央芭内君の心拍数を上げないでください駒子さん!!

ゆーさん、

第1話 おばあちゃん系男子央芭内君

2のBクラスには少し変わった男子がいる。

それは窓側の一番後ろ、央芭内紅葉おばないもみじ君。彼はおばあちゃん系男子なのである。





入学して1日目に行われた自己紹介、ほとんどの男子はサッカー、アイドルのおっかけ、カードゲームなど人それぞれではあるが一応男子高校生らしいものを答えていくなか、最後に回ってきた央芭内君は落ち着いた声で編み物と芋ようかんが好きなこと、そして和食が作れることを話し、極めつけは


「あ、暇な時は新聞紙でごみ箱を作ることが多いです」


と答えた。

それを聞いたクラス一同を代表して一人の男子がこう言った。


「がちのおばあちゃんじゃん!!」


これが彼が2のBのおばあちゃんとして確立された話である。






「おばえも〜〜〜〜ん」


「うわっどうしたんですか川瀬君?」


「俺今日寝坊して朝ご飯食いそびれて、今日も多めに持ってたらくれないか!?」 


「あはは、相変わらずですね。いいですよ」 


今日も教室に入ると央芭内君の周りにはやんわりと人だかりができていた。初めは女子みたいと冷やかしていた一軍男子も内面もおばあちゃんのような性格の彼の手にかかれば、太ももの上で眠る猫のようになついていった。


「ん〜〜このかれいの煮つけうめーー!!!おばえも〜〜ん肩もみするよ」


ちなみに冷やかしていた一軍男子がおばえもん呼びするこの川瀬君である。



「やっぱ央芭内君いいよね〜大人っぽいっていうか」


「顔良しスペック良し性格良し」  


「趣味はババ臭いけどね」


後ろを向くと反対側で今度は女子が集まり央芭内君の話を始めた。その顔の良さと物腰柔らかな性格から狙ってる女子は数多といる。

ちなみにこれだけ語っているが私は別に彼を好いているわけではないので間違えないように気をつけてください。


だが央芭内君の話に花を咲かせてる女子達に混ざって否定的な声が聞こえた。


「やめなよ。だって央芭内君って……」


「え、それまじで!?」


央芭内君は聞いた所によると今は彼女がいない。つまり女子達は彼を捕獲し放題なのだが実際に彼に声を掛けた女子は初日以外ほぼいない。それには理由があった。



彼らに目線を戻すと川瀬君は遠慮をしらず、おかずのほとんどを食べていた。


「な〜央芭内、もう一個、後もう一個」


「もう一個ってそれが最後の一つじゃないですか、もう食べちゃってください」


「あざ〜す!うま〜」


「それは良かったです」


「私も食べたい」


「あぁごめんなさいもうなくて、…うぇ?

あギャァァァァァ!!!!!??」  


突然の絶叫が聞こえたかと思うと今度は床に転げ落ちた音がした。その発生源は今話に出てきた央芭内君でありその横には川瀬君、そしてもう一人小さい女子生徒がそこにいた。 




 央芭内君は起き上がり彼女を確認すると、さっきまでの落ち着いた雰囲気は消え去りそこには慌てふためく男子高校生いた。



「ここ、こここここ駒子さん!急に現れないでください!びっくりします!!」


「私も煮つけ食べたい」


央芭内君の言葉をスルーしマイペースに話す彼女は駒子さん。この人こそが央芭内君に近づこうとする女子がいない原因である。


駒子桜こまごさくらさん。話したことはないが、どうやら孫キャラらしく甘え上手なことで有名だ。よくこうやってきては央芭内君と話しているため、みんなは「おばまごコンビ」と呼んでいる。



駒子さんは央芭内君にさらに近づき、再度煮つけをねだっていた。彼女が近づくたび「あ、ぁ」とまるでカオナシのように人語が喋れなくなっていくのでみかねた駒子さんは今度は近くにいた川瀬君に話しかけた。


「ねぇ私も煮つけ食べてもいい?」


「あ、わり俺全部食べちゃった」


川瀬君がそう言うと駒子さんは無表情ながらもその大きな目がゆっくりと潤んでいった。

あ、泣くかもと思った時、




「ああああああああああああああああ!!!今から作るから!!調子室借りて作ってくるから!!あ、それまでお菓子食べる!?えっと確かここに、どら焼きと、せんべいと、かりんとうと、」


二度目の絶叫を終えると央芭内君はすごい勢いでバックを漁り、次々に和菓子をさしだしていった。

普段は穏やかで物腰低い央芭内君が今は別人のように川瀬君に掴みかかり、なぜ全部食べたんだと問いただしている。後ろを見ると、さっき大人っぽいと言った女子達ははその光景を目を点にしてその光景を見つめていた。 


これが彼の本性。そう、央芭内君はこの駒子さんが絡むと途端にポンコツと化するのだった。私も初めて子の状態を見た時は、次の授業がすっかり抜け落ちるぐらいの衝撃を受けたが今ではすっかり慣れた。


最初は女子に免疫がないだけかと思ったのだが彼がおかしくなるのはこの駒子さんが関わるときだけなので、この光景をみてほとんどの女子は察し、離れていくのである。




そして現在、駒子さんはお菓子を食べれて満足したのか央芭内君の机で寝てしまい、央芭内君はそれに気づかずまだ川瀬君を肩をガグガク揺らしていた。


「は!こうちゃいられない!!すぐかれいを釣ってこないと」


「今から!?もうすぐ授業はじまるぞ!!」


川瀬君が止めようとしたが耳に入っておらず、どこから取り出したのか釣り竿を持って廊下に出ようとしていた。そのとき、 


「どこ行くの?」


細い腕二本が彼のブレザーの裾を掴んで引き止めていた。それはさっきまで寝ていたはずの駒子さんでいつの間にか机から教室のドア付近に移動していたのだ。    

  

「あぅ、かれい釣ってくるから!」


急に引っ張られたことに驚きつつも央芭内君が答えると駒子さんは少しムッとした顔をして央芭内君に質問をした。

 

「どのくらいかかるの?」


「え?まぁ釣れるまで?ですかね」


「じゃあいらない」


「え!なんで!?」


慌てる央芭内君とは反対に駒子さんはまっすぐ彼の目を見つめはっきりとした声で言った。





「君がいないほうが悲しい」


教室にいた誰もが二人の会話に釘付けになり、一言も発しなかった。数秒見つめ合う二人、静寂の時間が永遠のように感じたのもつかの間、





「はぐあぁっっ!!!!!」


央芭内君は三度目の奇声を発したかと思うと胸を押さえすごい勢いで後ろに倒れ込んでしまった。

その様子を見た駒子さんの顔は落ち着いていた。


「私帰る、またね」


そう言って駒子さんはぱっぱと教室へ戻っていった。残された央芭内君は床に倒れたまま動かない、おそらく気絶しているのだ。


「あ〜央芭内のやつまたかよ、誰かー運ぶの手伝って〜」


「ほんとあんなに騒いだら血圧も上がるから気をつけろって言ってるのに」


「一応俺等と同じ高校生だよなこいつ」


先ほどまで肩をすごい勢いで揺らされていた川瀬君は他の男子を呼び央芭内君を保健室へ運んでいった。   


これがおばあちゃん系男子、央芭内紅葉の実態なのである。二人が恋人同士なのからはたまたただの央芭内君の片想いなのか、真相は本人達しか分からない。しかし、とりあえず私の言いたいことは   




央芭内君がいつか死しそうで怖いのであまり心拍数をあげないであげてください駒子さん。





記録者 2のB 赤松遥あかまつはるか

本日の心拍数  120前後









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