、アンテナを張って様々な必要な資格を学び、取得していった。


 魔物の弱点だの同じ魔物でもこういう特性があるよーみたいなのも、沢山勉強した。

 実践も努力の甲斐あってなんとか大人になってから戦えるようになるまでに至った。

 ⋯⋯ま、といっても俺みたいなのは中々いないらしいからこんな目に遭わずに済むらしいが。


 長ったらしくてごめん。

 どうしても、昨日の言葉が嬉しくてつい一人で語っちまった。


 ⋯⋯そうだよな。いつまでも子供みたいな事言ってないで、さっさと現実見ろってな。


 今でも生活していけるくらいの稼ぎはある。

 冒険者トレーナーを辞めて、翻訳の仕事や事務系の職にだってつける。

 当たり前だが冒険者だけの世界ではない。もっと色々あるはずだ。


 今だって稼げてはいるが、多くはない。

 しかも、BETしているのは──己の命、なのだから。


 でもあの日から、俺は冒険者に関わる仕事がしたいって決めたんだ。

 あの眩しいくらいのカッコ良さに、憧れてしまったんだ。

 

 そう思って数十年がたった今でも、俺はめげずにこんな事をしている。


 ⋯⋯それが俺、鈴喜太郎だ。

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