Ghostope
絵空ハル
0. Memoirs《メモワール》 → Moment《モーメント》
「ねえ、もし私が死んだら、生まれ変わった私を探してくれる?」
「
「英語でリィンカーネーション」
「別に英訳して欲しいわけじゃないけど。まあ、君がまた存在するなら、探すだろうね。そんな夢みたいこと、あるわけないけど」
夏の日差しが降り注ぐなか、彼女が冷房以外で涼みたいというから、僕達は少し遠出して河原にピクニックに来ていた。小鳥がチチチと
「あら、素敵じゃない、生まれ変わり」
「それは、一個体としての魂を持ったまま別の生物に転生するって意味かい」
僕はしばらく考えてから美鈴が何を言いたいのか確認する。輪廻転生とは、死んだ者の魂が死者の国に行き、一定の期間を経て生まれ変わることを意味する。その時、その魂の情報が維持されたまま次の生を迎えるのか、あるいは全く別の魂に刷新されてしまうのかで輪廻転生の意味合いは大きく変わってくると僕は思っていた。
「それも含め、あなたの見解が聞きたいわ」
「僕は死生学者ではないよ」
「だからあなたに聞くのよ」
「ふうん」
「観測結果と仮説理論に基づいた見解よりもあなたの感情に基づいた回答を期待するわ」
僕は美鈴が腰掛ける大きな平らな石の上によじ登ると、彼女の隣に腰掛けた。初夏の日差しが石を照らし、まるで熱されたフライパンのようだ。確かに足を川の流れに任せるのは気持ちがいいかもしれない。
「最近の学説では、死者の魂は他の死者の魂と混ざり合ってしまって、境界はなくなってしまうとされているよね。だから、魂が生まれ変わりをしたとしても、前世の記憶も、情報も、何もかもが失われてしまう」
「そうね。輪廻転生を果たしたとしても、それは別の誰か。それはこの川の流れと同じ。今私の足に触れた水はやがて下流に流れ、海へと溶け出す。そうなってしまってはもう私の足に触れた水を抽出することなんてできない。例え色を付けていたとしても、大海に出てしまってはもう色なんて分からない」
彼女の白い足には水滴が輝いている。何だか背徳感を覚え、僕は彼女の足から目を逸らす。
「そうだね。でも、それでいいんじゃないかな。もし、魂が他の魂と混ざり合わなければ、人間の多様性は失われていたよ。だって、ずっと同じ人が生まれ変わることが有り得てしまうわけだろ。僕は、嫌いな人が死んだ後、また生まれ変わって出会うなんて御免だな」
「あなたは人嫌いが過ぎるわ」
「君のことは好きさ」
「知っているわ」
美鈴はクスリと笑ってこちらを見る。長い黒髪がさらりと風になびいた。
「私もあなたが好きよ。だからこそ、こう願ってしまうのかもね。あなたとずっと一緒にいたい。来世でも、そのまた来世でも……。輪廻転生が学説通りなら、私達が一緒にいられるのはこの一生だけ」
「美鈴は案外ロマンチストだね」
「あら、恋する乙女はみんなロマンチストよ。それで最初の質問だけれど、生まれ変わった私を探してくれるかしら」
僕達は数秒間、見つめあった。その後、唇と唇を寄せ合い、口づけを交わした。辺りには川の流れる音だけが響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます