黒闇姫〜殺意の行方〜

月歌

第1話 殺したい人間

◆◆◆◆◆◆




殺したい人間がいる。


でも、その人間は僕が殺意を抱いているなんて思いもしなくて・・・


僕に無防備な笑顔を向ける。

僕はその顔を見るたびに、胸がぎゅっと痛くなる。


お前は僕が自室の鍵の掛かった机の引き出しに、ナイフを隠していることをしらない。


お前の腹部に煌くナイフを突き刺す空想に浸って、僕が性的快感さえ得ていることを知らない。



この世から消えて欲しい奴がいる。

大好きだった恋人の心をあっさりと奪い取った僕の親友。


「ごめん」


そんな一言で、僕に彼女を諦めろと迫る。


お前は知っているんだよな。

僕がお前に逆らえない人間だって。


僕はお前と違って孤独な人間だから、友達なんてお前しか存在しないから。



お前と縁を切ったら、僕はまた暗い孤独な人生を送ることになる。

お前から離れられない。


一人になりたくない。


なのに、お前から解放されたいとも思っている。


弱い僕の心に、するりと付け込むお前。

僕の彼女を盗ったくせにまだ親友のふりをする。


「許してくれるよな?」


お前の言葉に、僕は頷いた。

僕は、心に殺意を抱きながら笑顔を浮かべた。

これからも・・・孤独でつまらない人生を送るなら、いっそ本当につまらない人間になってもいいんじゃないのか?

動機は単純。


恋人を奪われたから。


凶器はナイフ。



馬鹿馬鹿しい。


こんなことぐらいで人を殺していたら刑務所は満杯になるよな。

でも、どうしてだろう?


僕は、お前を殺す空想をやめられないんだ。



もし、僕が冷酷な犯罪者になれるなら。


なりたい。


僕はお前を殺したいよ。

殺したい。




◆◆◆◆◆◆

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