酔拳2

羽弦トリス

第1話出会い

飢えていた。その若者は飢えていた。

店に入店した。

黙って席に着く。

店内で、店員が、

「カニ玉定食、リャン!」

と、叫んでいた。店内は混み、若者が水を飲んでいると、頭頂部の剥げた男が相席を申し込んだ。

この男、金のネックレスにロレックス。若者は、そのオジサンが金持ちだと確信した。

オジサンは新聞を読みながら、紹興酒と餃子定食を注文した。

若者は、ビール、餃子2人前、醤油ラーメン、チャーハン、フカヒレスープを注文した。

テーブルに料理が並ぶと、待ってましたとばかりに、食べ始める。

ラーメンをすすり、チャーハンを食べ、スープで流す。

時折、ビールを飲み、餃子を口にする。

新聞を読んでいたオジサンは、

「君、良く食べるね?」

と、若い男に言うと、

「はい。ここは、うちの親が経営する店なので、腹一杯食べられるのです」

と、答えた。

「……親族か?なら、もっと食べなさい」

と、オジサンはメニューを渡した。

追加で、豚足、味噌ラーメン、天津飯を注文した。

あっという間に食べ終えて、店を出ようとした。

すると、店員の男が、

「お客様、まだ、お支払いが……」

と、言うと、

「あ、支払いはあのテーブルの父親が払いますから」

「父親?」

「うん。父親だよ」

「クソガキ!食い逃げだな?あのオッサンは、俺の親父だ。ピンちゃん」

と、言うと、ガタイの良い大男が現れた。大男は若者の胸ぐらを掴み、持ち上げようとした。若者は、大男の足の甲を踏みつけ、手が離れると出口に向かった。しかし、数名の男が現れ、襲ってくる。

店内で乱闘が始まった。多勢に無勢。若い男はついに取り押さえられた。

すると、突然、大男が昏倒した。

大男は鼻の頭が赤いジイサンに後頭部を殴られたのだ。


「兄ちゃん、見てな。闘いとはこう言うもんだ」

ジイサンはバッタバッタと男どもを殴り倒す。

ジイサンの身体はいつも左右に揺れている。

「兄ちゃん、酔拳とはこう言うものだ」

と、言った。若者は黙って立ち尽くしていた。

ジイサンは、店員に若者の代金まで支払い店を出た。

「もしかして、あなたは酔拳の達人、チェン・パイさんで無いですか?僕はゼットリー・チェンです」

ジイサンは立ち止まり、

「若造、良くワシの名を知っておるな」

「チェンさん、僕に酔拳を教えてもらえませんか?3年前、悪党に父親を殺されて、必ず仇を取りたいんです」

「……フン、仇か。しかし、ワシは弟子は取らん」

「あ、そうッスか?じゃ」

「待て待て、何だ?ゼットリー・チェンだっけ?諦めるのが早いよ」

「じゃ、弟子にしてくれるんですか?」

「弟子は、取らん」

「お疲れ〜ッス」

「待て待て、すぐ行くなよ!こんなドラマなら、若者はしつこく、師匠にすがりつくんだよ。何だっけ?お前は父親の仇を取りたいだんだろ?背負ってるのが、重いよな?」 

「僕、原作を見てないZ世代なんで、わかんないんすよね」

チェン・パイは椅子に腰掛けた。

「実を言うとな。ワシも昔、家族を悪党に殺されてな。仇を討つために日夜修行に励んだもんだ。それから見ると、ワシとお前は境遇が似てい……!!」

ゼットリー・チェンは、うまい棒を食べていた。

「マジか〜。マジでか〜。絶対、食べちゃいかんシーンだろ」

「いいじゃないッスか。舞台は日本なのに、中国にありそうな名前じゃないッスか。僕を弟子にしてくれるんスか?」

「お前に、その気があれば、しかたない弟子にしてやる」

「あざーす」

「軽い!。軽いんだよなぁ~。よしっ、どうでも良い。修業じゃ」

「あ、今日はダメっす」

「何で?」

「土日祝は休みにしたいんスよ。労働基準法にもありますから、働き過ぎは違反スよ」

「働き?修業じゃねぇか!」

「えっ、師匠の弟子なんだから、時給1500円で!」

「もう、何なんだコイツ!引くわ〜」

「じゃ、月曜日から宜しくッス」


こうして、一組の師弟が生まれたのである。

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